第50話







 レインはつい詰め寄ってしまった。すぐに落ち着き離れる。



「すいません」



「大丈夫です。当然のことですから。ただですね。我々もその病気の事はわからないのです。何らかのモンスターの素材や食事が原因だとか、魔力の性質、本人の魔力耐性、生まれ持ったもので時限式に発病するなど様々な憶測が立てられております。

 世界的には数百名の方がその病気に侵されております。ただ幸いなのは急激に進行する事はないため対処する時間があるというところでしょうか」


「そうなんですね。なぜそんなに詳しいですか?俺でもそこまで調べられていないのに」


「これは貴族の間では有名な話ですが、私の兄、あのレイン様に失礼な事をした愚か者ではなく2番目の王子であるカイルお兄様も同じ病気なのです。王族として調べられる限りは調べております。ただ金額の問題だったり、第二王子という弱い立場のせいで治療が出来ないのです。神話級ポーション1つを買おうとすれば国が滅びます。

 カイルお兄様の方が国民のことを考えて物価や支援などの案をたくさん出しているのに」



「あのバ……第一王子は違うんですか?」


 今のはかなり危なかった。病気に関する情報は治るのであれば不要だと考えいたが目の前に詳しい人がいるのなら聞いてみたい。



「ユリウスお兄様はご自分にも力がある事を理由に完全な実力主義の国を作ろうとしています。強い者を集め国力を強化するつもりのようです。

 そうすれば他国から侵攻される事も8大国の地位を失う事もないという考えのようです」



 まあ別にそれも間違ってはいないと思うけど。


「確かにそれも間違いではありません。しかしそれだと力を持つ者とそうでない者の格差が広がります。力を持つ者の方が少ないのですから、多くの国民が……」



 国を代表するバカ王子の考えがどれだけ間違ってるか力説する王女様は途中で止まる。



「シャーロットさん?」



「申し訳ありません。政策に関しては私たちの務めであり、レイン様にはあまり関係のないことでしたね。話を戻しましょうか。レイン様は神話級ポーションを手に入れご家族を治療された後はどうされるのですか?」



 エリスを治した後……か。考えた事もなかった。覚醒者としての生活を辞める?力を手にしたのは最近だ。これまでずっと耐えてきた。落ち着いた生活をするってのも悪くないかもしれない。



 ……でもアルティが言っていた。もう1度この世界で戦争が起きると。その時に人類は生き残れないかもしれない。だから力をつけてくれって言っていた。エリスを治せたならこの力を得る機会をくれた恩に報いる必要がある。

 


「……どうしますかね。まだ考えてません。どこかゆっくり出来る所に移り住んでのんびり暮らすとか……ですかね」



「でしたら!」



 王女様が何かを言いかけた時だった。ほぼ同時に別の声が割り込んだ。



「それではこれより任命式を行います!!神覚者レイン・エタニア様は国王陛下の前までお越し下さい!」



 広い謁見室全体に広まる大きさで声が響く。任命式って何だ?とりあえず呼ばれたからにはいかないと……国王どこだ?



「任命式ですね。お父様は玉座の前におります。私も一緒に行きますね」



「じゃあついでに……任命式って何ですか?」


「任命式というのはレイン様に神覚者としての称号を授ける式です。世界中の神覚者様には全て称号が割り振られています。称号はその人が得たスキルだとか戦闘スタイルを考慮して国王や皇帝、組合の会長が決めます。

 基本的に本人は決められないのでたまに文句を言う御方もいらっしゃるそうですね。ただその称号はその神覚者様の能力をある程度推測出来るように決められているのです」



「それはまた何でですか?」


「国家間の戦争が起こった際の事を考えて……と言われております。今や覚醒者、それも上位ランクとなると、兵士たち……つまり国軍に匹敵する力を持っております。その頂点たる神覚者はある程度の力を晒しておかないといけないのです」


「なるほどですね」 

 

 国王の前まではすぐに辿り着いた。そしてレインは国王を見上げる。



「それでは新たなる神覚者よ。その力を我の前で示すが良い」



「………………え?」



 示せって?国王を攻撃すんのか?



