第97話
◇◇◇
そこから周辺を見回りながら村の中を走る。所々で家が燃えているがモンスターはほとんど討伐出来たようだ。ダンジョン
だから外を出歩いているモンスターを全て倒せば攻略完了となる。魔法石が一切手に入らないのが嫌なだけだ。
「…………終わったか?」
レインはしばらく歩いたが、モンスターも人も見当たらない。全員が避難してモンスターは傀儡たちが掃討したと判断する。
「神覚者様!」
後ろから声をかけられた。振り返るとそこには覚醒者らしき男がいた。装備はお世辞にも強いとはいえない。防具からは魔力を感じない。
つまり兵士が着ているような物と同じだ。持っている鉄剣からは僅かに魔力が出ている。斬れ味を向上させる効果でもあるのだろう。
「どうしました?」
レインは返事をする。
「この辺りは確認しました。モンスターは全て討伐出来たものと思います」
「そうか。じゃあみんなのところに行こう。俺の召喚した駒はこのまま村の中を巡回させておく」
「あの黒い騎士たちですよね?モンスターの集団を一瞬にして殲滅したんです。本当にすごい光景でした。神覚者様はやはり偉大ですね。俺なんかとは……」
「そんな事ないでしょう。貴方だって他の人を逃すために囮になったんですよね?そして貴方自身も無事だ。良いことじゃないですか」
「…………ありがとうございます。神覚者様が到着されてからは誰も傷付かずに済んだのは奇跡でした」
「俺が……来てから?」
◇◇◇
村の中で発生したダンジョン
いくつかの家が倒壊し、怪我人もいた。怪我に関してはその後、他の兵士たちを連れて、レインを追いかけてきた阿頼耶が治した。
セラは他の村人たちとの再会を喜んだ。村人たちはレインという神覚者を称えて全員で喜びを分かち合っていた。村人には怪我人こそ出たが死人は誰1人としていなかった。
それでもレインの表情は暗かった。
――兵士が3人死んだ――
レインがこれまで駆けつけたダンジョンで死人は出てこなかった。自分が手にかけた者以外は。レインの力は多くの人を助けることが可能な力だ。
そして兵士が死んだのはレインが来る少し前だ。どうやってもこの結果は回避出来なかった事だが、それでも自分を責めた。
1人は炎上し倒壊しそうになった家から夫婦を連れ出した。しかし自分だけ一歩間に合わず下敷きになった。
1人はモンスターを足止めする為に、モンスターが吐いた火を利用して油瓶を投げた。小屋は兵士を残したまま爆発しモンスターを少しの間、内部に閉じ込めた。
1人は逃げ遅れモンスターに囲まれた子供を助けるために、その子供の上に覆い被さった。背中にモンスターの爪や牙を受け続けた。傀儡がモンスターを殲滅するその瞬間を見届けて生き絶えた。
3人ともこの村を守るために命をかけた。話を聞くと良い人だったらしい。遠くに住む家族の話を良くしていたと聞いた。
この件は本当に誰も悪くない。家の中にダンジョンが出現するなんて誰も思わないし聞いたこともない。それにEランク覚醒者では魔力探知には乏しく気付けないだろう。
すぐにダンジョンの存在に気付けば王都からだって援軍を呼べたかもしれないが、そんな事を言っても仕方がない。
ただ運がなかっただけ。ただ悪いことが重なっただけ。
「…………運が悪かった……か」
レインは大きな一枚の布で頭から足まで覆われた兵士3人の前に立つ。その後ろには兵士長と呼ばれていた男ともう1人の若い兵士がいた。若い兵士は泣いていた。
「神覚者様……この度はこの村を助けていただき……」
兵士長らしき年配の兵士が御礼を言おうとする。
「助けられていない。……3人も死んだ」
「………それでも助けられたのは事実です。神覚者様がいなければこの程度では済まなかったでしょう」
「この程度?この3人はこの程度って事なのか?この人たちにも家族がいるんだ。残された側はどうなる?罪人ならまだしもこの人たちはそうでは……」
横にいた阿頼耶がレインの前に手を出す。それを確認したレインは口を閉じた。
「レインさん……魔力が……」
「……ああ、分かってる。申し訳ない。あと少し様子を見たら『テルセロ』に戻るよ」
レインは阿頼耶を連れてその場を離れた。
すでにレインが保有する魔力量はあのカトレアすら凌ぐだろう。それが解放されると覚醒者だけでなく魔力を行使できない兵士や一般人にすら悪影響を及ぼす。
この兵士たちは死んでから時間が経過してしまっている。ローフェンを連れて来ることも出来ない。
「……はぁー……全く…覚悟はしてたつもりだったんだけどな。助ける事が出来たかもしれない人が遺体で目の前にいると色々考えちゃうな。そういやこんな感じで人の死に触れるのは初めてかもな」
最初こそ自分を騙して殺そうとした覚醒者たちを殺したが、あれに関しては特に何とも思わなかった。既に自分がそういう目に遭っていたから。
ただ今回は全く違う。あの兵士たちは罪人でない。逃げる事だって出来たはずなのに村人を守る為にその身を犠牲にした。
村の人たちはみんなレインを褒め称えるが、村人に死者がいないのはその兵士たちがいたからだ。
「……俺はもう帰ります。ただその事を忘れないで下さい」
「…………はい」
レインは帰り際にその事を村人に伝えた。感謝を向けられるのはレインではない。その兵士たちだ。少しでも彼らが報われる事を願った。
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