第49話
王子が運び出されてしばらく沈黙が続く。そして国王が口を開いた。
「この決闘はレイン・エタニア殿の勝利とする。この結果を見てまだレイン殿が神覚者ではないと疑う愚か者は我が国にはおらぬな?」
その問いに答える者はいなかった。無言の肯定というやつだ。これでレインに対して悪態をつく者はここにいないという証明となった。
◇◇◇
その後はまた隣の部屋に戻った。国王は王子の非礼を詫びて食事や音楽を楽しむように話した。
それを合図にみんなから少しずつ話し声が聞こえ始め音楽団のような人たちも演奏を始めた。
レインは帰ろうとしたが、任命式?と食事を楽しんでほしいと王女に涙目で言われたので誰とも話さず大広間の端っこの椅子に座ってご飯を食べていた。
「…………うまー。これうっま。エリスも連れて来たら良かった。この味は俺では作れんな」
お金はあるんだから料理人とかここみたいにメイドとか雇おうかな。メイドって雇うのにいくらかかるんだ?というか知らない人とエリスを同じ家に置くのも不安だな。
「レイン様、お隣よろしいですか?」
「…………ん?」
誰かに声をかけられた。レインが反応し顔を上げると1人の女性が立っていた。これまた豪勢なドレスに金色の髪だ。金髪流行ってんのか?いや地毛か?
そして何故そんなに胸元が露わになっているんだ?目のやり場に困る。
「えーと……あなたは?」
「申し遅れました。私はエレノア・エルン・セレスティアと申します」
「ああどうも」
なんで貴族も国王も名前が長いんだろう。どこの部分を呼べばいいか分からん。
「あなた!こちらはあのセレスティア家のご令嬢ですよ!王家に次ぐ地位を持つ公爵家ですわよ?!
いくら神覚者といえどそんな簡単な挨拶で済ませていい人ではありません!まず食べるのをやめて跪きなさい!!」
……エレノアでいいや。エレノアの横にいる取り巻きみたいな女が勢いよく話す。確かにこの肉が美味くてモグモグしていたのは良くなかった。それは普通に反省する。しかしなんで跪かないといけないんだ?
「あ?なんだお前?」
「私は!!」
生意気な女が名乗ろうとしたらエレノアが手を出して止めた。
「よしなさい。あなたは離れて下さる?今は私とレイン様が話しているのです」
思わぬエレノアの回答に生意気女は言葉が見つからないみたいだ。そしてすぐに離れて行った。少し静かになったのは良かった。
「では失礼します」
そう言ってエレノアはレインの横に腰掛けた。そして何故かこちらを真っ直ぐ見つめ微笑む。
ただ女性に対して耐性がほとんどないレインは目を合わせることが難しかった。
"〈女性耐性〉みたいなスキルってないのか?"
"アホなこと言ってないで飯食ってさっさと帰ろうよ。ここはレインを誘惑してくる奴ばっかりだから意識をしっかり持ちなよ!!"
"は、はあ……まあ……はい"
「レイン様は今お付き合いされている御方などはいらっしゃいますか?」
「……え?」
"ほら来た!さっそく来た!!魔王の予想を超える速度で前置きなくいきなり来た!!"
うるさい魔王はとりあえず無視しておく。多分しばらくは会話にならない。
「いや別にいませんが」
「そうですか。レイン様はどのような女性が好みなのでしょう?」
「好み……ですか?あまり考えた事はありませんね。興味もないです」
「そうなのですね。しかし先程の決闘は見事でした。あれがレイン様の全力なのですか?」
この人すごい質問してくるな。別に隠している事でもないからいいけど。
「全力ではないですよ?駒も全て召喚した訳じゃないですし、殺さないよう細心の注意を払っていました。
俺が本気を出して戦えるのは……そうですね。今のところはニーナさんだけですかね」
他にも強い人はいるだろう。これまで自分が会った人の中ではって事だ。
「ニーナ?まさかあの『神速姫』という異名を持つ世界最速のSランク覚醒者ニーナ・オラクルですか?」
全部説明してくれたな。確かにこんな感じで広まっていたら恥ずかしくてやめてくれと思うニーナの気持ちも理解できた。
「その人です」
「という事は!レイン様は既に『黒龍』に所属されているのですか?」
「……え?」
今度は別の方向から声をかけられた。いちいち別の方向からいきなり声をかけないでほしい。こんなに人が多く魔力も殺意もないと反応が遅れる。
レインが振り向くとそこには王女様がいた。あのポンコツ王子とは比べるのも失礼な理解ある人というのがレインの認識だった。
「こ、これはシャーロット様……ご機嫌麗しゅう存じます」
「ありがとう。間に入ってしまってごめんなさいね?」
「滅相もございません。わ、私は別の御方へ挨拶に行って参りますのでこれで失礼致します」
「そう?セレスティア公爵にもよろしくお伝え下さい」
その返事をすることなくエレノアは足早にこの場を去った。王族に対してはみんなこんなもんなのか?
「……えーと王女様ですよね?さっきの質問ですけど、『黒龍』には所属してません。ただ少し……ダンジョン攻略で助けてもらっただけです」
「まあそうなのですね!」
そう言って王女様も横に座る。まだ満腹じゃないからご飯食べたいんだけどな。
「申し遅れました。私はシャーロット・イニエル・ディール・イグニスと申します。ただレイン様は私のように長い名前ですと、なんと呼べば良いか分からないと思いますので、どうぞシャーロットとお呼び下さい。王女様なんて他人行儀な呼び方は嫌ですよ?」
いや初対面で他人なんですけど……とは言えない。あと長い名前はどこを呼べばいいか分からないのは事実なので助かる。
「じゃあ……シャーロット様?」
「シャーロットですよ?」
「いや流石にそれは……」
自分が住む国の王女様を呼び捨てには流石に出来ない。それくらいの良識はある。
「レイン様?シャーロットですよ?さあシャーロットです」
王女様はどんどん顔を近付けて来る。これはそう呼ばないと面倒な事になりそうだ。というか自分は様付けで呼んでるじゃないか。
「シャーロット……さん」
「……ふふ…今回はそれで許してあげましょう。それで本題はですね。レイン様はこの日よりこの国全ての者の知るところとなります。
そのお力は数多くの事を可能にするでしょう。レイン様はそのお力を持って何をなさるのですか?」
まあ確かに気になるだろうな。あの力は1人で多数の相手と戦える。最終的には1人で戦争だって可能と言えば可能だから。
「……そうですね。まずは『ハイレン』へ行きます」
「え?!既に移住されるおつもりなのですか?!」
王女様はレインの肩を掴んで言い寄った。毎度のことながら近い。いい匂いがする。
「へ?い、いや違いますよ?『決闘』に出るんです」
「決……闘?……『ハイレン』の決闘ですね。『決闘』に参加される御方の目的は1つ。神話級ポーションです。どなたかがご病気なのですか?」
やはり王族だからか頭がいい。この辺の力はレインには皆無なので今後の課題としたい。
「そうです。家族が原因不明の病気で苦しんでます」
「原因不明……ですか?それは……そうですね。例えば徐々に身体能力を喪失していくというものですか?歩けなくなったり、耳が聞こえなくなったり、話せなくなったりしますか?」
「分かるんですか!なら治療法も知っているんですか?!」
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