第116話









「話を戻しましょう。問題は物資の輸送です。ニーナ様が仰った通り100日分に相当する食料などの支援物資は滞りなく準備出来ております。ただそれだけの規模となると馬車による往復を何十回も行わねばなりません。とても30分では間に合わない。

 そして内部と外の時間のズレが全く予測不能という事から神覚者3人を後から援軍として送る事も不可能です」



 ここでまた沈黙が訪れる。誰も結論を出せないようだ。レインを除いては。



「俺、収納スキルがありますけど……それだと駄目なんですか?結構入ると思いますけど」



「レイン……無理はするな。やめておけ」



 レダスが呟く。無理はしていないつもりだった。


「え?……別に無理してないけど」



「レインさん……無理しちゃダメですよ?既にかなりの強度を持つ武器をたくさん収納されてるじゃありませんか。それに複数のポーションも。

 収納スキルは本人の魔力量によって収納量が決まりますが、魔力を保有する物を入れると、その分だけ容量を圧迫しますから」


 ニーナにも止められてしまった。多分、この物資の問題は解決しないだろう。


 というかニーナに関しては魔法石も大量に入れたのを見せたのだから分かって欲しかった。



「えー……エルドラム……様?その物資は何処にありますか?俺が収納できる事が証明できたら良いんですよね?どうせ話してても解決しないんですから連れて行ってください」



 とりあえずここで話していても進まない。既にレダスとの手合わせで疲れている。寒いところって何であんなに疲れるんだろうと思う。



「承知しました。倉庫の方へご案内します」



◇◇◇



「こちらです」



 国王の案内に従って倉庫へと移動する。もちろんニーナやレダスたちも一緒に行動する。


 重厚な鋼鉄の扉を兵士が体重をかけて押す。扉は擦れるような音を立ててゆっくり開いた。



 その先には木の箱が大量に並べられていた。箱から魔力が溢れている物もある。それらがポーションだろう。


 そして壁にも大量の武具が立て掛けてあった。全て魔力が込められていて剣や槍に盾、斧や短剣など様々だ。

 そのような物資がレインの屋敷の面積に匹敵する広さの倉庫にビッシリと用意されている。



「とりあえず収納していってもいいですか?正直、自分でも容量は把握していないので、このついでに確認しておきたいですね。収納しきれなかった分だけ輸送にすれば間に合うと思います」

 


「分かりました。それではよろしくお願いします」



 国王の許可を得たレインは1番近くの木箱に近付く。ただそこで確認しておかないといけない事を思い出した。



「この中に食料ってありますか?それも一緒に入れて問題ないですか?」



 レインは国王へ問いかける。物資はどれも大切だが、食料に関してはちゃんと管理しないといけない。


 適当に扱ってしまうとダンジョン内で腹痛に襲われる可能性もある。

 

「問題ございません。長期保存可能な食材のみを選別して様々な国から取り寄せました。それに氷雪系の覚醒者によって常に温度を一定以下にするように指示してあります。そこにある分は問題ありません。

 それに収納スキルで保管されている間は時間の経過がほぼ止まります。もし収納量に余裕があれば長期保存可能な食材に限る必要はなくなりますね」

 


 そうだったんだ。レインは自分のスキルの事をいまいち把握していなかった。本当に時間がある時に勉強しないといつか痛い目をみることになるだろう。



「分かりました。じゃあ収納していきます」


 レインは収納スキルを発動する。レインの横に人が数人は横になれそうな広さの黒い渦が出現する。これだけだとゲートタイプのダンジョンに見えなくもない。


 かなりの頻度で使っているのに、ちゃんと見た事はなかった。


 そしてこのスキルの使い勝手が悪い唯一の欠点は自分で投げ入れないといけないという事だ。

 

 これだけの数の木箱を全て入れるのに、かなりの時間がかかる。そんな事やってられない。


 

「傀儡召喚」



 レインは上位剣士を10体ほど召喚した。Bランク覚醒者に相当する剣士だが最近騎士ばかりを使っていたから久しぶりに召喚した。たまには出番をやらないといけないかなというレインの気遣いだった。


 剣士たちに持っている武器を手放すように指示する。剣士が武器を手放すとその場に留まるのではなく消えてしまった。理由は分からないがそういうものだと自分を納得させた。



 そして続けて命令を下す。



「そこにある木箱を全部この中に入れろ。壊すなよ?あとゆっくり入れろ」



 収納スキルの中がどうなってるか分からない。大量に入れまくって内部でぶつかって壊れても困る。


 もしかしたらそういう事は無いのかもしれないが聞くに聞けない雰囲気だ。



 そこから傀儡たちは命令通りに行動する。1つ1つがそこそこ重いと思われる木箱を軽々と持ち上げて収納スキルで作られた黒い空間に入れていく。



 しかし木箱の数は一向に減らない。食料だけじゃなく、施設を建てるための資材やポーションに医薬品などなどでそれはもう物凄い量だ。

 


 これを何台の馬車で何往復するつもりだったのだろう。確かに30分ではとても運び切れる量ではなかった。



 傀儡たちが木箱を収納する度にレインの視界に何がどれだけ入っているのかを知らせる文字が出てくる。


 スキルがレベルアップした時と同じ感じだ。木箱の中に入った状態でも何があるのか分かるのはとても助かる。



 ただ取り出す時に間違えたらそこら辺にぶち撒ける事になるから注意が必要だ。武器なら意識せずに取り出せるが、資材に関しては難しい。この間も傀儡たちは休む事なく木箱を入れ続けた。


 

 

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