第65話









◇◇◇



「今回も変わり映えのない洞窟だな。たまには違う所でやってみたいなぁ」


「無理もありません。内部が洞窟以外のダンジョンは難易度跳ね上がると言われておりますので」


 ステラが淡々と説明してくれる。内部が洞窟タイプじゃないダンジョンってそういえばあるんだったーっと思ったが恥ずかしいので黙る。


「今回も良い奴がいれば良いけどな。モンスターの気配は……まだないな」


 ダンジョン内部ではまずどんなモンスターが潜んでいるのか確認する必要がある。モンスターの種類によって対応を変える必要がある……らしい。覚醒者の並びとか……かな?


 ステラがそうしたダンジョン攻略において基本的な事は全て頭に入れてくれているのでとても助かる。


 ただ何が来ても殴るか、傀儡で制圧するスタイルのレインにとっては、ただ待つだけの暇な時間だった。その間にも『黒龍』の新人覚醒者たちがニーナたちに連れられて入ってきた。


 新人はAランクが8名、Bランクが12名だ。7割が男で3割が女性だ。残りの5名が経験豊富なAランク覚醒者だ。

 彼ら5人とSランク2人で新人の教育を実践を通して行っていたようだ。やはり国内最強のギルドだけあって全てが手厚い。



「「「よろしくお願いします!!」」」



 新人の覚醒者たちは横に並び一斉に頭を下げて挨拶する。その装備はレインが着ている物よりずっと高価な物だろう。



「……はあ……どうも」



 他人にこんな態度を取られる事もないレインはどうしていいか分からなくなった。


「レインさん、もし迷惑でなければ魔法石の採掘だけでもお手伝いしますね。……レインさんには必要ないかもしれませんが」



「いえ……俺は気にしませんので、なかなか出来ない経験をさせてあげて下さい。それに俺の戦い方は参考にならないでしょうし」



 レインの戦い方はただその身体能力で武器を振ったり殴ったりするものだ。工夫した戦いをそこまでやらないからSランク以下の覚醒者にはとても真似出来ないと思う。

 


「そんな事はありません!レインさんは少なくともこの国で最強の存在です!そんな御方の戦いを間近で見られるだけでも貴重なんです」



 ニーナはそう熱弁するがやはりレインには難しかった。



「レインさん」



 ニーナが話し終えたタイミングで阿頼耶が話しかける。



「お……やっと来たか」



「何がですか?」



 ニーナは首を傾げる。こうした察知能力はレガの方が優れていたな。ニーナも相当強いが〈領域〉スキルの範囲外だと察知は難しいみたいだ。無理もないけどな。



「モンスターです。数は……そこまで多くないでしょう。ただ強いと思います」



 レインがそう判断したのはモンスターから発せられている音だった。金属がガチャガチャと擦れる音が聞こえる。こちら側の覚醒者たちではない。



 つまりここのダンジョンのモンスターは武装している。そしてゆっくり歩いている事から隊列を組んでいる。隊列を組み、武装するだけの知識がある。ただ真っ直ぐ突っ込んでくる奴よりも圧倒的に厄介だ。



 近付く音は大きくなりようやく視界に捉えた。



「……当たりだ」



 レインは微笑んだ。騎士王のような見た目の騎士が隊列を組んでこちらへ向かってきている。数は約20体くらい。全員が黒いフルプレートの全身鎧を着ていて長剣と短剣の二刀流だ。歩くたびに揺れるマントが上位の戦士にありそうな雰囲気を出している。



「レインさん……大丈夫ですか?」



 ニーナが心配そうに話しかける。その方向を向くとニーナの背後にいる覚醒者たちは怯えた表情をしている。隠そうともしていない。


 さっきまで歯を出してニカニカと笑っていたサミュエルですら真剣な表情をしている。アイツらはそれほどの強さがあるということか?



「何がですか?」



「あれらは骸骨の上位戦士スケルトン・ハイウォーリアーです。1体がAランク……それも上位に匹敵する力があります。ここはAランクダンジョンの中でも最上位に位置する難易度です」


「……へぇ…」


「いくらレインさんが強いといっても……流石に厳しいと思うんですが……」



 ニーナは刀を少し抜いたり収めたりを繰り返す。


 さっきからカチャカチャ音がしていて何の音かと思った。あの騎士たちが結構強いとしてもレインにとっては全く問題なかった。あんなのが1,000体とか来られると無理だろうけどたった20体だ。



 ニーナの表情を見るにただ一緒に戦いたいんだろうか。



「大丈夫です。新人の子たちに無様な姿は見せられませんからね。それにニーナさんからのお願いですから全力で応えますよ」



 レインはニーナを真っ直ぐ見る。女性に対しては苦手意識しかないが付き合いが長くなりつつあるニーナには目を合わせて会話ができる。エリスとニーナ、アメリアたち以外はまだ緊張する。



「え?!そ、それって……、いや…レインさん……もし良ければここが終わった後……」



 ニーナが何か言いかけた時、前方から迫るモンスターたちが突撃を開始した。さすがAランク上位相当のモンスターだ。かなり速く効率的に動く。


 集団の中で突出していたレインとニーナへ向けて真っ直ぐ走ってくる。そして油断とも取れる態度を取っていたニーナを狙った。



 しかしザシュッ――という何かが斬れる音が聞こえた。何が斬れたのかは確認するまでない。近くまで迫っていた騎士は上下に両断された。



「レインさんとの話を邪魔するなよ」



 ニーナがボソッと何かを呟いた。こちらへ向かってくる騎士たちの鎧の音で掻き消されて聞こえたなかった。



 せっかく良い感じの傀儡にできそうなのが1体減ってしまった。



「……ここからは俺がやりますね。傀儡召喚」



 レインは鬼兵100体と騎士王を召喚した。そしてすぐに命令する。



「このダンジョン内のモンスターを半殺しにして捕らえろ。全て傀儡に加える。ボスも同じだ。殺さず無力化しろ」



 背後でざわつく覚醒者たちを尻目に傀儡たちは武器を構えて奥へと進んでいく。


 近くに迫っていた19体のモンスターたちは100体を超える鬼兵たちによって四肢のどれかを切断され、引きちぎられ、潰されてあっという間に瀕死になった。



 それらを順番に倒していき全て傀儡にした。



――『傀儡の兵士 上位騎士』を19体獲得しました――



「この調子でどんどん行こうか」


 

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