第122話









◇◇◇



 「……あれか」



 レインは1人で自分が担当する区域に到着した。依然、傀儡たちはモンスターを殲滅し続けているが一部で押されていた。

 


 騎士や鬼兵を配置していない剣士のみところが押されている。……というか1体だけ色が違う。


 黒いボロ布を纏っている奴の他に赤い布の奴がいる。そいつの速度が速い。

 


 ここが傀儡の弱いところだ。担当させた区域の他に強い奴が出てきても配置転換を自分の意思でできない。まあ勝手に移動するのはレインの命令に反する事なのでしないんだがな。



「俺が倒すか。あれならここで戦わせても戦力になるだろ」



 レインは刀剣を召喚して赤い海魔に接近する。そして剣を振るう。ガキンッ――という金属同士がぶつかる音が響いた。



「……お?」



 全然本気ではないとはいえレインの一撃に反応できた。それだけでも他の奴らとは別格と判断出来る。そこら辺の雑魚と比べてだが。

 


 レインはもう少し力を込める。すると徐々に赤布海魔は抵抗出来なくなってきた。そしてよろけた所をもう一撃加えて両断した。すぐに〈傀儡〉を使用する。



 

――『傀儡の兵士 中級海魔』を1体獲得しました――



 そのまま召喚して戦列へ加える。見た目も傀儡の海魔と大きく変化していない。布の一部が赤色なだけだ。



「でも……これは少しマズイかもな」



 中級。あの赤い海魔はAランク下位くらいの強さだった。人類のポーションやアイテムの等級に当てはめたら上級や最上級のモンスターも出てくる事になる。上級がSランク、最上級が神覚者レベルだとすると……。



「レインさん!」



 ニーナが突然後ろに現れて話しかける。スキルを使って移動しているようだ。ニーナのスキルは移動手段としても最高だな。ただ少し慌てたような口調だ。



「ニーナさん?どうしました?」



「緊急の報告です。一度全てのSランクと神覚者を集める必要があります。なので少しの期間で構いません。

 レインさんの駒を全域に展開していただけないでしょうか?」



 緊急事態。ニーナの焦る様子からどれほど重要なのかは容易に想像できる。



「分かりました。傀儡召喚……モンスターを殲滅せよ。人間を守れ」



 レインは騎士王に加えて、傀儡の騎士、鬼兵、上位剣士、騎兵を全て召喚した。


 ここに来る前に騎士や騎兵などAランクレベルの傀儡を増やしていた事が功を奏した。



 合計で150体程の新たな戦力が島中に散らばっていった。ヴァルゼルは召喚しない。あいつの復活にはかなりの魔力を失う。

 

 カトレアとの戦闘で魔力が大幅に増えてはいるがそれでも温存しないといけない現状では出すべきではないと判断した。本人は不服だろうがな。


 さらにレインはニーナには聞こえないように裏で指示を出す。


 "赤色のモンスターは可能な限り生かせ。後で傀儡にする。ただ自分がやられそうなら躊躇なく殺していい"


 中級海魔はAランク相当だ。この場所であっても十分戦力になる。

 鬼兵や騎兵であれば2~3体で囲めば容易に倒せる。騎士であれば1体でも倒せるだろう。

 


 数も50体に1体くらいの割合で数も少ないから対処可能だろう。



「ありがとうございます。では指揮所まだお願いします」



 そこそこの速度で走るニーナをレインが追従する。すぐに指揮所には到着した。中に入ると神覚者たちは揃っていた。


 Sランクたちはまだ前線にいるようだ。ただすぐにレインの傀儡が到着するからここに来るのも時間の問題だろう。


 


◇◇◇

 



 その後数分で全ての神覚者とSランクが揃った。まだ1日も経過していないがレインは1人で1区域を担当している事もあり久しぶりに感じた。



「揃いましたね?報告です。リグドが気付き、私とアミスさんが実際に確認しました。……この島の面積が当初よりも大きくなっています」



「……え?!」



 全員が驚きのような声を上げた。無理もない。レインだって全く気付かなかった。リグドもよく気付いたと思う。



「なぜ気付いたんです?」



 ロージアが問いかける。リグドの気付きが嘘とか実際は大きくなってないとかの議論は無駄だ。



「私が放った魔法矢マジックアローの着弾時間に差が出ていたからです。時間に関しては今はどうでもいいですね。ただこれによりかなり厳しい事態になったと推測できます」



「厳しい……事態?」



「はい。これはあくまで私とサブマス……失礼、ニーナさんで考えた事ですが、あのモンスターを構成しているのは魔力を含んだ黒い海水だと思われます。

 倒す事で普通の水に変わる。これまででおそらく数千体以上は倒してきたと思います。なのでようやく少し減ったと実感できたのでしょう。よってこのダンジョンのクリア条件は……」



 「この海の水全てが無くなるまでモンスターを討伐し続けるという事です。おそらくここに来た時にレダスさんが危惧したとおり海底にあるボスの部屋へ辿り着く為にはそうしないといけないようです。

 そして……モンスターの強さは徐々に強まっています。モンスターが強くなればなるほど減る水の量も増えていくとは思いますが、終わりが見えません」


 


 リグドが言いかけ、ニーナが最後まで話した。その言葉に全員が沈黙する。

 


 確かにそうだ。今も少しずつ魔力が減っている。剣士たちがどんどん削られている。鬼兵ですらやられ始めてた。それはつまり……。



「レインさん?」



 レインの険しい表情を確認したニーナが問いかける。

 


「多分……あの赤い奴が増えてます。俺の駒がどんどんやられている。このままだと2~3日で魔力が無くなる」



 今のレインの魔力は1回復して5減少し続けているようなものだ。少しでも傀儡が破壊されるのを防がないと傀儡すら召喚できなくなる。



「……分かりました。この件は内密にしましょう。他の覚醒者たちを混乱させてしまいます。

 レインさんは引き続き支援をお願いします。他のみんなは魔力を温存しレインさんが抜けるタイミングで全力を出せるように調整してください」

 



「了解」

「分かりました」

 


 やはり攻略の要であるレインのスキルは重宝されるようで気を使われている配置だ。いや一区画を1人で担当しているからそうでもないのか。

 


 Sランクや神覚者たちは解散し、それぞれの持ち場へと戻った。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る