第106話







◇◇◇



「あらあら!まあまあまあ!!!」



 シャーロットの声が王城の入り口で響く。エリスはレインから引き剥がされシャーロットに抱きしめられて頭を撫で回されている。


 何処かで見た事があるような光景だ。ただあの時のように助けを求められるような目を向けられる訳ではなく楽しんでいるようだ。



 レインとエリスが王城へ近づいた時だった。レインの接近に気付いた門兵の1人が持っていた槍を投げ捨てて王城の中へと全速力で走っていったのが見えた。



 多分、シャーロットからそうするように言われているのだろう。

 それでも王城の入り口には詰所の中にいるだろう人を含めないでも10人くらいがいる。



 第2の都市であっても王城は王城だ。警護がしっかりしている。

 レインの屋敷にも兵士がいるが、庭の中には明らかに見える形で傀儡を置いてもいいと思った。



 その方が侵入しようと思う事はないだろう。ただ周囲の人から怯えられるのも困る。レインではなくエリスの評価が下がるのは何としてでも阻止したい。



「ふぅ……本日はどのようなご用件でしょうか?」



 シャーロットはエリスの後ろから腕を回し、頭の上に顎を乗せて左右にフラフラと揺れている。まるで姉妹のようにも見える。微笑ましい光景だ。



「エリスが治ったので、街を案内しようかと思ったんです。

 ただ俺はあまりこの街を知らないので、何処かオススメの場所でもあるかなぁと思って」



「なるほど!では私が案内致しましょう!すぐに用意しますので5分ほどお待ちいただけますか?」



「いや……流石にそこまでは……」



「えー……私は一緒に行きたいよ?」



 エリスもシャーロットの事は気に入ったようだ。エリスの希望は可能な限り叶えると決めているレインは即答する。



「じゃあお願いします!」



「お待ち下さい!すぐに準備しますから!」



 シャーロットはドレスの裾を掴んで走って戻って行った。確かにあんなすごいドレスだと街中を歩くのにも苦労するか。

 シャーロットの後を複数の兵士が慌てて追いかけていくのも見えた。兵士も大変だな。



◇◇◇


 

「お待たせしました!!」



 シャーロットはまた走ってきた。服装はステラのような軽装ではあるけど装備ではない感じのものだ。上流階級って感じだが動きやすさを意識している。



 その後ろには護衛の兵士だろうか。兵士たちが来ている重厚な鎧ではなく、こちらも軽装だ。

 ちゃんと帯剣しているし明らかに兵士と分かるが、動きやすさを重視したんだろう。人数が5人だ。



「本当は私だけが案内するつもりでしたが、ダメだと執事長に言われたので仕方なくです。

 ……まったく、レイン様の近くほど安全な場所などないと説得したんですが最低でも5人を護衛につけないと外出の許可は出せないって……」



「王女様でもそんな許可がいるんですね」



「そうなんです!お父様がそうするにように命じてしまったので私に逆らう事は出来ないんです」



 まあ実際走り回ったり護衛もつけずに出掛けようとしたり勝手に色々やってるからだろうな。

 

 父親からすれば怖すぎて、行動を制限できる権限を持った信頼できる人を近くに置いておかないと不安なんだろう。レインにもエリスがいるから分からなくもなかった。



「そんな事、今はいいですね。さあエリスちゃん!行きましょー!」



「行きましょー」



 シャーロットはエリスの手を引いて護衛と共に先に歩き出した。レインも遅れないように歩く。


 

◇◇◇



「なかなか美味しかったですね。普段食べないので新鮮でした」



 シャーロットたちと共に飲食店を出る。結局シャーロットも王族である為、レインたちのような庶民が行く店の事は知らなかった。


 結局、護衛の兵士がいつも通っているという店を紹介してもらって行く事にした。


 神覚者と王女様にエリスと兵士たちがいきなり来店して店内は少しパニックになったが何とか食事を済ませる事はできた。


 その後は武具屋に行ったり、衣服を見たり、買ったりをして行った。

 荷物は全て収納スキルに突っ込んだ。そんな事を繰り返しているとあっという間に夕方になった。


 もうそろそろ帰ろうかと考えている時だった。シャーロットがレインの服を摘んで引き留めた。


「レイン様……このままレイン様の家にお泊まりしてもいいですか?エリスちゃんともお話ししたいですし」


「別にいいですけど……シャーロットさんは良いんですか?仕事もあるでしょうし、許可も必要なんじゃないですか?あとで俺が怒られるのとか嫌なんですが……」


「大丈夫ですよ!あとで誤魔化すので!……あなたたちももう戻りなさい。レイン様の家も近いので護衛はここまでで大丈夫です」


 シャーロットは近くに控えている兵士に声をかける。


「し、しかし……」


 やはり護衛たちはすぐに了承しない。もし何かあれば護衛たちの責任にもなってしまう。


「私に同じ事を言わせるのですか?」

 


 シャーロットは笑顔で兵士の1人に言い放つ。


 ただ目が全く笑っておらず、これ以上の抵抗をみせると何をされるか分からないような雰囲気すら漂っていた。



 "うっわぁ、今の怖ッ!やっぱり女性って表と裏があるもんなのかなぁ"



「し、失礼致しました!!我々は王城へ帰還致します!!!」 



「そうしなさい。……ではレイン様、護衛をお願い出来ますか?」



「りょ、了解……です」



「あら?何かとても恐ろしいモノを見たような顔ですね?大丈夫ですか?」



「え?!だ、大丈夫……ですよ!」



「そうでしたか。なら良かったです。さあエリスちゃん、一緒に行きましょうね」



「う、うん」



 エリスも返事が微妙だ。ここで2人は初めて王女という地位につく者の裏の片鱗を見たのだった。


 

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