第60話
◇◇◇
レインは屋敷の扉の前で立つ。既にステラも含めて武具は装着している。ステラにはいつもの服にダガーを渡している。元より短剣使いだったようだ。
ここからでも外がガヤガヤしているのが分かる。これまで以上に注目される事になる。緊張していないと言えば嘘だ。レインが恐れているのはレインへの評価ではない。
元々評価なんてこれ以上ないくらい下がってたし、罵詈雑言に関しても挨拶感覚で受けていた。
恐れるのはレインの評価のせいでレインに関わりのある人たちに迷惑がかかることだ。最悪黙らせることも出来るが常に側に居られる訳じゃない。だから余計な挑発はしないようにしたいな。
レインは意を決して扉を開けた。奥の鉄格子のゲートから見えた視線がこちらに集中する。
「「わああああ!!」」
レインの屋敷の前にいた群衆はレインの姿を確認すると歓声を上げた。正直、石でも投げられると思っていたからこの歓迎されている雰囲気は少し意外だった。
ただここに居ても今日の用事を済ませる事はできないから門へと向かう。
レインの接近に気付いた兵士は群衆を誘導し、外へ出られるように道を作ってくれた。意外とすんなり外へ出ることが出来た。兵士たちで出来た道を通り抜け大通りへ出ようとする。
「レインさん!」
近くの男がレインの名前を呼ぶ。
「………………何でしょう?」
レインは立ち止まり男へ視線を向けた。
「あ……い、いえ……何でもありません」
目を合わせただけなのに男は萎縮してしまい姿を群衆の中へと眩ませた。
「…………?」
その理由がレインには理解できなかった。
「レインさん……顔が怖いです。警戒するのは当然ですが表情にはあまり出されない方がよろしいかと。相当な実力者でもないとレインさんの雰囲気に萎縮してしまいます」
要は顔が怖かっただけだった。いや、知らない人から名前を呼ばれたら警戒するし若干睨むでしょ?何で知らない奴にまでニコニコしないといけないんだ。
「まあスムーズに行けるようになったなら良いじゃん。顔に関してはもうどうしようもないしね」
大通りへ出ると人集りはなくなった。屋敷の前ならば偶然という事で王令の対象外……らしい。
それ以外の場所では王令の対象となるらしい。普通逆じゃないかと思うが普段の外出で無駄に声をかけられないのはいい事だ。
まずはダンジョン攻略の為に覚醒者組合本部へ行く。組合本部内でもレインの件は騒ぎになっていた。
これまでレインをゴミ扱いしてきた者たちも手のひらを返して擦り寄って来た。無理もなかった。
その国唯一の神覚者と不仲、又は敵対関係と見做されれば王家やそれに連なる貴族からの支援もなくなる。敵対する者を支援したとあっては王家への反逆と見做させる可能性もあるとステラが言っていた。
複数の神覚者がいれば派閥もあるからそういった事は起こりにくいらしいが今は関係ない。
そして当然レインはその擦り寄って来た連中を全て無視した。それがレインが与える慈悲であるとその者たちが気づく事はないだろう。
レインが自身にやられた事をそのまま返すとしたらその者たちは全員死ぬ事になる。つまりはお咎めなし。死にたくないなら関わるなというメッセージの意味もあった。
神覚者である事、そして国王からの依頼を受けた見返りの特典でAランクダンジョンを2ヶ所の攻略権をほぼ無料に近い金額で手に入れた。
そしてすぐに周囲の視線を気にせずに本部を出て街を出た。
◇◇◇
「はぁー……本当に疲れるな」
最初のAランクダンジョンは割と近い場所にあった。馬車を手配しても良かったが、何となく歩きたい気分だったから3人で歩いて行く。その道中レインからはため息が溢れるばかりだった。
「仕方ありません。この国では長年神覚者を待ち望んでいましたから。8大国に数えられたのは国内で生産される武具が優秀だからと言われてまして、常に他の国から見下されている面もありました」
やはりステラは覚醒者が絡むような世界の情勢は詳しい。阿頼耶ですら分からない事をたくさん知っていて本当に勉強になる。
「そんなの俺には関係ないし」
「確かにそうですね。ただこれからそれを貫くのは難しいと思います。神覚者となり世界にその力を認められれば他国がその国と神覚者にお金を支払い、ダンジョン攻略を依頼するなんて事もあります。
その派遣一回で数百億なんていう金額が動きます。王家に多額のお金が流れればそれはその国を豊かにするための財源となり、やがては国民の生活へと移っていきます。
神覚者の出現とはそのくらいのものなんですよ?」
「そんな大袈裟な……とも言い切れないんだよな」
既に国王から依頼されているし、その依頼を完遂した時の報酬は数千億だとか言っていた。
途方もない数字すぎてお肉どれくらい買えるとか訳の分からん事を考えていたのが恥ずかしく思える。
「そうですね。ですけど、私たちはレインさんがどんな道を歩もうと最後まで付き従います。そうですよね!アラヤさん?」
「……無論です。……あなたは良い事を言いますね。褒めてあげます」
そう言って阿頼耶はステラの頭を撫で回す。慣れてないせいかステラの髪はボサボサになった。
それを見た阿頼耶はさらに満足そうに両手で撫で回す。力が強いから首が変な方向に曲がりそうになってて見ててハラハラする。
"この2人ってこんなに仲良かったんだな"
ステラの整えられていたブラウンの髪は見るも無惨な形となったが、その光景は微笑ましいものだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます