第48話
「どうだ?恐怖で声も出せないようだな」
あのリザードマンはおそらくBランク下位クラスの強さだと思う。レインの背後にいるCランクの狼を召喚している事も考えると召喚士としての腕はかなりのものだろう。
そして剣を持っているのだから接近戦も可能。確かに自信満々なのも頷ける。
ただ……まあそれだけだ。
「……剣を抜いたな?」
「あん?」
「じゃあスキルを使って制圧する。降参するなら早めにな?じゃないと本当に死ぬぞ?」
「はっはっはっは!!!笑わせてくれるなぁ!」
王子は腹を抱えて笑っている。忠告はしたぞ?と目線で訴えレインは動く。こいつの実力は把握できた。
「傀儡召喚」
レインは上位剣士を1体だけ召喚する。剣と盾を持ち漆黒の鎧を着た騎士を見た王子は笑うのをやめた。周囲にもどよめきが広がっていく。
「召喚スキルだと?……それがお前の切り札か?」
「……行け」
別に答える必要はない。剣士は剣を構えて王子へ向けて突撃した。王子へと突き進む剣士の前にリザードマンが立ちはだかる。
リザードマンは剣を振り上げ剣士に斬りかかった。ガキンッ――上位剣士はリザードマンの剣を盾を使う事もなくその鎧で受けた。
「ふ……ふはは!なんだその駒は?飼い主が無能だと駒まで無能なのか?」
「…………あ?」
今のはカチンときた。剣士は防げなかったのでなくしなかっただけだ。弱すぎて。レインの指示は王子を盾でぶん殴れというものだった。その間に入ってきた小物を相手にする必要もなかっただけだ。
しかし目の前に立たれるとレインの指示を遂行できない。そう判断した剣士は盾でリザードマンを突き上げるように殴り、一撃で吹っ飛ばした。
リザードマンは天井に勢いよくぶつかり落ちて来なかった。そしてそのまま消滅した。
「な、なんだと?」
テンプレのような狼狽え方をする王子を気にする事なく剣士は接近して盾で殴りつける。しかし王子は剣でそれを防いだ。
「スキル……〈防壁〉!!」
王子は防御力向上のスキルを使って剣士の一撃に耐えていた。剣を使えばそのまま両断出来るが、盾で殴れという指示を忠実に守る剣士はそれを力で上から捩じ伏せようとする。
「ぐッ……ぐあああ……あああッ!!!」
王子は叫びながら盾を受け流す。盾にのみ力を込めていた剣士はバランスを崩し前のめりになった。その隙を見逃さず王子は剣で剣士の首を斬った。
首は見事に落ちて剣士は膝をついて動かなくなった。今は魔力を接続していないから復活しない。まあ消える事もないが。
「……はぁ……はぁ…やるではないか。こいつを召喚するのがお前のスキルだな?複数のスキルの恩恵を受けたようだが私には通用しなかったようだな!」
「……………………」
「ふん!お互いに魔力を使い切ったようだな!これより接近戦と行こうではないか!」
王子は剣を構えてレインへと走る。いつの間にか炎の狼はいなくなっていた。リザードマンをぶっ飛ばした際に一緒に消えたようだ。
ガキンッ――レインは王子の剣を正面から受ける。……軽いなぁ。本当に軽い。力を込めて殴れば頭ごと飛んでいってしまいそうだ。それくらいこの王子は脆く弱い。
「……もういいや」
既に30分ほどが経過しようとしている。エリスと出掛ける時間は1分でも早い方がいい。
「何をふざけた事を……」
王子は背後から羽交締めにされる。
「なに?!」
さっき召喚した上位剣士が復活し王子を羽交締めにしていた。
「何故こいつが動ける?!お前!何を隠している?!」
「別に隠していた訳じゃない。お前の実力が無さすぎて使うまでもなかったって事だ。ただここには色々な目があるからな。お前みたいなのを2度と出さない為にもこうして力を誇示しておこうと思ったんだ」
「き、貴様……」
「傀儡召喚」
レインと王子を中心に黒い影が広がっていく。観客である貴族たちまではいかないようにする。あとデカい奴も召喚しない。天井が落ちても困る。
2人を取り囲むように漆黒の上位剣士が50体、巨大な斧や剣を持つAランク下位相当の強さを持つ真っ黒な鬼兵が50体、Aランク中位程度の強さを持つ騎士王が地面から出現した。
「きゃああああ!!」
貴族の誰かが悲鳴を上げた。まあそれくらいの衝撃だろうな。傀儡は見た目も怖いと思うし。ただ逃げ出す人がいないのはさすが貴族という所なんだろうか。
「あ、ああ……こ、こうさッ」
王子が口を開こうとしたのを別の剣士が口を塞ぐ事で止めた。レインは王子へ近付き小声で話す。
「……降参なんてつまらない事を認めると思うか?散々俺を愚弄してくれたよな?」
レインは右手に持っている剣とは別に左手にダガーを召喚する。それをゆっくりと王子の太腿へ突き刺した。
「むぐーッ!!!!!」
王子は経験したことのない痛みで悲鳴を上げている。しかし周囲を傀儡に囲まれ、口も塞がれていて誰も気付かない。降参の声も悲鳴も誰にも届かない。
ダガーを引き抜き少しずらしてもう1度突き刺す。そしてすぐに抜いてもう1度場所を少し変えて突き刺す。これを数回繰り返す。王子の左脚はピクピクと痙攣し血が滴り落ちていた。
王子の顔は苦痛と涙でぐちゃぐちゃだった。それでも手を緩めない。左脚の次は剣を腹へ向けた。
これを刺したら終わりにしてやるか。あまりにも情けない王子を見て、これ以上レインに対して悪態をつく事はないだろうという判断だった。
レインはダガーを王子の腹部に突き立てようとした際だった。
「それまで!!!」
国王が叫んだ。レインのダガーはギリギリで止まった。いや切先が服を裂き少しだけ刺さっていた。本当にギリギリで止められた。
周囲も2人の状況を理解していないから何故止めたのか分かっていなかった。
「レイン殿……どうかここは私の顔に免じて息子の行いを許してもらえないだろうか」
そう言って国王は頭を下げた。王族のみ少し高い位置にいたからレインと王子の状況が理解できたんだろう。完璧には把握していないけど止めた方がいいって判断したんだろうな。
"私の顔って言われてもなぁ。俺、お前に何かしてもらった訳じゃないし免じるもクソもないんだがな"
ただここでそれを無視して王子を刺し続けるのもよくないか。もう痛みで意識も朦朧としてるっぽい。数回刺されたくらいで根を上げるなよ。アルティと修業した部屋に放り込んでやろうか?
"それってどういう意味?アンタを連れてってやろうか?"
"……すいません"
アルティはあまり話さなくなったがこうして少しイジるとすぐに反応する。
レインは傀儡たちの召喚を解除した。傀儡たちは影の中に帰るように消えていった。王子を取り押さえていた剣士が消えた事で王子は床に倒れ痙攣していた。すぐに兵士たちが王子を取り囲み別の部屋へと運んでいった。
この時にレインに刃を向けて攻撃をしようとした者がいたなら死人が出ていただろう。
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