第119話
◇◇◇
「…………ここは海?」
「海だな」
視界に見えるのは海だった。外のように荒れ狂ってはいない穏やかな海だ。しかし外と違うのは異なるのは海面が真っ黒という事だ。気味が悪い。
「それに……ここは島か?」
目の前に広がる黒い海に気を取られていたが、レインたち攻略軍が立つ場所には地面があった。
地面といっても陸とは呼べないような島だ。縦400メートル横300メートルくらいしかない小さな島だ。
レインたち攻略隊は主戦力であるSランク以上の覚醒者が9人、後方支援のAランクやBランク覚醒者が合計で60人だ。60人が野営するにはちょうどいい広さだと思う。
野営の為の物資はレインの収納スキルに詰め込めるだけ詰め込んだ。節約しなくてもかなりの期間は充分に保つだけの食料や武器や資材だ。
ただ分からない。ここは少しの木と雑草、石と砂利の地面、そして歩きづらそうな砂浜……本当にただの島だ。モンスターの気配も感じられない。
「……ここはなんだ。ダンジョンの中か?」
レダスは周囲に問いかける。ただ返答はすぐには来ない。
「……そうだろうな」
とりあえずレインがそう答える。さっき城の扉に触れたからな。ここがダンジョン内部でないなら何処なんだよって話だ。
「……モンスター……いない。でも魔力は感じる」
無口なアミスも必死に状況を伝えようとしている。しかし全員がここに来るのは初めての為、見たら分かる情報しか出てこない。
「それは……そうでしょうね」
メルクーア側もこの状況を理解しきれないようだ。だが、それはこちらも同じだった。というかこの世界でSランクダンジョンの経験があるのは7人だけだ。
ダンジョン内は時間の経過がおかしくなるから外での生活よりは空腹も感じられない。
ただ時がほぼ停まるのはアルティくらいの魔王がいるダンジョンだ。ここは時間も経過するし、精神的な安定の為に、大量の食糧を持ってきている。
さらに疲労は蓄積する。ポーションもあるし回復スキル持ちの阿頼耶に治癒スキル持ちのロージアもいる。
AランクやBランク覚醒者の中にも回復系のスキル持ちもいるだろうから心配はないと思うが……。
「とりあえずここがSランクダンジョンってわけね。レインさんは可能な限り力を温存して下さいね。多分、私たちが生き残れるかはレインさんに掛かっていると思います」
ロージアが話し出す。そんな緊張するような事を言わないでほしい。
「一応……助けてくれよ?」
「もちろんです!」
ロージアは拳を握って力強く返事をする。
「どうしますか?ここには魔法石もモンスターもいない。ただダンジョン内部である事に変わりはないでしょうけど。
我々が侵入した事をモンスターは察知したはずです。しかしどこから攻撃して来るのか?ボスは?謎は多いです」
リグドも冷静に考える。誰も正解を知らないから返答もない。
「それがダンジョンだからな」
イグニスの覚醒者たちにジェイが近付き話す。既に後ろではAランク以下の覚醒者たちが持ってきていた資材を開封して簡易的な小屋や防衛陣地を作成していた。
レインの事を気遣ってか、メルクーアの覚醒者たちも持てる分の資材を運搬していた。
あの大きなリュックは何なのかと思っていたがそれだったのか。食料はないけど資材はあったんだな。その分を使っている。
「……ジェイ?」
少し離れた場所にいたメルクーアの主戦力も合流する。オルガも元気そうに手を振る。
さて周りは海だ。真っ黒で気色悪いけど。ここには水中で呼吸できるスキル持ちもそれを付与できる人もいない。
「……とりあえず周辺の探索を行いましょう。広くない島ですが何があるか分かりません。1人にならず2人以上、可能であれば神覚者の方々が近くにいる状態にしましょう。
レインさんはメルクーアの覚醒者たちが仮で用意した資材置き場に半分ほど物資を出していただけますか?」
ニーナが提案する。このダンジョン攻略の指揮はニーナが取る雰囲気になった。
レインよりも圧倒的に周囲をよく把握していて細かに指示を出せる。ニーナの指揮官としての能力はかなり高い為、メルクーア側も了承してくれるだろう。というか今の時点で何も言わないなら大丈夫だ。
しかし戦闘になった場合はそれぞれの国の覚醒者の判断で行動する。連携も取ったことがないのでそうした方が分かりやすい。
◇◇◇
レインはメルクーアの覚醒者に案内されるがままに物資を出し続ける。全部出さないのはモンスターの攻撃で破壊された時の保険だろう。全体の3割ほどで仮の資材置き場は埋め尽くされた。
建築や設置などはメルクーアの覚醒者たちが行うとの事でレインは既に探索に出ている覚醒者たちと合流する為、その場から離れた。
◇◇◇
「……さてと、みんなはどこにいるかな」
探すといってもこの島は狭い。間に木々がある為端から端を見ることは出来ないが、魔力でどの方角にいるのかは分かる。誰か……までは分からないけど。
とりあえず1番近くにいるっぽい青白い魔力が見える方向へ歩く。その魔力が誰なのかは何となく分かっていた。
「あーレインくん!物資の方は終わったの?」
浜辺にはオルガ1人でしゃがんでいた。自分で作り出したであろう氷の針で砂浜に絵を描いていた。
「終わったよ。今は防御陣地を作ってるみたいだ。俺はその辺りは分からないから助かる。今は1人か?」
オルガは横に来るように手招きする。断る理由はないのでオルガの横まで行って座る。砂がつくとかは気にしない。
「リグドくんだっけ?彼は中央に報告に戻ったよー。何もないってね。ていうかレインくんにも出来ないことあるんだねぇ。あのお兄ちゃんにすら勝てるんだから出来ない事なんてないと思ってた」
「それとこれとは別だよ。モンスターの知識も規則とかも全然知らないから」
「それは私も知らないけどね!……でも本当にここってSランクダンジョンなのかなぁ。海の色キモいけど音は綺麗だし、なんか落ち着くねぇ」
「そうだな」
海をしっかり見ることも初めてだった。どこまでも続く水平線というやつか。海の色が黒なのが気色悪いが、波の音というのはオルガの言う通り落ち着く。
「そういえばレインくんってさ」
「どうした?」
オルガは何かを思い出したように口を開く。しゃがんでいたオルガもレインの横に座る。
「レインくんはあの2人……どっちと付き合ってるの?」
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