第47話
「ユリウス!!お前は神覚者となられた御方に何という口を聞くのだ!レイン殿へ謝罪せよ。これは王命である!」
この王様はまだまともだった。
「御言葉ですが父上!この者の力を実際に見たわけではないのでしょう?覚醒者組合からの報告のみです。違いますか?この者が組合と通ずる者であればそうした偽装も可能かと思いますが?」
本当にコイツは何なんだろうか?別に神覚者でなくても力を得た事に変わりはないからコイツからの評価なんてどうでもいい。
そもそも神覚者になったとか宣伝したらここに呼ばれるのは確定なんだし偽装してたらバレるだろ。コイツはバカなのか?
「う、ううむ……」
国王も言い淀んでいる。ここはもう少し頑張ってくれよと言いたい。レインでも気付く矛盾があるんだから気付いてくれ。頭良いんだろ?そのヒゲは飾りなのか?
「まあ……俺は気にしないんで。もう帰っていいですか?」
こんな扱いならレインにも考えがあった。コイツらから認められなくても力がなくなるわけでもない。
コイツらが認めたら強くなるわけでもない。こんな奴らと付き合う必要もない。
「お待ち下さい!お兄様!今の言葉あまりにも失礼です。要はこの御方が力を証明出来れば良いのでしょう?」
このクソ王子の反対側に座る綺麗な長い金色の髪を持つ女性が立ち上がり話す。お兄様って事は妹か?王女様ってやつだな。
「そうだか?ただ妹よ、それをどうやって証明する?私が相手になっても良いが……王族が国民を殺したとあっては、国民からも他国からもいい評価は得ないぞ?」
コイツって戦えるのか?だったら是非ともボコボコにしたい。その端正な顔立ちを歪ませてやりたい。前歯全部へし折ってやりたい。
「レイン様!お兄様は〈戦士〉と〈召喚士〉の2つの
そんな見つめられても困る。王女は自分の目の前で両手を組み祈るようにレインを見つめる。
「まあ多分……はい」
「ふッ……庶民如きが俺と互角だと?自惚れるなよ?」
「別に自惚れてないですよ?やるならさっさとやりましょう。今日だって予定があったのに仕方なく来たんです」
イライラしてきたレインは王子に対して強く出る。マジでボコボコにしてやりたい。
「言うではないか!では横の部屋へ移動しよう!来賓室ではあるが広い部屋だ。そこで決闘を行おうではないか!」
王子は立ち上がりレインの肩に自分の肩をわざとぶつけるように当てる。そしてそのまま後ろへ回り他の貴族たちへ声をかけた。
「これより私とこの神覚者擬きが決闘を行います!!余興の一つとしてね。さあ興味のある方は是非隣の部屋へ!我が力を持って王家とそれに連なる公爵家の更なる発展を約束致しましょう!!」
まばらな拍手が起こる。空気は最悪だった。王子は顎で横の部屋へ行くように合図する。断る理由もないからついていく。
それに合わせて国王や王女に貴族の人たち、使用人や護衛の兵士も移動する。
扉が開けられさらに大きな部屋が出てくる。その中央へ向かい合うように立つ。
「開始の合図で始めよう!」
王子は使用人が持ってきた剣を手に持っている。まだ鞘に納められているが高級そうだ。放たれている魔力もなかなかのものだ。さすがは王族といった所かな。
「分かりました。……ただ1つ良いですか?」
一応確認はしておかないといけない。周囲に聞こえるように話す。周囲の人間を証人にしないと後でどんな目に遭うか分からない。
「なんだ?命乞いでもするのか?」
「そんな訳ないでしょう?一応言っておきます。その剣を抜けば死ぬ覚悟があると見做します。もし何かあったとしても俺を罰しないと約束してもらえますか?国王陛下!」
レインは全員が聞こえるように話す。そして視線の先には国王がいる。
「…………良かろう。我が名においてこの決闘における双方の不利益は罪に問わないものとする!!ただし!どちらが降参した時点でこの決闘は終了するものとし、それ以上の攻撃は誰でもあっても平等に罰するものとする!双方異論はないか?」
「私は構いませんよ!父上!治癒のスキル持ちか魔法使いを用意しておいて下さい!」
「俺も大丈夫です」
これで心置きなく戦える。降参なんて認めないからな?
