第42話
「……すいません。戦闘中の事はよく覚えてないんですよ。とにかく無我夢中で」
レインにSランクを納得させるほどの誤魔化しを行える知能はなかった。
「そうですか。もしかすると神覚者にはそうした裏のスキルみたいなものもあるのかもしれませんね。特にこの国にはレインさん以外に神覚者がいないので研究のしようもありませんから」
いけたー!!――心の中で全力のガッツポーズを繰り出した。
『イグニス』という国では神覚者がレインのみだから大体のことは誤魔化せそうだ。
「……ではこのダンジョンから脱出します。魔法石は回収しきれていませんが、ここはかなり特殊なので仕方ないでしょう。あと4か所残ってます。そちらを全て回収するだけでも利益は余裕で残せます」
ニーナはテキパキと指示を出す。
「了解しました」
それに全員が従う。その方がレインにとっても楽だった。
少しだけ回収した魔法石を収納して外へ出た。するとすぐに護衛の覚醒者たちがやってきた。
「攻略お疲れ様です!!移動の準備は完了しております。ポーションは必要ですか?」
「ええ……疲労回復ポーションを人数分貰える?魔法石はレインさんの収納スキルを頼っているから確認は不要です。すぐに移動しましょう」
レインたちはすぐに馬車に乗り込んで移動を開始した。というのも最初のダンジョンで少し時間がかかった為だ。今日中に5箇所を攻略しないといけない。夜遅くなるとエリスが心配する。あの子に余計な心配をかける訳にはいかない。
ニーナがレインのその話を聞いた時は『黒龍』から人を送ると提案されたが断った。光を失ったエリスからすればそれは恐怖になってしまうだろう。
だから日暮れまでには家に帰らないといけない。よって残りはヴァルゼルと阿頼耶とレインを主軸に攻略する。
しかしAランクダンジョン5か所を回って魔法石を全く回収しないとなると『黒龍』といえど大きな損害となる。
だから他のSランクたちと剣士たちで魔法石を採掘しボスの部屋まで運ぶ。その後、レインの収納スキルを使って短期間で攻略を済ませる。
次のダンジョンへ向かう馬車の中でも当然あのダンジョンでの出来事の話は行われる。
「それにしても……あのダンジョンは何だったんでしょう?あのような場所は聞いた事がありません」
「そうですね。……私たちはダンジョンという物を理解しきれていないのでしょう」
「仕方ありません。魔法石が我々にとっての恩恵であり、ダンジョン内のモンスターがそれを得る為の試練というのが世界の通説ですから。……まもなく到着しますね。作戦は本当に先ほどのもので大丈夫なのですか?」
ニーナは心配そうに尋ねる。やはり先の事もありレインほぼ1人にやらせる事に躊躇してしまう様だった。
「無論です。もし同じような状態ならその時は撤退しましょう」
「承知しました」
◇◇◇
「旦那!」
…………旦那?
「…………何?」
「こいつらはどうすんだ?」
2か所目のAランクダンジョンは数が多いだけのダンジョンだった。前に見た……名前は忘れたが狼みたいなモンスターが大量にいた。
別にいらないので阿頼耶とヴァルゼルに任せた。やはりヴァルゼルのスキル〈重装甲〉は便利だ。狼のように爪と牙しか攻撃手段を持たないとヴァルゼルに対して歯が立たない。
モンスターは何も出来ず大剣によって潰されていった。
ここでは目ぼしい傀儡を得る事なく終わった。
◇◇◇
3か所目のAランクダンジョンは……。
「なんだコイツ?気色悪いな」
そう言ってヴァルゼルは少し大きい緑色と青色の縞模様の蛇を踏み潰した。毒とかありそうだけど試す訳にもいかないし、ニョロニョロしたのは何となく嫌なので全滅させた。
しかしボスは違った。
「おーおーコイツは……ハイドラじゃねぇか!」
ヴァルゼルはテンションが上がっている。今まで殲滅してきた蛇とは比にならない程の体躯を持つ魔獣だ。四つの首と頭を持ち黄色の眼光がこちらを覗いている。
「……コイツはほしいな。ヴァルゼル!コイツの弱点とか分かるか?」
「あー?首を全部落とせば死ぬぞ。ただそこそこの速度で再生するがな」
「別に問題にはならないな」
レインは剣を構えて突撃する。アルティがやったように〈支配〉で武器を操る練習もしたいがうまくできなかった。まあ当然ではある。
人間は左右の手で別々の動きをする事はあまり出来ない。練習すれば出来るんだろうが〈支配〉による武器操作は2本の腕とかいうレベルではない。
数十本の武器をそれぞれの特性とその時の状況に合わせて振るわなければならない。そんな事すぐに出来てたまるか。
ハイドラの俊敏かつ執拗に蠢く首を捉えるのはなかなか苦労した。ただ噛まれなければ毒に侵される心配もない。というか毒があるのかも結局分からない。コイツは阿頼耶と2人で倒した。『傀儡の兵士 大蛇』を獲得した。
◇◇◇
4か所目は当たりだった。1箇所目と同じでオーガの軍勢が相手だった。前はヴァルゼルの対応でそこまで多くのオーガを手に入れていなかった。
今回は余す事なくヴァルゼルと兵士たちが半殺しにして阿頼耶とレインで殲滅した。
これにより『傀儡の兵士 鬼兵』が120体に増えた。オーガは1体がBランク以上、Aランク未満くらいの強さだ。相手がSランクでない限りはコイツらだけで蹴りがつく。ちなみにボスは少し大きいオーガだった。
◇◇◇
最後の5か所目は正直微妙だった。相手はゾンビとスケルトンの混成部隊のようだった。とにかく臭いがキツくて兵士たちにぶん投げた。
そのおかげで新しい傀儡は得られなかった。ただ兵士になってもあの腐った臭いが消えてなかったら絶望しかないのでこれで良かったと思っている。
やはりヴァルゼルのような存在がいるのは異例中の異例だという事だ。
その間もニーナたちは黙々と魔法石を回収しまくっていた。もちろん兵士たちにも手伝わせている。
◇◇◇
そして時間は流れ日が暮れる前になる。場所も移動も効率を重視した為、予想よりは早く戻れた。
現在レインたちは覚醒組合本部の待合室にいる。回収した魔法石を換金するためだ。既に2億近い資金を持つレインにはこれがどれだけのお金になるのか検討も付かなかった。ちなみに街の中ではヴァルゼルは召喚しない。顔が怖いからだ。
レインが収納した全ての魔法石を取り出した時に建物が揺れた。地下もあるから正直床が抜け落ちるかと思ったくらいだ。
職員総出で査定をするとの事なので待合室で待機している。
"どれくらいなんだろう。前にAランクダンジョンをクリアした時は2億だったもんな。今回は5カ所回ってる……あー1か所目はちゃんと回収してないから4箇所分かな。10億くらいあったらすごいなぁ"
レインはどれだけのお金が手に入るのか気が気ではない。金額によっては明日にでも家を買って引っ越ししたいと考えているからだ。いい加減あんなボロ屋からは出たい。
レインがワクワクしていると部屋の扉がノックされ女性の職員が3名と男性職員が1名入ってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます