第80話









「け、けけ、決着!!!勝者!『傀儡の神覚者』!!レイン・エタニアー!!!」



「「「わあああああああ!!!」」」



 相変わらずうるさい歓声だ。とりあえずこれで1勝。あと何試合あるんだろう。


 決着の合図と同時に神官服を着た覚醒者たちが闘技場内になだれ込んでくる。最低でも8人はいるだろう。そして先頭を歩いているのがおろらくその人だ。



『治癒の神覚者』……名前は知らない。けど女性だというのはこれで分かった。綺麗な金色の髪だ。シャーロットやニーナを思い出す。


 そしてレインに匹敵するほどの金色と緑色が渦を巻くような魔力が見える。膨大な魔力の全てを治癒のスキルに特化させているみたいだ。



『治癒』はレインを通り過ぎてオーウェンの前でしゃがむ。 


「ヴァルグレイ将軍……大事ありませんか?」


「いいや……骨が何本か折れておる。腕と肋だ。治癒を頼む」


「かしこまりました」 


『治癒』はオーウェンに軽く触れてスキルを使用した。オーウェンは一瞬金色に輝き立ち上がった。



「ふぅ……相変わらずすごいスキルだの。助かった。……何度も言うが我が国と我が王国軍はいつでも貴殿を歓迎しているぞ」



「ふふ……申し訳ありませんが……遠慮させていただきます」

 


 オーウェンは『治癒』を何度も誘っているようだ。速攻で断られたけど。今の会話の一瞬で治療してしまった。



「……あなたは大丈夫ですか?」



『治癒』は立ち上がりレインにも問いかける。

 


「今、神覚者のスキルを使ったんだろ?そんな連続で使えないのでは?」



「……ああ、レインさんは初めてでしたね。私のスキル〈神の癒し〉は1つの対象に連続で使えないだけで、別の対象であれば魔力が続く限りは使えます。

 ……ただ時間制限によりその頬の傷は治せませんね。普通の〈治癒〉スキルで良ければ治療しますよ?」



 思い出したらまた痛み出した。口の中が切れてるんだった。



「……お願いします」



 ここは素直に頼むことにした。なんとなくだがこの人は信頼できるんじゃないかと思ったからだ。というか治療してくるのをわざわざ断る必要もない。



『治癒』はそっとレインの頬に触れた。触り方が優しすぎて擽ったいと感じる。



「……はい、終わりました。他に異常はありませんか?」



 神覚者としてのスキルを使っていなくても、ものの数秒で治してしまった。阿頼耶の回復スキルも凄いが、これもあれに並ぶほどだろう。



「ありがとうございます。問題ありません。……えーと……何とお呼びすればいいですか?」



「……そうですね。では自己紹介をしておきましょう。私は治癒の国『ハイレン』神覚者、『治癒』の称号を賜ったローフェン・クラティッサと申します。

 私のことをもっと知りたければ……是非この国に来て下さい。レインさんであれば歓迎致しますよ?」



 これは……勧誘なのだろうか。別にこの人の事は興味なかった。ずっと『治癒』って呼ぶのも申し訳なかっただけで。



「……まあ考えときます」



 こうして『決闘』第1試合は大番狂わせ。誰もが敗北を疑っていなかった無名の覚醒者レインに勝利に終わった。この日だけで億万長者になった者が複数いたという話をレインが知るのはまた別の話だ。



