第126話
「…………俺1人なら難しいな。旦那と旦那の従者でいいのか?そこの女が援護してくれるなら出来ない事はないな」
いつも自信満々なヴァルゼルも目の前の視界を埋め尽くす巨人が相手では難しいようだ。まあどのみちヴァルゼルだけでやらせるつもりはない。
あの巨人の集団の半分でも追加で傀儡にできたら、既に外周を歩かせている傀儡と反対側で落ち合うように動かしてモンスターを殲滅してやる。
「よし……阿頼耶は遠慮なく巨人を殺せ。ただし危ないと判断したらすぐに下がれよ?俺が危険だと判断してもだ。分かったな?俺よりも自分の命を優先しろ」
「し、しかし……それでもしレインさんが傷を負ってしまったら……」
「俺の傷はお前が治してくれるだろ?俺は自分が傷付くより阿頼耶が傷付く方が辛い」
「そ、それって……」
「おーおーお熱いことだなぁ。それより早くしないとアイツらが上陸してくるぞ?いいのか?」
「そうだな。ここで話してても時間が勿体無い。アイツらを傀儡にしたら俺ももう少し休めるだろうし……さっさと行くぞ」
「おう!」
「はい」
ヴァルゼルと阿頼耶は武器を構えて先に突撃する。それに続くようにレインも走る。
巨人たちはすぐに気付いた。おそらくレインたちを始末する為にこのダンジョンのボスが巨人を送り込んだのだと思う。
巨人たちはレインが動い事を確認するとすぐに陣形を組んだ。全方向を警戒しながらゆっくりこちらに進んでいる。
巨人は単騎ではレインの速度に対応する事は出来ないとか判断してお互いがお互いを守り合うように陣形を組んでいるが、レインの全力の速度はその程度では対処不可能だ。
ヴァルゼルと阿頼耶が接近する事で先頭に立つ3体の巨人が剣と槍を突き刺そうとした。当然、阿頼耶たちは上へ飛んで回避する。
巨人は飛んだ先を予想して別の巨人が背後から槍を向ける。しかしヴァルゼルには効かない。
そのままヴァルゼルから1番近くにいた巨人は頭を大剣で殴られて転倒した。その際に他の巨人も巻き込んだ事で陣形に穴ができる。
巨人のように大きな身体を持つと必然的に動きは遅くなる。それを補う為に陣形を組んだのだろうが、あまりにもお粗末な出来だった。
◇◇◇
後方からの魔法援護もあって巨人とは問題なく戦えた。ヴァルゼルが間違えて1体の巨人を殺したが、追加でレインが2体、阿頼耶が1体殺した。
まだ巨人の騎士たちは20体以上いるが、こちら側の傀儡は強くなっていく一方だ。このままいけば勝てる。
「……ふッ!!」
レインは先頭で武器を構える巨人の脚を蹴り上げる。巨人は空から斬りかかるヴァルゼルに気を取られていた。
レインに脚を蹴られた巨人は成す術なく転倒する。レインはそのまま転倒した巨人の頭の方へと飛び、一撃を入れる為に戦鎚を構える。殴ってばかりいると手が痛くなる。
「……これでもう1体追加だ」
レインがその巨人の額の上に立ち戦鎚を振り上げた時だった。突然、別の方向から槍が飛んできた。大きなから考えるに別の巨人が投げたのだろう。
レインにとってそれを回避するのは簡単だった。しかしその槍はその巨人の頭に直撃し、巨人は息絶えた。まさかの同士討ち。これまでにない事だった。
そして……。
「なんだ?」
巨人たちが海の方へと戻っていく。こちらを見てはいるがジリジリと後退しているように見える。それに続くように赤い布の海魔も下がる。
ここに来て初めての動きだ。巨人を除いた他のモンスターはただ真っ直ぐ上陸しようとするだけだったのに。
「レインさん!」
後ろからニーナが声をかける。反対側を担当しているニーナが何故ここに?
「ニーナさん?どうしてここに?向こうは大丈夫なんですか?」
「はい、あの黒い巨人の集団はレインさんの駒ですよね?我々も苦戦していた所でしたが黒い大きな波が飲み込むように赤い布のモンスターを蹴散らしていきました。
そこからモンスターの上陸が一気に無くなってしまって確認のためにこちらに来ました」
向こうでもモンスターの上陸が止まっていた。確かにレインの魔力の消費もほとんどなくなっていて、回復する量の方が多くなっている。このまま居ると数日後には全回復出来そうだった。
ただ……。
「そう……甘くはねえよな……」
巨人たちは海岸から少し離れた所で止まったと思ったらすぐに黒い水に戻った。
他にも大量にいた赤い海魔も同様に消えた。これで水位が上がるかと思ったが、むしろ大幅に減った。目に見える形で島の面積が増えた。
そこに現れた2体のモンスターを生み出す為に大量の水が使われた。そのモンスター2体は周囲に影を落とす。
そして遂に耐えられなくなった覚醒者の1人が叫んだ。
「ド、ドラゴンだぁ!!!」
レインたちの目の前にはドラゴンがいた。蒼白い鱗を全身に持ち渦巻いた2本のツノがある。手足のようなものは見えない。蛇を圧倒的に巨大化したような姿で原理は分からないがフワフワと宙に浮いている。
身体の半分が海に入っていて身体の大きさの全容も分からない。ただ今出ている部分だけで巨人の2倍以上はある。そんなのが2体いる。
2体のドラゴンは何もせずレインたちを見ている。ただそれも少しの間だった。
シュァアア――2体のドラゴンは口に魔力を集中させている。蒼白の光が口から放たれようとしている。
"レイン!ブレスが来る!当たったら間違いなく死ぬ!!避けろ!"
アルティが突然叫んだ。避けなければ死ぬという言葉に戦慄する。しかしそれと同時に思った。
"俺が避けたら後ろにいるみんなが死ぬ。俺を認めて、慕って、助けてくれた人たちが俺のせいで死ぬ?"
"レイン!"
「…………そんな事認められるか!!」
バシュッ!!――という水の細い光線が2体のドラゴンから放たれた。ブレスの1つはレインへ、もう1つはレダスたちの〈氷結領域〉へと放たれた。
「ヴァルゼル!!ブレスを何とか耐えろ!!上へ弾き飛ばせ!!」
レインは盾を召喚する。ヴァルゼルの目の前にももう1つ召喚する。ヴァルゼルの位置は〈氷結領域〉に1番近い。
ヴァルゼルはただ頷きレダスとオルガの前に移動した。そしてレインにも水の光線が迫り、レインはそれを本気の力で受け止める。
「…………ぐぅぅ……あ゛あ゛ッ!!!」
水の光線は盾を貫通する勢いで突き刺さる。その衝撃は今まで経験した事のない威力だ。レインは吹っ飛ばされそうになるのを歯を食いしばって耐える。
もしこれを避けていたら島が両断されていた。レインの後ろには指揮所があり、そこには負傷者や休んでいる者がいる。レインが避ければ彼らはバラバラになっていただろう。
ヴァルゼルの方を確認する余裕もない。ただこのブレスは水だ。ならヴァルゼルのスキルで何とか出来るはず。
"レイン!無茶だ!避けろ!お願いだから避けてくれ!"
「うる……さい。俺は……俺を助けてくれた人を見捨てはしない。それに……俺にはまだ切り札がある」
"レイン!そのスキルは駄目だ!"
「アルティ……ごめんな。スキル……〈限界――〉」
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