第46話
◇◇◇
「はぁー……私は何をしているんでしょう」
レインと別れ、1人で帰路に着くニーナは何回目かもわからないため息を吐く。
自分を罰する為に頬を何回か叩いたせいでヒリヒリする。多分赤くなってると思う。
"勝手に舞い上がって、アラヤさんと仲良さそうにしてるのを見て嫉妬して。お2人はパーティーを組んでいたと知っていたはずなのに、それにすら気付かずに詰め寄って……"
「はぁー……」
落ち込むニーナの後ろから男が声をかける。
「あれ?お姉さんどうしたのー?俺でよかったら相談……」
ニーナは普段と違う格好をしている。だからその女性がニーナであると気付かない人もいるだろう。そうだと分かっていなかったらただただ綺麗な人なのだから。
「…………………」
ニーナはただ黙って振り返り男を見た。睨み付けたの方が正しいのかもしれない。
微塵の魔力も感じない覚醒者ですらない弱々しい男。派手な色の服に身を包み、声の大きさだけが取り柄の何でもない男。
「失礼しましたー!!!」
男はニーナの返事を待つ事なく走って逃げた。覚醒者でなくてもニーナを知らない人間はこの国にはいない。明らかに声をかける相手を間違えた男の行動は正しかった。
"彼と比べるのも失礼ですね。今度……お詫びにお伺いしないと"
「はぁー……確か書類が溜まってましたね。今日はお休みでしたが……片付けてしまいましょうか」
そう言ってニーナは『黒龍』ギルドへと目的地を変更し歩いていった。
◇◇◇
「ささ!エタニア様!こちらへどうぞ!!」
レインは王城へ着くなり兵士たちに囲まれ、使用人のような風貌の男に案内されていた。この絶対地声じゃないだろうというワントーン高い声は苦手だった。
誰が通る事を想定しているのか分からない物凄く高い天井と掃除が行き届いた通路、左右には何が描かれているのかも不明な絵が飾られていた。
さらには誰が着るんだ?という疑問が出てくるフルプレートの鎧も同じように並べられていた。魔色が見えないって事はただの金属か。そんな大量にいるのか?
そしてすれ違う者全員がその場で立ち止まり深々と頭を下げている。使用人であれ、メイドであれ、警備兵であれ全員だ。
「1つ聞いてもいいですか?」
「どうぞどうぞ!何なりとお申し付け下さい」
使用人はレインの前から横に並ぶ。少し腰を折り、中腰で揉み手をしながら話しかけてくる。
「俺は今どこに向かってるんですか?」
「謁見室でございます。既に国王陛下をはじめ王太子殿下や王女様、公爵家の皆様もエタニア様をお待ちしております」
「そうですか。……あと俺はそうした人たちと会った事はありませんし、当然話した事もありません。かなり無礼な態度を取ってしまうかもしれませんが……いきなり会うんですか?」
「そちらに関してもご安心ください。エタニア様の覚醒者における情報は共有させていただいております。あくまで覚醒者としての情報のみですのでご安心ください。皆様はこうした実績を重じる御方なので多少の非礼は気にも止められないかと」
「……ならいいですが」
多分そうであろう豪勢な扉が見えてきた。その奥から魔力が少しだけ流れてきている。多分護衛の覚醒者がいるんだろう。そしてレインは何となく理解できた。これまでもそうだったから。
"全員が歓迎してくれるってわけじゃないみたいだな"
「ではこちらでお待ち下さい」
扉の前で止められる。中からは音楽や人の話し声が聞こえた。その扉を左右で挟むように待ち構えていた兵士たちに使用人が声をかける。それに呼応して兵士が中を覗き込み誰かに合図を送る。
すると中で流れていた音楽や人の話し声が聞こえなくなった。それはレインが到着したのを部屋の人々全員が把握したからだろう。
「これより扉が開きます。私が横に付きますので部屋の中央を通り奥の国王陛下の元までゆっくり歩いて下さい。
話しかけられても軽く頭を下げるだけで問題ございません。ただし立ち止まる事のないようにお願い致します」
「分かりました」
要は国王と1番最初に話せって事だな。国王が呼んだのに別の人と目の前で話をされたら流石に失礼だとレインでも理解できる。
使用人はレインの返事を確認し、深々と頭を下げて部屋の中へと入っていった。普通に扉を開けばいいのに何故そんな隙間を無理やり通るような入り方をするのか。ほらボタンが引っかかってる!
「皆様!!これより我が国史上初の神覚者となられた御方!レイン・エタニア様をご紹介致します」
中から微かにおおッ――というような声が上がる。
"思ったより緊張しないもんだな"
ガチャンッ――と重そうな両扉が中から外へと開けられる。先程の使用人が扉の端で頭を下げて待っていた。その奥には煌びやかという言葉しか出てこない人たちがこちらを見ていた。
全員が貴族だ。訳の分からんそれだけで重さがどれくらいあるのか聞きたい装飾に身を包んだ男性数十人に、脱ぐのにどれだけ時間がかかるのか聞きたいくらいのドレスを着て、この部屋そんなに暑いですか?と思う扇で口を隠している女性たちが数多く、あとは使用人が複数名だ。……いや柱の影や天井の辺りから魔力が見える。そいつらが護衛だな。貴族の中にも覚醒者がいるみたいだ。
さらにその奥に3つの玉座がありそれぞれにお爺さんと若い男性と女性がそれぞれ1人ずつ腰掛けている。
その人たちがこの国の王族であるのは理解できた。
扉が開きレインの姿を確認した貴族たちは少し端に寄る事で国王へ真っ直ぐ伸びる道を作った。それを確認した使用人がレインに小さな声をかける。
「それでは行きましょう。エタニア様は真っ直ぐ国王陛下を見つめて下さい」
何故、話した事もないお爺さんを見つめないといけないのか――率直に思ってはみたが流石に声には出せない空気だった。
レインが国王の座る玉座まで歩き始めると周囲がザワザワとし始める。謁見室はかなり広く反対側まで行くのに少し時間がかかる。
その間注目の的ではあったが話しかけられる事もなかった。数分かけて国王のまで歩く。
「……………………」
目の前には王族3人がいる。ただこういう時にどんな感じで話せばいいのか本当に分からない。
「よくぞ参られた、神覚者殿。私はイグニス国王、エドワード・オーレン・ディール・イグニスと申します。今後ともよろしくお願い致します」
国王エドワードは立ち上がり少し頭を下げてレインに挨拶した。
「こちらこそよろしくお願いします」
という言葉しか出てこなかった。膝とかついた方が良かったかな?とか国の発展のためとか思ってもない事でも言った方が良かったか?とか色々出てきた。
「はッ!やはり庶民だな!」
国王の横に座る男がいきなり言い出した。まずそれだけでイラッとするし、さっきから感じる歓迎していないという視線はコイツのものか。
「やめないか!」
国王はすぐに嗜める。しかし男は止まらない。
「やはり礼儀もなっていない庶民から神覚者が出てくる事自体あり得ない事だ。
神覚者とは低俗なお前のような庶民ではなく、我々のような高貴な王族や貴族から出るものだ。父上!この大嘘つきを牢に閉じ込め、死罪とする事を提案します」
何だこいつ?父上って呼んでる事は王子とかその辺だろう。要はレインが神覚者であることが気に食わないようだ。
いきなりそんな事を祝いの席で言うから完璧に盛り下がった。謁見室は誰も話さない地獄のような空気となった。
"どうすんの?これ?"
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