第131話









 アルティは入れ替わるとすぐにモンスターの身体を縛っていた拘束の魔法を解いた。



 モンスターは身体の主導権を取り戻して一旦離れた。あの時、既にレインの左腕のみを操って魔法を使っていた。このまま斬り裂いても勝てたけどレインの成長の為に敢えて解除する。



「さてと……レインの為に色々教えてあげたいけど、この状態を長くやり過ぎると痛みで身体が爆発するだろうから手短にしないとね」



 自分の声が勝手に物凄い怖い事を言い出す。背後で自分を見ているレインは動揺する。身体が爆発するなんて前は言ってなかった。



「ほら来なよ?よくもレインの命を脅かしてくれたね?」



 アルティは手招きする。モンスターに感情があるのか分からない。しかしモンスターはそれに応えるようにアルティへと突撃した。



「〈魔王のサタンズ――〉」 



 アルティは何かを言いかけたところでやめた。モンスターの剣は目の前まで迫る。



 "アルティ!!"



 しかしアルティはモンスターの剣を素手で受け止めた。刃はミシミシと音を立てる。モンスターは必死に引っ張って抜け出そうとするが、刀剣はビクともしない。



「あー危ない危ない!いつもの癖で魔王の魔法を使うところだった。この身体でやっちゃうと終わってたね。普通の魔法にしようかな」



 アルティはモンスターの抵抗を物ともしない。モンスターすら見ていない。遠く見て呟いている。



 するとモンスターは抵抗をやめて剣を手放して離れた。そしてすぐに別の剣を召喚した。



「あら?ハハハッ……くれるのかい?」



 アルティは剣をモンスターへ向ける。モンスターはもう一度アルティへ向けて突撃する。



「でも要らないから返すよ」



 その言葉と同時にアルティが持っていた剣が消えた。そしてその剣はモンスターの身体の中心、心臓の位置に勢いよく突き刺さった。



 モンスターは何が起きたのか分からない様子だった。その場で動きを止めて自分の身体を見ている。



「ああッ!!またやってしまった!普通の魔法も癖で無詠唱にしちゃうねぇ。……とりあえず後でまとめて説明するからちゃんと覚えててね?」



 やはり自分の声でその口調は本当にやめて欲しい。他の人に聞かれてしまうとどうしたのかと心配されそうだ。



 モンスターは自分の身体に刺さった剣を引き抜いた。穴が開いた身体はすぐに再生して塞がった。



 "心臓を刺しても死なないのか?!ならどうやったら死ぬんだよ!"



「アイツには核があるんだよ。身体の中をそこそこの速度でウロウロさせてる。それを壊さないとゆっくり再生していく感じだね」


 アルティはレインの疑問にさも当然のように答えた。レインは一瞬何を言われているのか分からなかったが、すぐに理解してもう一度問いかける。



 "なんで分かったんだ?それにあの再生速度は全然ゆっくりじゃないだろ!"



「見たら分かるでしょ?明らかに変な魔力の塊が動いてるしね。それにあの再生速度ってそんなに速くないでしょ?全然ゆっくりなッ」



 アルティが言い切る前にモンスターは再度斬りかかる。しかしアルティはモンスターの方を見る事なく少し身体を逸らして避けた。そしてモンスターの顔面に一撃を入れる。



 モンスターは吹き飛び近くの木に身体を打ちつけた。木はミシミシと折れそうな音を立てる。そのままアルティはモンスターの背後に移動し、後ろからモンスターの頭をフードの上から鷲掴みにしてもう一度木に打ちつける。



「今は私がレインと話してるんだ。時間がないってのに邪魔すんなよ」



 バキッ!――アルティはさらにもう一度打ち付ける。木はその部分だけ大きくひしゃげた。アルティは木にめり込んだモンスターの頭を鷲掴みにしたまま話す。


「この身体はいいね。でも大きいから力を込めればちゃんと掴めるね。私自体は普通の女性と体格が変わらないからこういうのは普通に憧れるよ」



 アルティは掴む力をさらに強めた。モンスターの頭はメキメキと嫌な音を発する。

 

 モンスターは剣を逆に持ちアルティを刺そうとするが、その直後に頭が握りつぶされた。血液などは出ず、水が飛び散っただけだった。



 それでもモンスターは死なず頭がない状態でアルティへと斬りかかった。しかしアルティはモンスターの腹部に蹴りを入れる。モンスターは木を突き破って奥へと転がって行った。



「うーん……レイン、こんなのに苦戦してるようじゃまだ未熟だね。もうコイツは殺しちゃうよ?傀儡にしてもいいけど……剣しか使えないだけの奴は魔力の無駄遣いだね」



 "ま、任せ……ます"



「ああ……あと1つアドバイスしようかな?アンタはもう肉体は完成してるよ。あとは限界を超えた状態を維持するんだ。

 なんでか知らないけど、この短時間で力に関しては合格ラインだね。あとは速度を意識するんだね。そうすれば〈強化〉のスキルも完成するじゃない?」



 "分かった。やってみる"



「うんうん!素直なのはいい事だね。……じゃあ戻ろうかな。すぐに痛みで動けなくなるだろうし、腕も折れてるからね。

 ちゃんと治療してもらうんだよ?……と言っても大丈夫そうだね。すぐ近くまでお仲間たちが来てるみたいだし」


 レインの意識は徐々に身体に戻ろうとしている。ただまだモンスターは生きている。既に回復して立ち上がっている。



「あー……忘れてた」



 アルティはモンスターの方を一瞥し、指をパチンと鳴らした。するとモンスターの上から何かが降ってきたようにモンスターは押し潰された。


 水が弾けるような音が聞こえてその場に綺麗な正方形の窪みが出来た。



 その場には窪みを満たすように水が溢れ出していた。アルティが指を鳴らしただけでモンスターは水へと帰された。



 それと同時に自分の身体に自分が戻ってきた。そしてそのまま地面へと倒れ込む。左腕の激痛が戻ってきた。その痛みはすぐに全身へと広がる。



 以前は耐えられた。しかし今は元々の疲労も相まって動けなくなった。地面にうずくまり、小さな呻き声を上げる事しかできない。



「レインさん!」



 しかしすぐに人が来てくれた。いつも聞く声が近付いて来る。ただその声にレインは返事が出来ない。



「レインさん!レインさん!本当にごめんなさい。私を助けてくれたのに私はレインさんを助けられない。本当にごめんなさい」


 ニーナに抱えられるように起こされる。レインは返事をしようとしたが、うまく声が出せない。



「すぐに……アラヤさんの元へお連れします!治療しないと!アラヤさんはどこですか?」



 ニーナは一緒に来ていた覚醒者に声をかける。



「今は……おそらく海岸の方にいらっしゃるかと……彼女はここにいるAランクの中でも1番強いのでSランクの方々と一緒にいるようです」



「分かりました!そこまでレインさんをお連れします。手を貸してください」



「了解です!」



 レインは両肩をそれぞれの覚醒者に支えられ海岸へと向かう。痛みのせいで意識をずっと保てていたのは助かった。ここで気絶すると乗り切れないかもしれない。


 

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