第132話








◇◇◇



「レインさん……治りました」 



 覚醒者たちはすぐに海岸へと運んでくれた。指揮所に行ってから阿頼耶を呼んでいたら時間がかかるから直接海岸へ運ばれた。



 砂の上にゆっくり寝かされすぐに阿頼耶が回復スキルを使用した。合わせて体力回復のポーションも用いて回復を手助けする。



「…………ありがとう……助かったよ」



 ここまでしてようやく会話が可能なくらいには回復できた。しかし疲労はほとんど癒えない。全身が鉛のように重く頭痛もひどい。



 "アルティもありがとう。また助けられた"



 "またいつでも頼りな。ダンジョン内なら何とかしてやれるからさ"



 "ああ"



「…………でも疲れたな。魔力もギリギリだ。しばらくはちゃんと動けないかも」



 レインは今の自分状況を伝える。ヴァルゼルが数回破壊されたせいで魔力も一気に減ってしまった。これ以上は騎士たちを一気に破壊されでもしたら枯渇する。


 ここで無理をしても意味がない。今はモンスターも上陸して来ていない。少し休みたくなった。


 

「大丈夫です。私が守りますから」



 そう言って阿頼耶はレインの頭を少し持ち上げて膝を入れる。要は膝枕の状態だ。下は砂浜で柔らかいベッドの上にいるようだ。



「なッ?!アラヤさん!」



「「「おおーッ」」」



 阿頼耶の行動に周囲からも声が漏れる。もう反応するのも面倒になっていた。阿頼耶も当然周囲の反応など気にしない。少し微笑みレインの頭を優しく撫でる。


 その心地よさにレインは身を任せる。別に眠たい訳ではないが目を閉じる。その光景を見て誰も口出し出来なくなった。


 だがここはSランクダンジョンだった。甘くはないし、この場を見ているであろうダンジョンのボスの目的はレインたち覚醒者を始末する事に変わりはない。それがダンジョンというものだから。



「敵襲!」



 少し離れた所にいた覚醒者が叫んだ。その声にレインも反応して起き上がろうとする。しかしうまく身体が動かない。疲労の蓄積で身体が言う事を聞かない。



「た、大軍だ。トドメを刺しにきたのか」



 誰かがそう呟く。それも納得出来るだけのモンスターが1つの方から真っ直ぐこちらへ向かって来る。



 完全武装の巨人が数十体はいる。赤い布のモンスターも巨人の合間を縫うように走ってこちらへ向かって来ている。


 

 その後ろにはあれだけ苦労したドラゴンも数体いる。あのモンスターでレインを始末する、無理でも消耗させて残りを大量のモンスターで制圧する。何とも理にかなった作戦だった。



 レインの傀儡には頼れない。ここからは純粋にレインを除いた覚醒者のみで戦わないといけない。しかしここまでレイン以外の覚醒者たちが何もせずレインに頼り切っていた訳じゃない。



 それぞれが自分の役割を理解してしっかり行動していた。レインが目立っていただけだ。だから全員が消耗している。今からあの大軍を相手にどれだけ戦えるだろうか。



「クッソ……俺が……」



 レインは阿頼耶から離れ剣を取り出す。それを支えに立ち上がる。〈最上位強化〉のスキルをもう一度発動して無理やり身体を支える。



「レインさん!無茶です!そんな状態ではとても戦えません」



 阿頼耶はふらつくレインの身体に寄り添い支えた。もはやスキルと杖代わりの剣を持っても立つ事さえ難しくなっていた。



「じゃあ……あの…ドラゴンは誰が……倒すんだ?俺が……やらないと」



 頼れと言われたがドラゴンを倒してくれとはとても言えない。あのドラゴンと正面切って戦えるのは、この場においてはレインだけだ。



 だがドラゴンの動きは先程と違っていた。遠くからこちらを見ている。こちらの攻撃は距離があり過ぎて届かない。それとは逆に赤布や巨人は真っ直ぐ進んでくる。


 全員が構えているが、迎え討とうと前に進む者はいない。

 


