第121話
――『傀儡の兵士 海魔』を1体獲得しました――
獲得した海魔はまだ命令を待っている状態のため剣士たちの後ろでただ膝をついている。
見た目はかなり変わった。全身鱗だった部分は真っ黒な塗料を塗りたくったようになっている。ただ不気味なのはその肌を隠すように……隠しきれていないが、長い黒い布を纏っている。
顔はフードを深く被ったようになっているが隙間から赤い光が2つ発光しているのが分かる。武器は変わらず刃こぼれしたような剣と刃が欠けた斧を両手に持っている。
見た目から数を揃えれば恐怖を感じる相手であれば威圧出来そうだ。
「……海魔?海の魔物って事かな。……強さは番犬以上、剣士未満か。Cランク……上位くらいか?もう少し揃えておこうかな。魔法石の回収要員も欲しかったし」
レインは戦列から飛び出し大剣を召喚した。海からゾロゾロと上陸してくるモンスターの間に着地して振り回した。
モンスターは斬りかかろうとする奴と防御しようとする奴でそれぞれだったが全て等しく両断した。
――『傀儡の兵士 海魔』を26体獲得しました――
数を確認して、後もう3回大剣を振り回す。
――『傀儡の兵士 海魔』を58体獲得しました――
「これで……85体だな。キリ良く100体にしようか」
その後、大剣から2本の刀剣に変更して15体を斬った。これで海魔を100体傀儡にできた。しかしこいつらはこの戦闘には参加させない。
同じ強さだったらお互いに削り合うだけだから意味がない。魔力を無駄に消耗するのは避けたい。
とりあえずは召喚も解除して剣士たちに任せる。
◇◇◇
「では報告を……ただ時間に余裕はありません。手短に気付いたことがあれば言ってください」
AランクとBランクの覚醒者たちが作った中央指揮所兼救護所に神覚者4人とニーナが集まっている。外ではまだ戦闘の音が響き続けていて負傷者も少しずつ増えてきている。
1体の強さはそこまでだが数が多い。Aランク覚醒者といえど数十体のBランクモンスターに囲まれれば負傷してしまう。
ただまだ阿頼耶の魔力が十分にあるためすぐに回復出来ているが、少し待たせてしまう負傷者が出てきた。
中央指揮所の周りには、ここを取り囲むように簡易住居が建てられている。といっても2段ベッドと少しのスペースを一括りにした小屋が複数並ぶだけだ。
それでもレインの収納スキルのおかげでかなり豪華な作りらしい。救護所が雨ざらしなんて事もよくあるらしい。
Aランクダンジョンの中でも高位ランク帯の攻略時はダンジョン内で寝泊まりする必要もあるが、運搬の関係上、地面に布を重ねるだけの物しか用意できない場合が多い。それと比べたら天と地の差がある。
住居には魔力を消耗した覚醒者たちが休むために使用する。魔力は完全に使い切るのとほぼ使い切るのでは回復時間に大きな差がある。
少しでも残っていればある程度回復すればまた戦える。
しかし完全に使い切ってしまうと完全に回復するまでスキルや魔法を行使できない。理由は長年研究されているが未だ不明らしい。
レインもこのダンジョンで初めて知る事ばかりだ。
Aランク覚醒者たちは交代しながらモンスターの上陸を防いでいた。
「あのモンスターが上陸を開始してから既に12時間が経過しました。未だに勢いは衰えず……増えもしませんが一定の勢いを保って侵攻を続けています。
このままではこちらが消耗する一方です。何か気付いた事はありましたか?」
ニーナの問いかけに答えられる神覚者はいない。既にAランクやSランクの攻撃だけでは対処しきれず神覚者も攻撃に参加している。
12時間も攻撃を続けられるほど魔力を保有している覚醒者はそこまで多くない。
レインも既に鬼兵や騎士を複数召喚し、剣士たちを支援に回らせていた。
このダンジョンの仕組みは解明出来ていないがレインのスキルが最も攻略に適していると判断して可能な限り温存するように指示されている。
剣士で倒せるモンスターは鬼兵や騎士であればもっと簡単に倒せる。
現在の覚醒者たちの配置は、島の一区画をレインの傀儡たちのみで請け負い、他の区画を覚醒者たちで防衛している。覚醒者たちの中にも傀儡を入れて交代時の援護をしている。
さらに浜辺から中央までの間に傀儡の兵士を数体ずつ配置し地中からモンスターが出現しても対応出来るようにしてある。
その為、レイン自身は指揮所で待機しているのが現状だ。
「そうだね。モンスターは倒したらその場に小さな魔法石だけを残して水になる……ってことくらいかな。一応Bランクに回収させてるけど価値は期待出来ないね。……強いて言うなら倒した時に出る水は普通の水になってるって事かな?あまりの海は真っ黒だけどね」
オルガが話す。既にレインは前線を離れているため、こうした情報すら入ってこない。
「……俺もそれ以外は分からない。モンスターはこちらを攻撃来るが連携も取れていない。殲滅は容易だが数が多すぎる。
既に数千体は倒したがただ真っ直ぐ上陸して来るだけだ。ボスの部屋も何処にあるのか分からない。海底にあるとしたら詰みだぞ?」
レダスもそこまでの情報は得られていないようだ。
「私のスキルで操れれば良かったのですが……この海の水はただの水ではないないようです。スキルで操れないので本来の力が使えないのは申し訳ない思いです。
ただモンスターを倒した後に出現する水は普通の水ですね。それは操る事が出来ますが……量が少ないので攻撃としては使えません。……本当にすいません」
アリアは水を操るスキルがあるがこの海に対しては使えないようだ。あの大荒れの海の波すら制御出来ていたのに。
つまりこの海は普通の水ではないということだ。まあ黒いし当然ではある。
「役立たずの私から言えるのは、モンスターを倒した後に出てくる水は操れるので黒い水に何かしらの仕組みがあるのかもしれません」
アリアは既に卑屈になっている。とりあえず今は置いておく。やはりあの黒い海に何かあるんだ。しかしそれが分からない。その時だった。
「…………あッ」
「レインさん?どうしました?」
レインが漏らした小さな声に全員が反応する。今、この状態を維持できているのはレインのスキルに恩恵が大きい。
この施設もそうだがレインなくしてここまで余裕を残して持ち堪える事は出来なかったかもしれない。そんなレインの発言には全員が注目する。
「……剣士たちが一気に削られました。前線で何かあったようです」
レインは上位剣士が4体一気に倒され復活に魔力を消費した事に反応した。消費した魔力は微々たるものだ。数分……いや1分ほどで回復すると思う。
しかし剣士たちを複数倒せるモンスターは今のところいないはずだ。
つまりは剣士たちを同時に複数倒せる力を持ったモンスターが新たに出現した事になる。
その答え合わせをするように覚醒者が指揮所に入ってきた。
「報告!新たなモンスターが複数出現!!Aランク覚醒者と同等の強さを持っており、現在Sランク覚醒者様とレイン様の召喚された駒で応戦中です!至急!前線へお戻り下さい!!」
「承知しました!では進捗報告はここまで。各自持ち場に戻って下さい。戦線を安定させるために私も行きます。レインさんも申し訳ありませんがお願いします」
「分かりました」
こうして救護班の覚醒者と少数の護衛班を残して全員で各地の前線へ向かった。
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