第64話







「お前もタフだな。さっさと倒れたら楽になれるのにな」



 ヴァルゼルは巨人兵を引き連れサミュエルの前に立つ。しかしサミュエルは笑った。



「まさか召喚された駒が言葉を話すとはな。あの拳といいお前の存在といい。『イグニス』の神覚者は面白い力…」



 サミュエルが言い切る前にヴァルゼルの拳が腹部を捉える。それをガードし後ろへ後退したサミュエルを巨人兵が合わせるように棍棒で殴りつけた。



 それでもダメージを受けているようには見えない。レインはニーナを少しだけ見てヴァルゼルの元へ歩いて行く。



「レインさん?」



「すいません。話はもう少し後でお願いします。阿頼耶!すぐに回復スキルを使えるようにしててくれ。頼むぞ?」



「かしこまりました」



 それでも手足を斬り飛ばすのはやめておこう。新人の覚醒者に良い影響はないだろう。

 多分アイツのスキルは打撃系の攻撃を無効化するスキルがある……と思う。ただ完璧にではない。



 レインは戦鎚を取り出した。打撃系武器で制圧する。今はコイツとの戦闘よりあの白銀のダンジョンだ。



 ヴァルゼルの攻撃をものともせずサミュエルは向かっていく。レインはサミュエルの動きを見ながらヴァルゼルに言葉に出さない指示を出す。



 "俺が戦鎚で殴る。本気でだ。お前は俺に合わせて後ろから殴れ"



 ヴァルゼルはサミュエルの拳を弾きながら右手を少しだけ挙げた。理解したという事だ。



 レインはすぐに行動に移る。巨人兵がサミュエルを殴りつけた。少し横によろけたサミュエルの後ろにヴァルゼルが回り込んだ。



 そしてレインはサミュエルの前に出た。戦鎚の持ち手がミシミシと音を立てるくらいの渾身の力で握る。



 サミュエルはレインの攻撃の速度についてはいけない。渾身の力で振られた戦鎚はサミュエルの腹部に命中した。鎧以外は鱗で覆われている。鎧は人の手で作られたものだ。

 ここが1番ダメージが大きそうだと判断した。周囲に攻撃の衝撃の波が一気に広がる。



「オラァ!さっさとくたばれや!!」



 すかさずヴァルゼルの蹴りがサミュエルの後頭部に命中した。



「…………ガハッ」



 ここでようやくサミュエルは膝をついた。だがここで終わらせるとまた起き上がる可能性が高い。

 レインは膝をついたサミュエルの頭部目掛けて戦鎚を振り上げた。



 流石に死ぬかも……と思わなくもないがこのままだと永遠に終わらない。

 予定もあり時間もないからしばらく寝ててもらう。2度と起きない事態になればその時はその時だ。



 しかし……。



「降参!降参だ!」



 サミュエルは人間の姿に戻り両手を前に出してレインを制止する。流石に本人もこの一撃は死ぬと思ったんだろう。



「…………ふぅ…お前たち戻れ。阿頼耶は回復してやってくれ」



「かしこまりました」



 こうしてようやくサミュエルとの戦闘が終了した。スキルのレベルが上がる訳でもない無駄に疲れた戦闘だった。



◇◇◇



「まずはいきなり攻撃した事を詫びよう。と言っても俺がボコボコにされたがな!ガハハハッ!」



 今はサミュエルたちが乗っていた馬車は粉々になった為、それ以外の1番大きな馬車の中に座っている。レインと阿頼耶が並んで座り対面にサミュエルとニーナが座っている形だ。



「別に気にしてません」



「しかしお前……失礼、エタニア殿の力は凄いものだな!俺には打撃耐性のスキルが幾つもあるんだ。この鎧は打撃ダメージ軽減が付与されていて、常時発動型パッシブスキルで打撃耐性、〈竜人化〉スキルで打撃と斬撃に多少の耐性が備わる。だから俺に打撃は効かないんだ。エタニア殿と会うまではな。まさか効かないとしていた打撃でやられるとは」



 実際、阿頼耶が言うには主要な骨はほぼ折れていたようだ。折れていない骨を探す方が難しいレベルで。普通の人間なら確実に死んでいるが、〈竜人化〉というスキルは自然治癒能力も格段に上昇させる。

 さらには〈竜人化〉スキルを使っている間のみ併用可能なスキルで〈痛覚鈍化〉というのもあるようだ。

 だからレインたちの攻撃に対して痛みをそこまで感じていなかった。そのおかげで戦闘を継続できたし、骨折しまくってても生きていたようだ。



 "なんだ……最初から剣を使っていれば早く終わったんだな"



「それで本題なんですが……あのダンジョンの攻略をお手伝いすればよろしいですか?」



 完全に逸れていた話題をニーナが戻す。レインですら若干忘れていた。何故ならもう必要無くなったから。



「そう……だったんですが。大丈夫になりそうです」



「……え?」



 ニーナたちが来る前、あのダンジョンからは白銀の魔力が流れていた。アルティがいた場所と同じような感じがした。


 最大限の警戒が必要だと判断したが、サミュエルとの戦闘が終わって確認するとその魔力が消えていた。



 今では普通のAランクダンジョンだ。BランクやAランクからすれば覚悟が必要なレベルの難易度だと思うが、レインからすれば問題のない範疇だ。



 "あれは何だったんだろうか"



「……では私からお願いします。このダンジョン攻略に同行させてもらえませんか?」



「……え?どうしてですか?」



「ここにいる新人の子たちにレインさんの戦闘を見せてあげたいんです。私たちがいると攻略の邪魔になってしまうかもしれませんので離れて見るようにしますので。……どうでしょうか?」



「俺からも頼む。エタニア殿の力は見るだけでもかなり有益な経験になるだろうからな!」

 


 レインにニーナの提案を断る理由もないし、断れない。サミュエルに関してはどうでも良い。

 ただニーナにはこれまで何度も助けてもらい、今回も助けてもらおうとした。そんな人の願いは可能な限り叶えたい。



「大丈夫です。では早速行きましょうか。ちょっとこの後、予定がありまして。急いで戻らないといけないんです」



「……すいません。うちの者が失礼をして」



「大丈夫ですから。そう何度も頭を下げないでください。では先に入ってますので、他の覚醒者たちへの説明はお願いします」



「はい!お任せ下さい!」



 ようやく話がまとまり馬車を出た。そして阿頼耶とステラを連れて先にダンジョンへ入る。

 


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