第125話









「クソ……すまない」



 レダスは小声で呟く。そしてあの巨人たちは間も無く殲滅させる事を確信し、目の前に迫る赤い大軍に集中する。




◇◇◇



「あれか……いいね、合格だ」



 レインは最前線の海岸に向かう。敵の巨人はレインが持つ傀儡と同じような大きさだ。


 ただ見た目が全く異なる。まず頭から脚まで全身を鎧で守っている。さらに10メートルはあるだろう大伊達に5~6メートルくらいの長剣を全員が持っている。



 "あれを……剣で斬れるかなぁ?殴った方が良さそうだ"



「阿頼耶」



「はい!」



 レインのすぐに後ろには阿頼耶が追従している。阿頼耶は公式ではAランクだが、レインの魔力を追加で吸収した事によりSランク覚醒者を上回る力を得ている。


 

 あの巨人にも余裕で対応できるはずだとレインは思う。そして戦鎚を召喚して阿頼耶に渡した。



「これ使ってあの巨人を殺してくれ。俺は正面から目立つように動くから阿頼耶は回り込んで上手い事やってくれ」

 


 傀儡はレイン自身が殺さないと傀儡にならないという条件がある。しかし唯一の例外が阿頼耶だ。阿頼耶は意思を持ってはいるがモンスターであり、武器という認識だ。つまりレインの所有物という扱いになるらしい。


 レインが自分で武器を使って殺すのと変わらないから阿頼耶が殺したモンスターは傀儡になる。

 


 このダンジョンの法則がこれまでと同じならばこれからは巨人が数多く出現するはずだ。



 ここにいる覚醒者たちはほとんどが理解していた。このダンジョンの攻略法は全てのモンスターを殺し尽くし海底に存在するであろうボスの部屋を見つけ出す。そしてボスを殺す事だという事を。

 


 ボスの部屋までの最短距離はモンスターを殺す事ではあるが、如何に消耗せずに強力なモンスターを倒すという事だ。



 それくらいはちゃんと理解していたレインは傀儡を増やす為に最前線へと向かっていた。


 そしてその姿を確認し少し手前で跳躍、正面から巨人が反応できない速度で兜を全力で殴り付けた。


 兜は大きく凹んだ。中に入ってるだろう頭も潰れたような音が聞こえた。

 


――『傀儡の兵士長 上位巨人兵』を1体獲得しました――



「……兵士長。精鋭より下のランクか。それでも当たりだ。傀儡召喚」



 レインは着地してすぐに召喚する。そこには15メートルくらいの巨人兵が4体召喚された。3体は元々持っていたものだ。


 しかし先頭に召喚した巨人兵から放たれる魔力量は他の巨人よりも遥かに高い。

 

 上位騎士をただ大きくしただけの見た目だが、他の巨人と同じような者だとして挑めば確実に返り討ちに合う。それほどの差を感じた。



「……お前らはそこで立ってろ。そのままでも気を引けるだろ」



 先頭の巨人が死んだ事を受けて他の4体は盾を構えてレインとその後ろに出現した黒い巨人たちへの警戒を一層強めた。しかしその瞬間、後ろにいた巨人が倒れた。



――『傀儡の兵士長 上位巨人兵』を1体獲得しました――



 阿頼耶はレインへ意識を向けた巨人の隙をついて戦鎚で殴りつけた。レインと同じように頭へ向けて振り下ろし兜の形をレインよりも大きく歪めた。



 再生能力を持つといわれる巨人でも頭を破壊されると再生すら出来ずに即死する。


 阿頼耶は倒れ込む巨人の死体を踏み出しにしてもう1体の巨人へ戦鎚を振り下ろす。しかしその攻撃は前を歩く2体の巨人が剣を振るって阻止した。



 巨人はその体格に見合わない速度で剣を振るう。しかし阿頼耶にとっては容易く回避できた。そして2体の巨人は致命的なミスをした。

 


 全ての巨人が突如後ろから出現した阿頼耶の存在に釘付けとなった。レインは戦鎚をそれぞれの手で持つ。そしてレインに背中を向けている巨人たちの頭をゆっくり潰していった。



