第61話
◇◇◇
「そろそろステラを解放してやってくれ。ダンジョンもすぐそこだ」
阿頼耶はその後も歩きながらステラを撫で続けていた。何がそれだけ嬉しかったのは分からなかったが仲良くなれたようで良かった。
「申し訳ありません!」
阿頼耶は慌てたステラから離れた。ステラは苦笑いを浮かべてぐしゃぐしゃの髪を手で直している。
Aランクダンジョンはこれまでと同じ
2人に確認を取ってダンジョンへと潜る。
◇◇◇
「いつも通りですね」
「そうだな。ステラはAランクは初めてか?」
「い、いえ……一度だけ後方支援のような形で参加したことはありますが……」
ステラは既に短剣を抜いて周囲を警戒してキョロキョロしている。しかし周囲にモンスターの気配は感じられない。
「大丈夫だ。俺たちが守るよ。……あとは俺の力の事も知っておいてもらった方がいいだろう」
「レインさんの?」
レインのスキルは普通の覚醒者と比べても異形だ。だから初めて見る人には事前に説明しておかないとパニックになるかもしれない。
「そう。とりあえず進もう。この辺は魔法石も少ないから薄暗いな。阿頼耶も警戒は怠るなよ?」
ただこんな薄暗いところで傀儡を召喚するとステラが怯えてしまうかもしれない。そんな人ではないと思うが余計な負担をかける必要もない。
「かしこまりました」
先頭をレインが歩き、その後ろをステラと阿頼耶が並んで歩く。数分歩いた先でレインは立ち止まった。
「……来たな」
「来ましたね」
阿頼耶もレインとほぼ同時に反応する。
「え?!」
ステラはまだ認識できないようだ。しかしこの数と速度。少しまずいか。
「ステラ……下がってろ。阿頼耶はステラを守れ」
「え?!え?……あのまだ何も聞こえませんけど」
「ステラ……こっちへ。30体くらいの何かがかなりの速度で近付いてる。速い敵だとステラを守れないかもしれない。私から離れないで」
まだ状況が掴みきれないステラの手を引っ張り阿頼耶は自分の間合いの内側へステラを連れ込む。そして2本の刀剣を抜き、目でレインに合図を送る。
「ステラ」
「は、はい!」
「これが俺の召喚スキルだ。取り乱すなよ?阿頼耶から離れるな。そいつはAランク認定だが、実際はSランクレベルの強さがある。絶対に守ってくれる」
「召……喚?」
「傀儡召喚」
「え?!え?!?!」
驚愕するステラを横目にレインは鬼兵を30体、そして先頭にヴァルゼルを召喚する。鬼兵は敵が突っ込んできた時の盾役で殲滅はヴァルゼルに任せる。ただし、いい傀儡になりそうなら瀕死に留めてもらう。
口に出す必要はない。召喚する時に既に命令してある。
気配も音も分かる。真っ直ぐこちらに走っている。ただ足音じゃない。これは……動物か?
「レインさん……あれは
阿頼耶が先にモンスターの種類に気付いたようだ。しかしありとあらゆる知識が乏しいレインはモンスターの名前だけで――あーあれかー!――とならないのが悲しいところだ。
"何となくは分かるな。馬に乗ってるアンデッドみたいなもんだろ?"
レインの予想はしっかり的中した。骨だけの身体で構成され所々に防具が残っているだけの馬にボロボロの鎧を着て剣を持った騎馬隊だった。
モンスターの時の見た目が醜悪でも傀儡にしたら多少マシになる。馬という機動力を魅力に思ったレインは命令を出す。
「アイツらは傀儡にするから殺すな」
「んだよ……手ぇ抜かねぇといけねぇじゃねぇか」
「さっさとしろ。時間も限られてるんだ」
「はい……よ!!」
ヴァルゼルは鬼兵の隊列から向け出し大剣を投げた。大剣は高速で回転しながら先頭を走る騎馬に直撃し転倒させた。
騎馬隊は密集していた事もあって複数が巻き込まれるように重なって転倒した。それを見た後続の騎馬隊は動きを止めた。
「馬なんて動き止めちまえばこんなもんよ!」
ヴァルゼルは動きを停止した騎馬を横から殴りつけ吹っ飛ばす。その騎馬は他の停止している騎馬隊に次々とぶつかり向かってきていた30体の騎馬隊は全て転倒した。
「旦那!さっさとやっちまいな」
「いいぞ。良くやった」
レインも騎馬隊が体勢を立て直す前に行動を開始する。刀剣を両手に持って倒れ、馬の下敷きになっていたアンデットの首を一気に刎ねた。
――『傀儡の兵士 騎兵』を30体獲得しました――
「うん……いいね。これで俺が走らなくても、そこそこの速度で移動できそうだ」
レインの目の前には赤い目が輝く漆黒の馬に全身鎧を着込んだ漆黒の騎士が並ぶ。
モンスターの時の見た目は醜悪そのものだったが、傀儡となった事で随分マシになった。真っ黒だけど。多分、夜道にこんなのがいたら絶叫もんだと思う。
ただレインは元々馬車の移動よりも走った方が圧倒的に速い。持久力も申し分ないから機動力はそこまで必要ない。残りは殲滅でいいだろう。
「上位剣士召喚……魔法石を全部集めとけ。ヴァルゼルは鬼兵を率いて残りの敵を殲滅しろ。あー……ボスは残しておけよ」
「はっはー!!そうこなくてはな!全て殺していいのか?殺すぞ?」
「生きてる運のいい奴は傀儡にするよ。分かったなら行け」
「了解!」
ヴァルゼルは鬼兵を置いていく勢いで飛び出していった。そしてあっという間に奥の暗闇へと消えていった。鬼兵たちも慌ててヴァルゼルを追いかけていった。
「……そこまで強いモンスターじゃなかったな。ヴァルゼルの後を追うか」
レインは振り返り通常通りの阿頼耶と状況が理解できていないステラを見た。
「かしこまりました」
「……あの…え?……あれがレインさんの力ですか?」
「そうだよ。こんな感じの傀儡をたくさん召喚するから『傀儡の神覚者』って呼ばれてる」
レインは壁に埋まってる魔法石をせっせと採掘している剣士を指差す。
魔法石の採掘道具買っておけばよかったな。剣と盾しか持っていないのに魔法石を綺麗に取り出そうと苦戦している背中が何とも可哀想に見える。
そういえば傀儡が持ってる武器って使えるのか?疑問に思ったレインは鬼兵を召喚した。デカい黒い大剣を肩に担いでいる。
「それ貸して」
レインは鬼兵が持つ大剣を指差して話す。鬼兵はすぐに刃の部分を自分で持ち、握りの部分をレインに向けて差し出す。
「ありがと……結構軽いな」
鬼兵が使う大剣はレイン自身の身長と近い長さだ。幅は言うまでもない。しかし片手で軽々と振れた。レイン的にはもう少し重い方が振りやすいから傀儡の剣を使うのは却下だった。
「返すよ。お前も魔法石採掘しててくれ」
鬼兵はレインの命令に少し頭を下げるように応え剣士たちに並び作業を開始した。
「これがレインさんの力なんですね。召喚のスキルがあるのに戦えるなんて……すごいです!」
「ありがとう。じゃあここもさっさとクリアしてしまおう。阿頼耶はステラを守ってくれ」
「かしこまりました」
「さあ行くぞ」
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