「双方準備は良いか!」
国王はレインたちの間に立ち開始の合図を出そうとする。
「私はいつでも」
「大丈夫です」
「……神覚者殿、そなたは武器を持たぬのか?持ってきていないのであれば兵士の物で良ければ貸すが?」
国王は多分良い人だな。そんな所にも気を遣ってくれる。さっきの矛盾には気付かなかったが。
「大丈夫です」
もうそれしか言ってないな。というかさっさと始めてほしい。これが終われば夕方前までに帰れる。本来の予定である家探しが出来そうだ。
「では開始!!!」
国王が開始の合図を出した。
「行くぞ!庶民!我が力の前に恐怖せよ!
〈
王子が唱えると氷で出来た狼と炎で出来た狼が1匹ずつ出てきた。
レインも全く警戒していなかったとなると嘘になる。油断と慢心は自分の命すら脅かす。ただ誤算だったのは召喚した狼はレインの傀儡の番犬くらいの強さでしかない事だった。
「どうだ!私が召喚する駒はどれもCランク以上だ。そして複数召喚も可能としている。さらに私自身もBランク覚醒者クラスの戦闘能力がある!この意味が分かるか?」
"完全に俺の下位互換みたいな感じだな"
「世界の常識である召喚士は戦えないというものを私は覆したのだ!!我が前にひれ伏せ!」
「はぁ……」
多分この人は本当の強者というものに会った事がないのだろう。Sランクに匹敵する?ニーナやリグドたちと比べるのも失礼だ。
こいつがSランクだとしても限りなくAランクに近いものだ。本当に不愉快だった。
レインはため息の後、王子を見て手招きする。その行為は王子のプライドを一気に沸騰させた。
「……良かろう!召喚獣よ!あいつを喰い殺せ!!」
この声と共に威嚇の唸り声を上げていた2匹の狼はレインへ向かって高速で走り出す。
それに合わせてレインは剣を召喚した。氷の狼は別に良いが、炎の狼は火傷とかしそうだから嫌だったからそいつから狙う。
ただ何もない所からレインが剣を召喚した。その行為に周囲がどよめく。収納スキルは魔力が高くないと扱えないし、そもそも使える人間が少ない。これだけでレインが上位のランクである証明なった。
ただそんな事では王子は止まらない。
2匹の狼はあっという間にレインに近付き飛び掛かった。レインはただそれらを振り払うように剣を横に振った。
すると炎の狼は空中で身を翻して回避し、レインの後ろに着地した。しかし氷の狼は胴体が両断され粉々になって消滅した。
「…………え?よわ」
思わず声に出してしまった。なんか熱かったから炎を狙って振ったのに氷の方に当たって一撃で倒してしまった。
「ふ、ふふん?やるではないか。確かに面白いスキルを得ているな。それに我が駒を一撃で倒すその武器とそれを扱える筋力も神覚者となった証という事か」
何故か納得されてしまった。収納スキルってそんなに珍しいものなのか?会ったことないだけで割といるものだと思っていた。
「だが!神覚者となって得たスキルが収納スキルとBランク程度の身体能力だと?そんなものを認めるわけにはいかないではないか!
そんなレベルの者を我が国初の神覚者として認めてしまえば世界中の恥となる!!ならばここでその芽を摘み取って排除する事こそが国益である!」
色々と勝手な理論を組み立て叫びながら王子は剣を抜いた。さらに左手から別の魔法陣が展開された。
「〈
床にそこそこ大きな魔法陣が展開された。そこから小さな盾と剣を持ったリザードマンが出てきた。堅そうな鱗を全身に持つ二足歩行の蜥蜴だな。
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