第66話







◇◇◇



『上位騎士』


 装備は剣士とそこまで変わらない。剣士が持つ盾が大きくなっただけだ。モンスターの時は長剣と短剣を持っていたのに、剣と大盾に変わっている。

 ただ魔力量が多い。魔力の多さは身体能力と結びつく。だから大きな盾を使って守る事が得意そうだ。



 本当にちょうど良いのを見つけたと思う。強さもAランク覚醒者と同等クラスで申し分ない。



 今まではダンジョン内にいるモンスターを全て傀儡にした事はなかった。100体くらい集まればいいと勝手に判断していたからだ。本当ならその3倍以上はいるが、必要ないと判断すれば傀儡に殺させていた。



 ここのダンジョンもこんな騎士が数百体は居ると思う。これまでなら100体集めて終わりだったが今回は違う。徹底して殺さず、全て傀儡にする。そしてそのほとんどをエリス、それと屋敷の人間に護衛として潜ませる。



「これで目的は達成出来そうだ」



「目的ですか?」



 ニーナはレインの隣を歩きながら問いかける。その後ろをサミュエルを先頭に覚醒者たちが列を成してついてくる。

 全員が驚愕の表情を見せている。レインのスキルは特殊すぎるため何の参考にもならないのが少し申し訳なくなる。



「そう……見た目がいい感じの駒が欲しかったんです。……あー魔法石も取っておかないと」



 レインは上位剣士を数十体召喚して魔法石の採掘をさせる。いつもの流れだ。


 

 進むにつれて瀕死の骸骨が地面に投げ捨てられている数が増えてきた。その全てにトドメを刺す。



◇◇◇


 

 上位騎士たちはどんどん数を増していった。そして数が250体を超えたところでボスの部屋にたどり着いた。


 既に中では戦闘が起こっていた。魔力がゴリゴリ削られているからそれなりに強いモンスターなんだろう。



「ニーナさん……これからボスの部屋です。俺の駒がかなりやられているので相当強いと思います。警戒を……何かあれば新人の子たちを守ってあげて下さい」



 100体近くのAランクに匹敵する傀儡たちがいまだに倒せていない。それだけでこのダンジョンのボスが相当強いという事はニーナにも理解できた。

 すぐにサミュエルへ視線を移した。サミュエルはその視線だけで警戒の必要ありと察して覚醒者たちに警戒を促した。



 この連携と伝達能力はさすがと言える。ただここで待っていても傀儡が勝てそうな感じはしない。


 レインも参加するために剣を取り出してボスの部屋へと入る。



「あーなるほど……」



 傀儡たちが苦戦するのも無理はない。このダンジョンのボスは骸骨スケルトンなんてもんじゃない。巨人だ。それもヴァルゼルの配下だった巨人とは異なり明らかに武装している。


 どうやって作ったのか分からない鋼鉄の防具が脚や膝に続き腰まで装着されている。上半身にも巨大な布で作られた服を着ていて腕にも鉄の鎧を装着している。


 頭だけが剥き出しだが、見た目はオーガのような顔だ。ツノもあり牙もある。鋭い眼光がこちらを見ている。

 ヴァルゼルを彷彿とさせる大剣を振り回し傀儡の兵士を薙ぎ倒している。



 周辺には中位の骸骨スケルトンが傀儡たちに群がっている。そのせいで傀儡たちが分断され連携も取れない。元々連携が取れる奴らではないが。



 ――ガアアアアッ!!!!――



「……ひっ」



 巨人の咆哮を受け、後ろに控える覚醒者が小さな悲鳴を上げた。

 新人の訓練にはここは厳しすぎたのでないだろうか。

 Bランクでも支援として、Aランクなら最前線で戦うことになる。しかしここはAランクの中でも最高位クラスの難易度だとニーナが言っていた。


 いきなり現実を見せつけ過ぎるのも可哀想だな。Bランクでも覚醒者の中では上位だ。イタズラに心を折るもんじゃない。


 それにニーナはもちろんだがサミュエルも全く動じていない。強そうではあるがSランクにとっては対処可能だ。



 それを示すためにもアイツを簡単に倒してみせようか。神覚者って言われてる者がAランクダンジョンで苦戦している姿は見せない方が絶対にいい。



「じゃあ行ってくるよ。新人の子たちには怯えるなと伝えて下さい。あんなのはただ声と身体がデカいだけな奴だ」



「……ふふ…了解です。ただ巨人をそう言えるのはこの国ではごく少数ですよ?」



「それが今は同じダンジョンに味方としているんだって事ですよ。すぐに終わらせます」



 レインは剣と盾を構えて突撃した。それに合わせて傀儡たちは巨人から離れ周囲に群がる骸骨スケルトンの接近を防ぐ。



 巨人も傀儡の動きからレインの接近に気付いた。そしてすぐに数メートルはある大剣を振り下ろした。



 レインは盾を構えて大剣を受ける。正面から受け止めてしまうと〈強化〉を発動させているレインであっても押し負ける。

 受け止めるのではなく受け流す。前にヴァルゼルが言っていた。剣による斬撃、つまり線の攻撃に対して盾、四角で正面から受けると負担が大きい。負担を軽減する為には四角ではなく球体をイメージして受け流す方がいい。



 そもそもヴァルゼルが言うには、レインの攻撃は身体能力によって無理やり強者の領域に連れて行かれている状態らしい。


 力も強いし脚も速い、その動きに対応できるだけの目も持っている。


 だから剣でも槍でも拳でも本気の速度で全力を持って振るえば相当な威力となる。


 それ故に勿体無い。剣術と体術を覚え、死を恐れない絶対服従の傀儡を動かす為の戦術を身につければレインという存在に勝てる者はいなくなる。



 ただ学もなく、地頭も壊滅し、文字も書けるとは思うが、本当に?と聞かれると、はい!と言えない感じに不安なレベルのレインにはこのダンジョンより難易度が高い。


 なので時間を見つけてとりあえず出来そうな剣術をヴァルゼルから習っている。今日がその実戦だ。



 巨人の大剣はレインの盾によって受け流され地面に深く突き刺さる。いつもならレインの脚が地面に沈んでいただろう。

 防ぐ事は出来るが次の行動に移るのが遅れる。受け流す事によって身体の負担を軽減し次の行動へスムーズに移る。



 巨人は地面に深く大剣を突き刺し過ぎた。その大剣を引き抜くまでに数秒かかった。たった数秒でもレインにとっては十分だった。



 盾を投げ捨て大剣の持ち手を足場にして跳躍する。巨人はもう片方の腕でレインを掴もうとするがこれを斬り落とす。その苦痛で大剣を地面から抜く所ではなくなった。


 もうレインがどこにいるのかも分からないだろう。レインは巨人の肩に着地してもう1本剣を取り出して首を斬り落とした。



 ――『傀儡の兵士 巨人兵』を1体獲得しました――



「……はい、終わり。剣術……っていうか技術を使った戦いってすごいな。物凄く楽に倒せた」



 今度思いっきりダンジョンで暴れさせてやらないとな。そうした技術を教えてくれたヴァルゼルには感謝しないといけない。



 "これで目的は達成した。すぐに街に戻って傀儡を仕込む装備を買わないと"



 レインは傀儡たちに魔法石の回収を急がせた。


 

 

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