第43話
神覚者1人とSランク4人、Aランクの阿頼耶が揃う部屋は異様な光景だろう。職員の人たちは見るからに緊張している。
既にレインが神覚者だという情報は出回っていると思う。ここまで来る時のレインに対する態度がそれを証明していた。
「エタニア様……そして『黒龍』ギルドの皆様、大変お待たせ致しました。
……本来であれば覚醒者組合会長が皆様に挨拶させていただくのが礼儀と存じますが、あいにく他国へ出ておりまして……代わりに査定課課長の私が対応させていただきます。
まずは……」
話が長ぇ……そんなのどうでも良いからさっさといくらか教えろ。……と言いたいのは飲み込む。3回くらい。
一応は神覚者になるので最低限の礼儀は弁えたい。頑張りたい。
季節だとか天気だとか覚醒者たちの健康とか活躍とかどうのこうのとダラダラ話した課長から金額が発表された。
「……皆様からお預かりした魔法石の査定額は12億Zelとなります。報酬は均等に分配との事なのでおひとり様あたり2億Zelという形になります」
マジか?!マジかマジかマジか?!!
阿頼耶はどうせ要らないとか言うから4億?!前にニーナから貰った分を合わせたら6億だ!絶対家買お!無駄に部屋たくさんあるやつ買お!
レインの脳内はお花畑だった。苦労はしたがこうして大金を手に入れた。あとはエリスの病気が治れば全て解決する。
「……まあそんなものですかね」
ニーナは普通の反応だった。喜びで顔が真っ赤なレインは恥ずかしくなる。
「さらに……ですね。エタニア様」
「…………な、なんでしょう?」
エタニア様なんて呼ばれたのは初めてだ。大体、おい!とかお前!だったから。
「これは国王陛下からの個別な報酬との事です。私如きが渡す形となり申し訳ありませんが国王陛下から書簡を預かっております」
……マジか。
その課長が言うには神覚者となった後、即座に国王に情報が伝わった。レインたちはすぐに出発した為、行き違いとなったが組合本部に国王直轄の護衛隊『王立護衛隊』が雪崩れ込んだらしい。
そして既に出発したことが分かるとこれを渡すようにと言伝をもらい今に至る。
それは高級そうな羊皮紙を筒状に丸めた物だった。まず肌触りが普通の紙とは違う。なんか分厚いしちょっとザラザラしてる。
そして繋ぎ目にはこの国のシンボルでもある炎の絵が描かれた封蝋が為されていた。
「その印は……国王陛下のもので間違いありませんね。おそらくは王城への召喚だと思いますが……」
「……そうですか」
"なんで国王なんかに会わないといけないんだ。明日はエリスと家を買いに行くんだよ。エリスとの予定は国家存亡の危機とどっこいどっこいくらいの重要な予定なんだ。見た事もないおっさんに会うなんて心底どうでも良いんだが?"
「…………個別の報酬ってなんですか?」
そういやこれを貰う前にそんなことを言われた気がした。
「……いえ…我々もそのような報酬があるというのとその書簡を預かったのみとなります。おそらくはその中に記載されているものだと……」
「……なるほど。見てみます」
レインは封蝋を剥がし羊皮紙を広げた。なんとも達筆な字で文章が書かれている。
――謹呈 木々を吹き抜ける風もさわやかな日を迎え、ますますご活躍のことと存じます――
謹……呈?
レインは1発目から意味が理解出来なかった。自身も認める学のなさに改めて驚愕した。
あとこうした季節の入りとかも意味がわからない。この辺に木々はないだろう!という的外れも甚だしいツッコミしか出てこない自分が情けない。
頭良くなるスキルがあれば手に入れたいものだ。そんな事を言うと……勉強しろ!と言われそうだな。なので理解してますよ?という雰囲気を醸し出して読むしかなかった。
要は神覚者となりそれを公表してくれた事、いきなり難度の高いダンジョンを攻略してくれた事のお礼をしたいから王城に来てくれ的な事だ。
王族、貴族も交えて国を挙げて歓迎の食事会を開くから本当にマジで来てほしい的な事だと思う。
「……内容はどうのようなものでした?」
ニーナが恐る恐る問いかける。まあ差出人が差出人なので慎重になるのも無理はないか。
「明日の昼頃に王城へ来てくれ……みたいな事が書いてますね。これって強制なんでしょうか?」
「え?!……えー…そうですね」
断る雰囲気を醸し出すレインにニーナは驚きを隠せない。
「レインさんは神覚者ではありますが、まだ組合からも国家からも正式に発表された訳ではありません。
なのでまだ拒否権の行使も出来ないので行くしかありません。えー……なので理由なく断ると……あまり良くない状況になってしまう…かと」
「そうですか」
はぁー……とレインはため息を吐く。今までずっと全てから見放されてきた。毎日生きていくのに必死だった。
日々弱っていくエリスを助けられない自分を真っ先に呪い、手を差し伸べてくれなかった国をその次に呪った。
だけど神覚者になった途端にこれだ。力を持たない者は気付かれることなく死んでいくのがこの国、そして世界だと心底理解した。
「……レイン…さん?」
「大丈夫です。ニーナさん……明日は一緒に行っていただけませんか?王城へは行った事がないので道も入り口も分からないので」
「もちろんです!ついでに装備も新調しますか?」
そういえば装備もボロボロだ。武器ではなく防具の方だ。全身を阿頼耶の分裂体で包むのはやめた。
阿頼耶自身の戦闘力も落ちてしまうからだ。だから適当な物を見繕ったが、ヴァルゼルとの戦闘で壊れている所もある。お金もあるしとりあえず新しくするか。
「よろしくお願いします。では明日……またここに集合でお願いします。あーあとお金は俺の個人金庫に入れておいて下さい」
「承知致しました」
査定課の職員が深々と頭を下げる。覚醒者は全員が個人金庫を持っている。攻略で家を開ける事が多い覚醒者たちは防犯上の不安から組合にお金を預ける事が出来る。
預けたお金は組合と契約しているお店で有ればどこでも確認ができる(その日すぐとはいかないけど)から実際にお金を持ち歩く事なく買い物は可能だ。
「……さて帰るか」
レインは阿頼耶を見る。阿頼耶もそれに気付き立ち上がる。さらにそこから全員が立ち上がり部屋を出た。
外に出たタイミングでニーナ以外は自宅の場所がレインの家とは別方向の為そこで別れた。ニーナのみがレインと家の方向が同じらしい。
レインとニーナが並んで歩きその後ろを阿頼耶がついて行く形となった。
「……一つ聞いてもいいですか?」
ニーナが口を開く。
「……どうしました?」
今晩の献立をボーッと考えていたレインはいきなり話しかけられた事で少し驚く。
「レインさんは……この国が嫌いですか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます