第118話
「さあ行こう!そんなに長くは保たないよ!」
その言葉でAランク、Bランクの覚醒者たちが抜刀して飛び出した。彼らが先陣を切る。
「送る為の言葉はありません。皆様が誰1人とした欠けることなく戻られた際の言葉と宴のみご用意しております。
皆様のご武運を心よりお祈りしております。どうか我が国と国民をお救いください」
国王や国民に見送られてSランク覚醒者たちも続く。Sランクダンジョンには全員が同時に入らないといけない。
1秒のズレが内部でどれだけ過ぎてしまうか分からないからだ。
「じゃあ私たちも行くね!そこまで保たないからレインくんも急いでね!」
オルガとレダスも走り出した。走るというよりは氷の上を高速で滑っているみたいだ。
オルガたちが氷の道へ行くと同時に手前の方からひび割れ始めた。物資輸送の問題が解決しているから30分も待つ必要がなくなった。
覚醒者たちがある程度進んだのを確認すると魔力温存のためにスキルを解除して進むようだ。
レインも続く為、氷の道へ降りて走り出そうとする。滑ると思ったが氷の何かしているのか普通の地面と同じように強く踏みしめる事が出来た。
レインが走ろうとした時だった。
「ぎゃんッ!!」
すごい声が後ろから響いた。レインは慌てて振り返る。するとそこには滑らないはずの氷の道で滑り、顔面から氷の道へうつ伏せに倒れ込んだアリアがいた。
そしてその周囲はひび割れがひどくなり今にも砕けそうな勢いだった。アリアがスキルを解除した事で海の水も動き始め流れ込む。
こんな意味の分からない理由で主要攻略メンバーを1人失ってたまるか!――そう思いレインはアリアへ駆け寄る。
近くまで来た瞬間、その場の氷の道が完全に砕けた。レインはアリアの手を引っ張って起こす予定だったが、それだと2人とも海へと落ちる。
レインは咄嗟にアリアの服を掴んで抱き寄せた。
「ふぇぇぇッ!!!」
アリアが情けない声を出す。しかし間も無く海へ落ちるレインに反応するほどの余裕はなかった。
「しっかり捕まってて下さいよ!」
レインは一度その場でジャンプして国王たちの元へ戻る。振り返ると氷の道はドンドン砕けてなくなっていく。
「レイン様!」
国王の呼びかけに応じる間も無くレインは本気で跳躍した。アリアの肩を抱いて落ちないように強く引き寄せる。
レインの本気の速度は氷が砕ける速度よりも速い。
「ふわぁあああッ!!は、はやいぃぃッ!!」
レインは一度の跳躍で砕けていない所まで来れた。しかしすぐ後ろから海が迫ってきている。
既にレダスやオルガもほぼ渡り切っていた。既に到着した者たちは2人の神覚者が遅れている事に気づき始めて動揺し始めた。
攻略開始を前に無駄な動揺や混乱は防ぎたい。オルガたちがもう向こうへ着くくらいを確認したレインは〈強化〉のスキルを使って走る。
アリアは転けられても困るから強く抱いたままだ。レインが踏みしめた氷の道は周囲を巻き込んで砕けたがもう問題ない。砕ける速度よりもレインの方が圧倒的に速かった。
そのまますぐにSランクダンジョン『海魔城』へと到着した。
「あっっっぶねぇ」
レインは氷の道が砕けるよりも早く到着した。しかし海に落ちかけた事の焦りが今更レインを襲う。その後、すぐに周囲の視線に気付いた。
「…………すいません。お待たせしました」
レインはすぐに謝罪する。しかし周囲の反応は微妙だ。ニーナと阿頼耶に至ってはもはや睨んでいるに近い。そんなに待たせたか?
「……ど、どうしました?」
レインは状況が把握しきれずに問いかける。するとオルガがニヤニヤしながら近付いてきた。
「レインくん……女性に慣れてないみたいな感じだったのにぃー……その右腕に抱いた子は誰かなぁ?大胆だねぇ」
その言葉でようやく理解できた。レインの右腕の中でアリアは顔を真っ赤にして俯いていた。
あまりにも軽く、スキルを発動していたせいで重さとして認識できていなかった。そして全力出す為に魔力も抑制していなかったせいで気付かなかった。それほどまでに必死だったという事だ。
「すいません!」
レインはすぐにアリアを離す。
「い、いえ……た、助けていただき……あり、ありがとうございます」
ダンジョンに入る前から変な空気を使ってしまった。これがこの後に変な影響を与えないといいのだが。それだけが心配の種となった。
しかしすぐにそんな空気も変わる。ここはSランクダンジョン『海魔城』だ。既にレインたちは城の敷地の中にいる。城門の目の前の僅かな陸地に集合した形だ。
そのままレインたちは前後左右を警戒しながら壁に囲まれた王城を目指して歩く。
直接触れるような事はしない。しかしこの城の壁が何の素材で出来るのか……他の覚醒者たちにも全く理解できないようだ。
レインはどんな素材があるのかも分からないので、考えるのをやめている。
「どうやって入るんですか?」
そんな事も知らないのかと言われたくないレインは近くを歩くニーナにそっと問いかける。
「『王城型』のダンジョンへの入り方はただ一つ、あの城の扉に触れる事です。誰か1人でも触れたら敷地内の生き物、今回でいう覚醒者が全て内部へと飛ばされます。
本来なら間接的でもいいので物資に触れておく必要がありますが……今回はレインさんのおかげで必要ありませんね。ただ外でも警戒はしてください」
「わ、分かりました」
いつもと違う雰囲気のニーナにレインは少し怯む。警戒といってもここにはレインたち以外の気配は一切感じられない。
魔力もSランクダンジョンとは思えないほど感じられない。全く感じない訳ではない。けど周囲を城壁で囲まれているせいか不思議な感覚だ。
覚醒者たちは警戒しながらも城の扉の前まで来た。
門の大きさは明らかに人間が通ることを想定していない物だった。それは小さいという事ではない。圧倒的に大きい扉だ。レインの傀儡である巨人兵よりも大きい扉だ。
「これに触れるんですね?」
「そうです。向こうに行けばいきなり攻撃を受ける可能性もあります。各自装備の最終点検をして下さい!支援魔法やスキルが必要な人はお互いに言い合って下さい!」
大きな扉を前に覚醒者全員が最後の確認を行う。全ての物資はレインが持っているが、各々もポーションなどは持参している。
それらの確認する。さらに後ろでは支援魔法がドンドン展開されていく。
「レインさんはどうしますか?」
みんなの準備が整うまで待っているレインにロージアが声をかける。
「いえ大丈夫です。他の人にかけるか、魔力を温存しててください」
ロージアの支援スキルではレインを強化する事ができない。既にレインが持っている〈最上位強化〉スキルの方が強力だからだ。
「そうですか。……では皆さん準備も完了したようですね」
周囲を見渡すと全員がこちらに注目している。既にレインはレダスとの手合わせでその力を証明している。嫌な予想が的中した。
全員がレインを中心人物だと認識している。それが堪らなく嫌ではあった。しかしここでそんな事を言っている場合でもない。
「じゃあ……行きましょうか」
レインがみんなに問いかける。その問いを聞いた覚醒者たちはただ黙って頷いた。それを確認したレインは扉へ触れた。
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