「レイン様……先程のスキルを使うんですよ……」



 少し離れた所で控えていたシャーロットが囁くように話す。今のレインであれば普通に聞き取れる。


「神覚者レイン・エタニアが得たスキルをここで披露するのだ。と言っても既に皆は知っているだろうがね。これも規則なのだ」


 本来はここでレインがスキルを使う。それを見た国王なり皇帝なりが異名を授けるって流れなんだな。最初に説明しててくれ。

 


「分かりました。傀儡召喚」



 レインの周囲には騎士王と上位剣士が10体が召喚される。別に全部出さなくてもいいだろう。ヴァルゼルなんか出したら絶対にうるさい。



「神覚者殿……貴殿の力はそうした駒を召喚する召喚スキルというものか?」



 ここはどこまで正直に話すべきなんだろうか。殺した相手を傀儡に出来るっていうのが真実だ。だけどそれ言ってしまうと今後も永続的に戦力を強化し続ける事が出来ると警戒させるかもしれない。

 かと言って嘘をつくのも後々バレたら面倒になりそうだ。


 

「そうですね。〈傀儡〉というスキルです。俺……あー、私自身が倒したモンスターの中から一定確率で絶対服従の傀儡を作り出すってものです」



 とりあえずこんな感じで言ってみる。完全に嘘ではないからね。



「素晴らしいスキルであるな。これにより貴殿の新たな名前は決まった。神覚者レイン・エタニアを『傀儡の神覚者』とする!」



「「「わああああ!!!」」」



 周囲の貴族や兵士たちが感嘆の声を上げて拍手でその場が包まれる。涙を流す人すら見えた。

 だがレインだけは真顔のまま表情を崩さない。


 "……なんか『傀儡の神覚者』って意味変わらないか?スキル名ではあるけど、俺自身が傀儡って呼ばれてる気がしなくもない。変更ってしてもらえ……いや自分では決められないんだったな"



「『傀儡の神覚者』よ。貴殿の益々の活躍を願っている」



「はい……ありがとうございます」



 それしか言えない。だって涙を流す人だっている。多分、今この場は歴史的快挙として後世まで語り継がれそうな感じになっている。そんな歴史的瞬間の中心にいる人間の第一声が「別のやつにしてください」とか終わってる。



 別にそれでいい。なんか気に食わない称号で呼ばれても弱くなるわけじゃない。そう何度も言い聞かせこの場を耐え切った。



◇◇◇



 あの任命式から少しだけ時間が経過した。名前すら覚えられない(最初のエレノア以外は大体忘れた)貴族たちとの挨拶をようやく終え、帰ろうとしたレインを国王が呼び止めた。



「はぁー………」



 レインからため息が止まらない。既に疲れから遠くを見るようになったレインをシャーロットが気遣う。


「大丈夫ですか?何かお飲み物でもお持ちしましょうか?」


「いえ大丈夫です」


 この国の王女様にそんな事はさせられないとすぐに断る。その呼び止めた国王はいつになったら来るのか。



「いや申し訳ない。呼び止めた私がレイン殿をお待たせしてしまった」



 ようやく国王が部屋に入ってきた。ここはおそらく執務室のような場所だ。高級感はあるが機能性を重視した木の机とその上に並べられた大量の書類、さら前には大きなテーブルとふかふかの長椅子が2つ向かい合わせに並べられている。


 その長椅子の一つにレインとシャーロットが並んで腰掛けていて、向かい合うように国王が腰掛けた。


「慣れない式典にお疲れだと思うが、聞いてほしい事があるのだ。今回はこの国の国王としてレイン殿にお願いしたい事があり来ていただいた」



「なんですか?」


 とりあえず本題に移ってほしい。既にダンジョン攻略より疲れている。



「レイン殿にはSランクダンジョンを攻略してほしいのだ」



「…………はい?」



本題すぎて理解できなかった。

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