「お前ら!諦めるな!!」



 レダスが叫んだ。久しぶりに声を聞いた気がする。レダスとオルガは領域を作り維持するのに大半の魔力を使っていた。

 それがドラゴン1体を押さえ込む為に消費されてしまいレイン同様に消耗は激しかった。


 アリアも同じだった。倒したモンスターから出てくる僅かな水で超非効率で戦っていたせいで魔力が枯渇しかけていた。


「俺たちが負けたらコイツらが外に出るんだぞ!お前たちがここに来た理由はなんだ?!金だけじゃないだろ!守りたい人がいたからここに来たんじゃないのか!」


 このダンジョンで敗北するということはメルクーアの滅亡を意味する。ここに来たメルクーアの覚醒者たちにとっては故郷だ。家族もいるし、恋人もいるだろう。



「そうだ……俺は……あいつを守らないと」

「俺だって……」

「私だって……あの人が……」



 レダスの言葉が覚醒者たちの心を揺さぶった。そしてそれぞれがここに来た目的を思い出して行った。



 レダスは一言でメルクーアの覚醒者たちの折れかけていた心を再び立ち直らせた。こちらに迫るモンスターに決死の覚悟で突撃を開始しようとした。



「絶対に諦めるな!!諦めなければ希望はある!」



 レダスがもう一度叫ぶ。そして覚醒者たちが1歩を踏み出した。



 その時……バチンッ!!!――と空から特大の雷が落ちた。その雷は後ろに控えていた数体のドラゴンの1体に直撃した。そのドラゴンは耳を塞ぎたくなるような断末魔を周囲に撒き散らした。



 しかしすぐにそれも無くなっていき雷が消えた頃には黒焦げになっていた。そしてドラゴンはゆっくりと海面へと倒れ込んだ。



 その光景に全員が口を閉じた。あれほどの雷を扱える覚醒者はここにはいないはず。誰の攻撃だ?



「……何が……起きた?」



 阿頼耶に支えられているレインにも分からない。あれほどの雷を扱える覚醒者をレインも知らない。



「よく言った!!それでこそ神覚者よ!!そして我が盟友レイン・エタニアよ!!」



 バカでかい声が響く。何処かで聞いた事のある声だった。特にレインにとって。


 レインの横に誰かが勢いよく着地した。衝撃で周囲に砂が舞う。それだけじゃないデカい声の男の他にもかなりの気配が同時に出現した。



 宙に舞った砂が落ちてようやくレインはそこ声の主を見た。そして少しの安堵とうわぁ……という微妙な思いが交差する。



「…………オーウェン…何でここにいるんだ?」



「フハハハッ!これは面白い事を言うなエタニア殿。貴殿の本気が見られるであろうSランクダンジョンにワシが行かない訳がないだろう!」



「ははは……そうか……」



「それに私だけではないぞ!」



 その言葉と同時にオーウェンは空を仰ぐ。すると雷がまたバチンと光ったと思ったら次は海岸に迫るモンスターの大群に落ちた。


 雷はモンスターからモンスターへと感電していき一帯のモンスターを一瞬にして黒焦げにした。



 その後、雷はすぐにオーウェンの前へと落ちてきた。レインは少し警戒したがオーウェンの表情を見てすぐに解く。



「ご苦労!」



「………………はい」



「エタニア殿!!これより我々が貴殿の麾下に入ろう!」



「…………我々?」



「いかにも!ワシと!我がヴァイナー王国軍第一軍団長『万雷の神覚者』シリウス・ヴァルトマン!そして第一軍団所属のSランク覚醒者18名!Aランク、Bランク覚醒者60名である!」



 その言葉に合わせるようにレインたちの後ろに覚醒者が並ぶ。全員がフル装備で溢れ出る魔力を抑え切れていない。



「……と言ってもエタニア殿はお疲れのようだ。しばらくはワシが代わりに指揮するとしよう」


「…………その方がいいな。俺はそういうのは苦手だから」


「なんと!そうであったか!やはりここに来て正解だったな。貴殿の事をよく知れる良い機会だ!」


「気持ち悪いこと言わないでくれ」


「フハハッ!冗談ではないぞ!いつでもワシは本気だ!……さて我々はあの化け物どもを片付けるとしよう。第一軍団全軍に命ずる!……殲滅せよ」



「え?今怖い事言わなかッ」



「「「「ハッ!!!」」」」



 レインの声を掻き消すようにヴァイナーの覚醒者たちが声を上げる。そしてすぐにヴァイナー王国軍による一斉攻撃が開始された。



 

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