 2体の巨人が倒れた。残った1体の巨人がレインと阿頼耶に対して何か出来るはずは無かった。



――『傀儡の兵士長 上位巨人兵』を3体獲得しました――



「傀儡召喚」

 


 レインはそのまま傀儡に加えた5体の巨人兵たちをまとめる。それに元々傀儡にしていた3体を加える。これで8体の巨人兵で作られた集団が出来上がる。



 巨人兵は1体1体がかなり強い。それ故に破壊されると復活するのに多くの魔力を消費してしまう。ならば常に近くに配置してお互いを守り合うように戦えばいい。



「巨人兵はあの氷の領域に入らないようにモンスターを蹴散らしながら島の周りをグルグル回ってろ。絶対にやられるな。お互いを守り合え。あと人間には近付くな」



 間違えて踏み潰されたなんて最悪だ。巨人兵たちは島を周回しながら赤い布を纏ったモンスターを殲滅してもらう。



 レインの命令を受けた巨人兵は剣と盾を振り上げ、赤い布が空中に飛散する。巨人兵が通った後はモンスターの死体が山積みになる。そしてその後すぐに普通の水に変わった。



 その巨人兵の背中を見送るレインに声をかける者がいた。



「レインくん!ごめんね!助かったよ」



 オルガが〈氷結領域〉を離れてレインへ駆け寄る。視線をそちらへ移すとオルガの身体は至る所が凍り付いていた。


 元々真っ白な髪だったが氷が纏わりつき陽の光に反射してキラキラしていた。

 


「そっちは大丈夫か?」


「大丈夫だよ。このまま領域は広げていくからこっち側は任せてよ!あんなデカいのが出てこない限りは何とか……」



 やはりそう甘くはなかった。巨人があの5体だけで済むはずがない。ここはSランクダンジョンだ。



 穏やかだった海から大きな波が押し寄せた。覚醒者たちからすれば今更波の勢いなど何ともない。ただその波の向こうから巨人たちが新たに出現した。



 先程と同じ大きな盾と剣を構えた全身鎧フルプレートの巨人が数体、それらに続くように小さな盾と槍を構えた巨人、巨大な戦斧を肩に担いだ巨人、大剣を引き摺りながら歩く巨人、両手に2本のメイスを持った巨人だ。

 


 巨人の総数は20体以上は見える。そして周囲を見てもここにしか出現していない。確実にレインたちを殺す為に計画的に送り込んできた。


 つまりこのダンジョンのボスはレインたちを何処かから監視していて、効率よく殲滅する為にモンスターを送り込んでいる……という予想がレインにもできた。

 


 その巨人たちはまたもレダスたちの〈氷結領域〉を迂回するルートを歩く。



「クッソー!アイツら本当に嫌い!何でこっちに来ないのよ!」



 オルガは怒るが、意味はない。既にレダスの方にも赤い布のモンスターが大量に向かっている。オルガが戻らなければ領域を広げる事は出来ない。



「オルガはレダスの所に戻れ。アイツらは俺と阿頼耶で迎え討つ」



 既にレインの後ろには戦鎚を肩に担いだ阿頼耶が戻って来ている。



「む、無茶だよ!相手はSランクくらいの強さの巨人だよ!20体はいるんだよ!アラヤちゃんはAランクだし、レインくんがいくら強くてもあの数は無理だよ!」



「……まあ何とかなるさ。ヴァルゼル出てこい。あの巨人倒したら好きにしていい」



 レインの後ろから勢いよくヴァルゼルが出てくる。外の様子は分からないはずだが、何となく察していたのだろう。鎧を着て大剣を振り回している。

 


「やっと呼んでくれたな!何となく雰囲気でデケェことしてるのは分かってたぜ?」



「それなら良かった。あの巨人殺さずに無力化出来るか?」



 アイツら全てを相手するにはかなりしんどい。ヴァルゼルが倒せるなら援護に回りたい。そして傀儡に出来るならそうしたい。


 

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