◇◇◇



 レインとオーウェンは別々の入り口から入場したのに帰りは何故か同じ出口から退場する。というよりはオーウェンがレインについてきた形だ。



「……レインよ。我が国に来ないか?我が王国軍の大将補佐の席を用意しよう。報酬は望む額を用意する。

 それに……これは失礼になるが『イグニス』という国に比べれば我が国は国土も資源も上回っていると思う」



「……考えておきます」



 断ると面倒そうなので検討という形にしておく。もちろん行くつもりはない。引っ越しとか面倒だし。



「先ほどローフェンに誘われた時も同じ事を言ったではないか。それほど『イグニス』という国に思い入れがあるのか?」



「……………………」



 その問いにレインは黙る。思い入れなんてものはない。



「別に……ありませんね。俺はFランクでした。神覚者となる前は誰からも見向きもされず酷い扱いでしたよ」



「ならば我が国へ来るといい!国を挙げて歓迎しよう!」



「でもそっちへは行かないと思います。俺はある人の為に行動すると決めています。だから俺の居場所はその人の元です」



「神話級ポーションもその者の為に……という事か。よかろう。決意は固いようだか。

 もし移住でなくとも我が国に来る時は事前に通達してほしい。個人的にも貴殿の歴史を聞いてみたいのだ。……また会えるだろうか」



 なぜしおらしくなっているのか。



「こっちに来れば会えるんじゃないですか?……とりあえず次の試合を確認しないと」



「冷たいのぉ……ではお近付きの印として情報をやろう。この決闘に参加している神覚者は6人だ。

 お主の実力であれば並みのSランクには問題なく勝てるだろうがな。当然、警戒が必要なのは神覚者だ。神覚者が6人であればあと2人と必ずぶつかる。その中で最も警戒すべきは……」



「ちょっと待って下さい。なんでそこまで知ってるんですか?俺は何も知らないんですが」


「うむ……これは特例でな。優勝経験者は参加人数と名前は教えてもらえるのだ。ここの参加者はほとんどが王家や貴族から依頼されている。

 ただ依頼しているとはいえ国として難しいのが、神話級ポーションは欲しいが他国の要人に自国の神覚者のスキルや情報は渡したくないという考えがあるのだ。よって毎回参加者は同じだ。だから対策も練ることができるという事だな」



「……なんかずるいですね」



「これもこの国が覚醒者の呼び込みと財源の回復の為なのだよ。この決闘は1年に1回か2回行われる。その年の神話級ポーションの作成数によるようだな。

 この決闘1回で数千億もの金が動くらしい。闘技場周辺の宿泊施設、飲食店、武具屋は数十倍もの売り上げを出す話も聞く。

 観客は神覚者やSランク覚醒者という普段は目にする機会すら少ない者たちの全力の戦闘を間近で見られる。さらに闘技場出入り口にはその神覚者のファンが詰めかけプレゼントを渡そうとしたりと大盛況なんだ」



「その辺は興味ないですね」



「それには同感だ。と言ってもワシはこの顔のせいもあってか人が寄り付かんでの。しかしお主は顔も良いし体格も引き締まっておる。

 すでに女性を中心としたレイン愛好者の集まりもできているかもしれんぞ?」



「やめてくれ、女性は苦手なんだ。それでこの後はどうしたらいいんだ?」



「そうか。まだその辺も分からないのか。この後は第2回戦と第3回戦まで行う。今回の参加者は32人だったはずだ。2日目に準決勝、3日目に決勝戦を行う流れだ。

 控室があったはずだろう?そこで職員が呼びに来るまで待っておくのだ。会場の外に出ることは禁止されているからな。勝手に出ると棄権したと見做されてしまうから注意が必要だ」



「色々細かいんだな」



「それはそうだ。国家事業だからな。曖昧なルールで勝敗を決めると批判の的になる。それは世界中に伝わり誰も訪れなくなってしまうからな」 



「そうですか。ありが……」



 レインがお礼を言って離れようとした時だった。



「待て待て!話を戻すが2人の神覚者の件だ。お主はまだ全力を出していないとはいえ、戦闘スタイルは大まかに周りに伝わっただろう。その中で……」



「大丈夫です。俺は初めて参加するんです。対戦相手の情報は知らないままの方がいいです」



「そうか?だが称号だけは知っておけ。どうせ開始前に発表されるのだ。今のうちに知っておいても問題なかろう?」

 

「それは……そうですね」


 レインが納得した事にオーウェンは満足気に頷き話し始める。


「『霧海の神覚者』と『魔道の神覚者』だ。この2人には気をつけよ。ワシでも勝てる見込みはないのだ。

 この2人が参加していない年にワシが出て優勝出来た。この2人のどちらかが参加していると優勝は諦めるほどだ。それが今回は2人とも揃っておる」

 


「そうですか。気をつけます。……色々ありがとうございました。これで一旦失礼します」



「うむ!何かあればワシを頼るが良い!貴殿の活躍を祈っておるぞ」



「……どうも」

 

 

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