第120話








「…………はい?」



 2人?誰と誰だ?



「あれ?違うの?」



「ちょっとよく分からないんだけど」



「えー……そりゃあの……し」



 オルガが名前を言おうとした時だった。多分、レインだけじゃない。オルガもこの島にいるSランク以上の覚醒者は全員気付いただろう。



「オルガ」



「うん……この話はまた今度ね。やっぱり海から上がってくるよね」

 


 視界に映る真っ黒な海からユラユラと魔力が立ち昇る。海の色と同じ、レインの魔力と同じ系統の黒い魔力だ。



「何か来るぞ!海から上がってくる!!総員戦闘準備!!」



 レインがみんなに知らせる前にジェイが大声で呼びかけていた。狭い島だから伝令役もいらない。


 デカい声で話せば身体能力に優れる覚醒者は大体聞こえる。


 そしてその掛け声に続くように反対側から爆発音が聞こえた。



「オルガさん!……レインさんもいたんですね!反対側から一斉にモンスターが上陸しようとしています。最初は様子見と牽制のために全Aランクによる魔法攻撃から開始されます。

 そしてここからがニーナさんからの指示です。オルガさんはここでモンスターの迎撃をお願いします!レインさんは自由に動いて下さいとの事です。私も魔法攻撃に参加しますので失礼します!ご武運を!」



 それだけ言い残しすぐにこの場から離れていった。という事でオルガと2人だけになった。

 それとほぼ同時にレインたちがいる方向の海から一斉にモンスターが上がってきた。

 


「なんだ……アイツら……」


 

 島を取り囲むように一斉に出てきたモンスターは人の形をしている二足歩行の何かだ。


 両手には不恰好な錆びた剣や斧を持っている。ボロボロの布切れで全身を纏っていて顔はよく見えない。見てもいい事は決してないと思う。その隙間から見える肌は鱗のようなものもある。



「……何あれ?」



 レインよりも先にオルガが言った。基本的にレインはモンスターの名前や姿だけを見てこれだと理解はできない。詳しい人に教えてもらう必要がある。



 ここにはオルガもいるからモンスターの情報には苦労しないと思っていたが、オルガもレイン側の人間だったようだ。



「俺が聞こうとしてたんだよ。とりあえず斬るぞ?」



「レインくんの駒を使ってくれない?出来れば真ん中くらいの強さのやつ。あれの強さを見極めたいから」



 とオルガが話す。確かにレインの駒を使えば安全に対処が可能だ。



「そうだな。俺は自由に動いていいって言われてるし色々やってみるか。これだけで終わるわけないだろうしな。……傀儡召喚」



 レインは目の前に上位剣士を10体召喚する。騎士と鬼平は強い部類だから剣士くらいが丁度いい。



 モンスターはゆっくりフラフラと揺れながら上陸してくる。ゆっくり歩いているからこちらも充分に準備できる。



「……行け、奴らを斬り殺せ」



 レインの合図で傀儡たちは剣を構えて突撃した。傀儡たちが接近した事でモンスターたちも武器を構えた。先頭を走る上位剣士がモンスターに斬りかかる。



 ガキンッ――上位剣士が振り下ろす剣を同じく先頭をふらついていたモンスターが受け止めた。しかしすぐに盾で殴られ、さらにふらついた所を両断された。

 


 上位剣士の一撃を止めたって事は雑魚ではない。しかし盾の殴打に反応できずその後は一撃でやられた。という事は強くもない。



 つまりCランク以上、Bランク上位にはいかないレベル。だけど数が多い。剣士が1対1で負ける事はないが、同時に10体も相手すると削られるだろうな。



「へぇー……あれが真ん中くらいの強さ?」



「そうだな。俺が雑用で1番よく使ってる奴でもある」



「今の感じだとあのモンスターはCよりは強いけどBには若干及ばないくらい?まあ数が多いから厄介だね。殲滅しちゃおうか」



 それでもさすがは神覚者だ。今のを見ただけである程度の実力を把握できたようだ。


 モンスター1体はBランク以外程度の強さを持つ。今のレインたちであれば全く問題ない相手だ。



「全ての上位剣士召喚……敵を殲滅しろ。あー……手加減はいらないがトドメは刺さなくてもいい。傀儡増やしたいし」


 あまり細かく指示すると本来の力を発揮できないかもしれない。死んだのならそれで良し、僅かでも生きているのはレインがトドメを刺す。



 そうすれば傀儡たちは目の前の敵を全力で相手出来る。生きている奴を探す手間もかからない。

 


 生きているのか死んでいるのかは魔力を見れば何となく分かる。死んでる奴は魔力を放たない。



 剣士たちは正面から無尽蔵に上陸してくるモンスターを1列に並び剣で斬り裂き殲滅していく。オルガは警戒はしているが参戦はしない。


 レインの傀儡のみで対処できるのなら魔法を使い必要はない。神覚者は切り札であるため無闇に力を振るえない。

 

 反対側からも相変わらず爆発音が響き続けている。神覚者やSランクの中で爆発音が出るような攻撃をする人は少ないはずだ。


 つまりはAランク覚醒者で対処できているという事だ。向こうは任せてこっちに集中しよう。


 

「とりあえず俺も少し行ってくる。どんなもんか体験しておきたい」



「そう?ヤバそうなら助けるし、背中は守ってあげるね」



 オルガは手をヒラヒラと振ってレインを送り出す。レインは小さく頷き刀剣を召喚して剣士たちの戦列へ加わる。



「…………うわぁ、気色悪いし臭ぇ」



 モンスターに近づくと全身が鱗で覆われたアンデットのようなものだった。そして腐敗臭のようなキツイ臭いを放っている。もし傀儡にしてもこんな臭いを出されてたら嫌だな。



「とりあえず……一体だけ」



 とりあえず目の前にいたモンスターを斬り裂いた。そしてすぐに〈傀儡〉を使用する。



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