第127話
そのスキルを使おうとした時だった。いきなり盾が軽くなった。そしてすぐにその理由に気付いた。
「レインさん!!」
「レインさん、私たちがいます!」
ニーナと阿頼耶がレインの盾を後ろから押していた。1人でドラゴンのブレスを受け続けるより遥かに楽になった。
それでもドラゴンのブレスは圧倒的だ。3人でも重く鋭い一撃だ。
「2人とも……離れろ。ここにいると危ない」
「何を言ってるんですか!私たちは仲間です。みんなで立ち向かうんです!」
そう言ってニーナは離れようとしない。アルティから貰った盾もビキビキと嫌な音を立てている。ドラゴンのブレスの勢いは一向に弱まらない。
「…………きょ……巨人……兵。奴を斬り殺せ!」
島の外周を回らせている巨人兵たちをすぐには戻せない。今レインが持っているのは3体だけ。
ドラゴン相手には不十分かもしれないし、やられると復活にかなりの魔力を消費する。
でもこのままではレインだけでなくニーナや阿頼耶も無事では済まない。
レインたちの左右に召喚された巨人兵はドラゴンを左右から挟み込むように斬りかかる。その様子をレインは縦の隙間から見ていた。
巨人兵は傀儡の中でもヴァルゼルに次ぐ強さだ。それが3体もいる。この永遠に続くとも感じられるブレスを中断させる事くらいは出来るはずだ……そうレインは期待した。
しかし相手は最上位種といわれる竜だ。巨人では勝てなかった。
ドラゴンはブレスをレインへ向け続けながら身体をくねらせた。そして左から迫る2体の巨人兵に体当たりして吹き飛ばし、右から斬りかかる巨人兵に巻き付き、締め上げ、身体を両断した。
「…………駄目か」
やはりドラゴンの強さは別格だ。傀儡に欲しいという思いはあるが、このままだとあの巨人兵のように盾ごと両断される。
"絶対に諦めない。今の時点で力が拮抗してるなら俺が今ここで強くなれば良いだけだ。身体はずっと鍛えてきた。あとは鍛えた力を……絞り出せ!あの竜より強い奴なんてそういない。全てを出し切れ!!"
「あ゛あああああッ!!!!」
――ピコンッ!
――スキル〈最上位強化〉がLv.3になりました――
レインは盾でブレスを受け止めながら1歩前へ進んだ。その行動に驚いたニーナたちはもう盾に触れていない。
"まだだ!こんなもんじゃ足りない!思い出せ!エリスを助ける為に発揮した力を。エリスが治って気が抜けてるんだ。もう一度あの時の事を思い出せ!気合いを入れろ!!"
――ピコンッ!
――スキル〈最上位強化〉がLv.4になりました――
レインはさらに1歩進んだ。ここに来てようやくドラゴンは異常に気付いた。そしてさらにブレスの威力を一段階上げた。
ゆっくり前に進み始めたレインはまたその場で耐える事になる。
"まだ上があるのか。なら……俺はそれを超えるだけだ"
「負けてたまるかぁ!!」
――ピコンッ!――ピコンッ!――ピコンッ!
――スキル〈最上位強化〉がLv.7になりました――
この時から一気にブレスの重みが軽く感じられるようになった。レインはすかさず〈支配〉を盾を使って浮遊させる。
そしてそのままドラゴンの口に向かっ
て盾を飛ばした。盾はブレスを受けながらも真っ直ぐ着実にドラゴンへと向かっていく。
そして完全にフリーになったレインは武器も召喚せずにドラゴンへと急速に接近する。ドラゴンのいる場所は海岸から少し離れている。普通の人間であれば足は全く付かないような深さだ。
それを察したレインは別の武器を次々と召喚して道のように並べる。その上を走ってドラゴンへと向かう。
ドラゴンは巨大だ。そのドラゴンからすればレインはあまりにも小さく高速で動くと流石についてこれない。さらに自身のブレスを弾きながら迫る盾への対応でレインを見失った。
レインはドラゴンの身体へ飛びつく。流れるような鱗は掴む場所がない。滑って海へと落ちそうになるのを短剣を突き刺す事で耐えた。
"かなり本気で刺したのに先っぽが少し刺さっただけか"早く頭の方まで行かないと。ドラゴンだって頭を落とせば死ぬはずだ"
レインは別の剣を召喚して浮かべる。それを足場にして跳躍した。その時になってドラゴンはブレスを吐き終えた。そして迫り来る盾に海面から出現した長い尻尾をぶつけて遠くへと弾き飛ばす。
ただドラゴンはレインの存在には気付いていなかった。そのままもう一度ブレスを放とうと口に光を溜めている。
"今がチャンスだ!"
レインはドラゴンの頭に到達する前にもう一度跳躍する。その勢いそのままに渾身の力を込めて拳を握り構えた。
ドラゴンはブレスを放つ為に口を開けた。もうレインの盾はない。これが放たれると防ぐ手段はもうない。
ドゴンッ!――しかしそのブレスが放たれる前にレインの拳がドラゴンの顎を下から捉えた。そしてボンッという爆発音がドラゴンの口の中に響く。
放とうとしたブレスが口の中に無理やり押し込まれてしまい内部で爆発したようだ。そして完全に無防備だった顎にレインの渾身の一撃が直撃した。
恐ろしく生え揃った長い牙が何本も折れて飛んでいくのが視界の端に映った。
"まだだ!まだ死んでない。次で殺す!"
ドラゴンは苦しみからか頭を下げた。そのおかげでレインはドラゴンの頭の少し上にいる。
"落下しながら頭を上から殴りつけてやる"
レインは戦鎚を取り出す。それを空中で振り上げ狙いを定める。レインの身体は重力に引かれて落下する。
そしてドラゴンの頭が間合いまで来たところで振り下ろす。歯を食いしばり力の限り振り下ろす。
ドラゴンの頭は巨大だ。とりあえず中心辺りを狙えばハズレはない。ドゴンッ――という鈍い音が響きドラゴンの身体は海面へ向けて落下する。
頭を潰すか落とすつもりで殴ったが、足りなかった。
ガァアアアッ!!!――ドラゴンはすぐに起き上がり咆哮する。その声の衝撃はあまりにも凄まじい。普通の人間だったら気絶していたかもしれない。
「うるっせぇな!!」
しかしレインにはその程度だ。本気で頭を殴りつけた事で流石のドラゴンも少し頭部がふらついている。
レインは落下しながらもう一度構える。そして今度は確実に仕留める為に長剣を召喚した。右手に戦鎚を持ち肩に担ぐ。左手で長剣を握り、切っ先をドラゴンの頭目掛けて投擲する。
長剣は狙通りドラゴンの頭部中心ぐらいに刺さる。しかし浅い。何とか刺さってはいるがギリギリだ。ドラゴンが首を振ると抜けて落ちてしまうだろう。
ただレインはもうすぐそこまで来ていた。ドラゴンが長剣とレインに気付いて動く前に戦鎚を振り下ろした。
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