第115話








◇◇◇



 そこから場所変わってメルクーア王城内に併設された要人用の部屋に行く。Sランクダンジョン『海魔城』に行くまでの正確な日数やメンバー、物資などの相談を行う必要もある。



 ただエリスをずっと連れ回す訳にもいかない。なので先に部屋へ案内してもらう事にした。


 そのままエリスたちを部屋に置いて覚醒者のみで別室にて打ち合わせを開始する。


 この先の話はエリスには聞かせない方がいいと判断した。アメリアたちもエリスと同じ部屋にしてもらった。王城内という事もあり部屋が広すぎた。


 あそこに1人は寂しすぎる。レインの部屋にも阿頼耶が滞在する予定になった。話し相手がいないと流石に辛すぎた。



◇◇◇



 そしてさらに部屋は変わり先程の要人用の部屋である応接室へと戻る。ダンジョン攻略に関する話だ。



 全員が着席して少しの沈黙の後、ニーナが切り出した。



「では……いつダンジョンに出発するか……でしたね」



「はい…ただレイン様…あのお力が全て……という事でよろしいですか?」



 国王がレインに問いかける。レダスとの手合わせはメルクーア側の覚醒者たちに大きな衝撃を与えた。その力の事で聞きたい事は山ほどあるだろう。



「そうですね。身体能力とか召喚スキルに関してはあれ以上を出せというのは難しいかもしれませんね。ただ……」



 あくまであれは試合の範疇を超えてはいない。カトレア戦の時のように最初から殺す気であったならもっと早く簡単に決着していたはずだ。

 


「レインに俺を殺す気がなかったから良い勝負に見えただけ……だな?」



「いや……そんな事は……」



 ここで肯定すると後々軋轢を生みそうだ。仲が悪いより良い方が攻略においても絶対にいいはずだ。



「気を遣わなくていい。完敗だった。最初から本気だったなら俺は手も足も出せずにやられていた。貴方のような強者と戦えて光栄だった」



 レダスは立ち上がりレインへ向けて手を出した。

  

「こちらこそ」


 レインはそれに応えるために同じく手を差し出す。そして握手を交わした。オルガが言っていたようにめちゃくちゃ手が冷たい。咄嗟に離したくなるのを我慢した。



「いい感じに仲良くなれたね!アラヤさん……でしたっけ?レインくんが勝つ事も最初から分かってたの?」



 "そんな事言ってたのか"



「はい、レインさんは『決闘』も優勝しております。あの状況であれば打破できると信じておりました」



「え?!」

「なに?!」

 


 阿頼耶の一言にメルクーア側の覚醒者がざわつき始めた。何かまずい事言ったのか?



「し、失礼……ダンジョン攻略の話をせねばならないのは重々承知している。しかし……レイン様は『決闘』を優勝されたのですか?」



 国王がまた問いかける。メルクーア側の覚醒者たちの視線が集中する。なんで知らないんだ?そもそも言ってなかったのか?



「じ、事実……ですよ?失礼ですが、知らなかったんですか?」



「基本的には我が国の覚醒者が参加していなければ気に留める事はありません。

 それに今回はこのダンジョンの事もあって気にする余裕はありませんでした」


 

 それは確かにそうだ。国が滅ぶかもしれない事態なのにポーションの事を気にする余裕はない。

 


「レインくんは誰と戦ったの?今回は誰が出てたんだろ?あの『霧海』とかいたら最悪だよね!」



「…………あー……いましたよ。あとはオーウェンとカトレアですね。カトレアは本当に強かったです。かなりギリギリで勝てました」



「えぇッ?!オーウェンって『殲撃』のヴァイナー軍大将の事だよね?それにカトレアって『魔道の神覚者』のカトレア・イスカ・アッセンディア?!」



 やはりここでも有名だった。逆に『決闘』に参加して直接会うまで全く知らなかった自分の方がおかしいのか?と自問した。



「そうです」



「……そうか。俺では勝てないのも当然だな」



「単に相性なんだろ。俺は魔法が使えないし、遠距離攻撃もないからな。

 ……まあ今はいいだろ?ダンジョンにはどうやって行くんだ?大型の船で沈むって言ってだと思うけど?」

 


 これ以上レインの話をしても意味がない。それにみんなの注目を浴び続けるのも疲れる。早く本題に入って休みたかった。


「そうです。先ほども説明した通りですが、現在、『海魔城』周辺の海域は天候に関係なく大荒れの状態となっています。

 なので歩いて行く事になります。我が国が誇る神覚者、『狂濤』アリア・フォルデウムと『凍結』オルガ・イスベルグ、そして『氷牙』レダス・イスベルグの3名が海を凍らせ道を作ります。

 ここから『海魔城』までは直前距離で約3.5kmほどです。覚醒者でない者でも走れば20分ほどの距離でしょう。

 それがBランク以上の覚醒者たちとなれば数分で到着出来ると考えております」



 確かにそれほどの距離であればかなり早く着くと思う。レインやニーナの全速力であれば1分かからないかもしれない。


「ただ問題なのは物資なのです。神覚者3人の魔力を持ってしても『海魔城』までのルートを安全に確保出来るのは30分ほどとなります。

 3人が全ての魔力を使えば2時間ほどは維持出来るとの事ですが、それですとダンジョン攻略に支障が出ます。そのため、30分という時間が限界という事になりました。

 その時間があれば攻略隊全員は問題なく辿り着けると思います。しかし物資の方が……」



「そうですね。覚醒者60人以上ともなると向こうで拠点を作る必要もあるでしょう。ポーションや医薬品、食料、予備の武器や資材が最低でも100日分は必要でしょう」



 ニーナの立てた予想に反対する者はいない。レインだけが多くないか?と思っていた。



「そんなに必要なんですか?」



 気になって仕方ないレインはとりあえず聞いてみた。多少残念な顔をされても我慢する。



「はい、『エスパーダ』がSランクダンジョンに入ってから出てくるまでに外の時間では15日ほどでした。しかし内部では80日が経過していたという情報があります。

 レインさんもご存知の通り高ランクのダンジョン内部は膨大な魔力が堆積しています。その影響もありダンジョン内では空間だけでなく時間も歪みます。そのせいで中の時間と外の時間が大きく異なるんです」



 …………そうなんだ。いやアルティに鍛えられた空間もそうだった。1時間が1年くらいのぶっ飛んだ空間だった。なら食料は要らないんじゃないのか?



「そこって空腹とかはあるんですか?」

 


「ありますよ?ただ高ランクになればなるほど時間がかかります。おそらくですが、Sランクダンジョンともなると食料すら必要ないかもしれません。

 ただ食事というのは過酷な環境でも人間性を失わない為に必要な手段です。なので食料に関しても必ず必要になります」



「分かりました。ありがとうございます」



 レインが人間性を保つにはエリスの存在だけでも普通にいけるという事が分かった。

 

 

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