第81話
◇◇◇
オーウェンと別れ控室へ戻る。各通路に案内板があるから迷わずに済むのが助かる。道中、誰ともすれ違わずに行けた。控室の扉を開け、フカフカの椅子に腰掛ける。
「……はぁー、何とか勝てたな」
"まあまあ!楽勝だったじゃん!"
「……別にそうでもないよ。あの人が油断してたからだと思う。多分……全力を出していないんじゃない?神覚者が格闘スキルしかないってないでしょ?」
"どうだろうね。神覚者なんて初めて会ったからあんなもんなのか分からないよ。
それに同じSランクでも強い奴もいれば弱い奴だっている。神覚者にもあるんじゃないの?"
「みんな神話級ポーションは欲しいけど手の内を見せたくないって事なんだろうね。俺はこれが目的だし手の内を見せる、見せないとかはよく分からん。
けど序盤で傀儡だけに頼るのもあれだな。自分自身が強くならないとより強い傀儡も手に入らないし。剣術も戦術もまだまだだし。……まあいい感じにやるさ」
"そうだね。まあ頑張りなさいな"
「……おう」
アルティとの久しぶりの会話が終わる。そして少しだけ目を閉じた。
それからどれくらい経っただろう。少し寝てたかもしれない。
目を開けると同時に控室の扉がノックされた。レインが中から返事をすると職員が入ってきた。
「レイン・エタニア様、間も無く1回戦の全試合が終了します。すぐに2回戦となりますので西門入り口までご案内します。よろしいですか?」
男性の職員は丁寧に真っ直ぐこちらを見て話す。予想より早かった。もう何試合も終わったのか?
「大丈夫です。行きましょう」
レインは立ち上がり職員へとついていく。次の相手は誰だろうか。
◇◇◇
レインは1回戦と同じ場所で待つ。入り口横に職員はいるが話しかけてこない。当然といえば当然ではあるが会話がないのがつらい。
しかし自分から話しかけに行くことも出来ない。だから調子どうですか?――くらい聞いてほしかった。
「それでは!これより第2回戦を開始致します!!!」
さっきの本当にうるさい審判の声が響く。それに呼応した歓声もこれまたうるさい。
「まずは!!西門!!」
「…………俺の方か」
「レイン様……扉が開いたら真っ直ぐ中央まで向かって下さい。ご武運を」
「ありがとうございます」
レインは職員の男性にお礼を言い扉が開くのを静かに待つ。
「誰があの結末を予想出来たでしょうか!!初出場ながら、1回戦であの『殲撃の神覚者』を破り、2回戦へと駒を進めた『傀儡の神覚者』!!レイン・エタニアーー!!!」
謎の紹介文が加わり扉が開かれた。若干恥ずかしい思いをしながら闘技場内部へと歩いていく。
「「「わああああああ!!!!」」」
最初の時とは比較にならないほどの歓声が響く。手を上げてアピールでもしたほうが良いのだろうか?ただそんな事はレインの性格上出来るわけもなかった。
チラッと周囲を見渡すだけで何もせず中央へ向かってゆっくり歩いた。
「対するは!第1回戦を接戦の上で勝利!!初めて2回戦への進出を決めたSランク覚醒者!!太陽の国『ヘリオス』最大ギルド『天道』所属!セレン・アリトリア!!!」
東門からレインと向かい合う様に赤みがかった髪の女性が出てきた。この時レインはマズイと思った。生来の女性耐性の無さと相まって攻撃できないかもしれない。
男であれば遠慮なくぶん殴れるが女性だと厳しい。死んでも復活できるとはいえ手を出すのに気が引けてしまう。
魔力を見るとレインとは比較にならないほど差がついている。赤い魔力が立ち昇っているがニーナよりも弱いと思う。あの時のような迫力を感じない。
どうしようかと思いながら中央まで移動し向き合う。
「よろしくお願いします」
セレンは握手のために手を差し出す。
「……どうも」
レインはそれに応えるように握手した。オーウェンの時のような会話はなくそのまま振り返り定位置へと移動する。
「それでは!双方準備が整いました!……決闘第2試合!!開始!!」
審判の合図でセレンは剣を抜いて炎を纏わせた。やはり魔力の色から想定していたが炎系のスキルを使うようだ。さらに剣を抜いたことから近接系の
「行きます!!」
セレンは剣と自身に炎を渦を纏わせレインへと突進する。
"遅いなぁ。だけどあそこまで炎を纏ってると攻撃も難しい。熱そうだし。……仕方ない。盾で殴りつけるか"
レインは剣と盾を召喚した。そしてセレン目掛けて剣を全力で投擲する。収納スキル持ちの特権だ。収納スキルに入れていた物が離れると好きなタイミングでもう一度収納する事が出来る。
剣は高速で回転しながらセレンへ向かっていく。外れてももう一回取り出して投げればいい。
まさか剣を投げてくると思わなかったセレンは突進をやめて剣を迎撃しようとする。せっかく螺旋状に纏った炎も停止してしまったら周囲に撒き散らすだけとなる。
そうなればレインの速度で熱さを感じる前に制圧できる。
レインが投擲した剣への対処に追われたセレンはレインの姿を見失う。レインは盾を正面に構えてセレンの横から突進した。そこそこの速度で体当たりした形だ。
セレンはそれに反応できるはずもなく鈍い音と共に吹っ飛び地面に倒れ伏した。
ここまでで数分であった。
◇◇◇
レインはまた控室の同じ場所で天井を眺めている。
「はぁー……」
"そのため息で30回目なんだけど?さっきから辛気臭いんだけど、何なのよ?"
「……数えんなよ。いや、女性をしっかり殴ってしまったなって……。経験した事ないから……なんか凹む」
"いやいや……戦いなんだから性別とか気にしてたらダメでしょ"
「……いやまあそうなんだけどね。慣れないといけないなぁ」
"ははッ!女を殴るのに慣れてる奴も大概だけどね!"
「何笑ってんだよ……というかいつまで待てばいいんだ?さっきはもっと早く来てただろ?なんかあったのか?」
レインが試合が長引いているなど、そっち方面を心配し始めた時だった。控室の扉がノックされた。
「……やっと来たか。どうぞ」
レインが返事をすると職員が入ってきた。さっきとは別の男性だ。
「レイン様……お待たせして申し訳ありません。レイン様の本日の試合は全て終了しました。もう併設されている宿の方へお帰りいただいて大丈夫です。明日、朝になればまた遣いの者を送りますのでよろしくお願いします」
「え?3回戦はどうなったんです?」
「3回戦でレイン様が対戦する予定だったSランク覚醒者様は棄権されました。よってレイン様の不戦勝となり明日の準決勝へ駒を進めた形となります。おめでとうございます」
職員の感情ゼロの祝いの言葉をもらって控室をほぼ追い出される形で出た。掃除もしないといけないらしい。
レインにとっても試合がないなら帰りたいと思ってたのでちょうど良かった。なのでそのまま阿頼耶が待つ宿へと向かう。宿への道もちゃんと看板があって助かった。
その日は簡単な食事と阿頼耶と何があったのかの話を寝た。職員が呼びにきたら阿頼耶に起こしてもらう事にした。
睡眠が必要ないって大変だと思っていたがやる事が増えてくると羨ましく思う。レインは普通に6時間以上しっかり寝ないと休めないタイプだった。
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