第41話
――『傀儡の精鋭 鋼魔』を獲得しました――
「……ん?精鋭?」
いつもは傀儡の兵士だったはずだ。この男にトドメを刺し傀儡にした。見た目はほぼ変わっていないが、着ていたボロ布から軽装鎧になっている。
全体的に黒を基調にした鎧で長く伸びた白髪がよく映える。その男は片膝をついて頭を下げていた。
"アルティ……精鋭っていうのは……"
"へぇ……こんなのでも精鋭になれるのか。言い忘れてたけど傀儡の中にもランクがあるんだよ。兵士だったり精鋭だったりね。傀儡にしてみて初めて分かるよ。精鋭っていうのは当たりだね"
"そうなのか。……というか身体が痛いなぁ。まだ4ヶ所残ってるけどいけるか"
"無理はするんじゃないよ?"
"ありがとう。また助けられた"
"あまり心配かけさせないでね?魔王だってメンタルやられる事もあるから"
そうなんだ……とレインは思った。さて他のみんなの状態も確認しないと。
「深淵の支配者……漆黒の魔王様……我が主人よ。何なりとご命令を」
誰かに声をかけられた。レインはこちらを見ているニーナたちを見ていた。あの男を倒した事による安堵か皆んな力が抜けて座っているようだ。ただ阿頼耶だけが立って真っ直ぐこちらを見て微笑んでいる。
そんな時に後ろから声をかけられた。……後ろ?
レインは振り返る。
「………………え?」
「我が主人よ。忠誠を尽くします」
その声の主はあの男だった。……というか傀儡って話せるのか?
「なんで話せるの?」
色々言いたい事や聞きたい事はあるが1発目に出てきた言葉がそれだった。傀儡の兵士になったのに見た目も服装以外は変化がないし何より話せる。
「話せ……ました」
「あれ?そんな感じ?…………まあいいか。お前、名前はあるのか?何でここに?あとあそこで大人しくなったサイクロプスは何なんだ?」
鋼魔って表示は出てたけどそれが本当の名前ってわけじゃないだろうし。とりあえず思いついた質問もまとめてぶつける。
「鋼魔ヴァルゼル……ここにいたのはあの忌々しい神王軍によって囚われていたのです。あの2体の巨人はかつて私の部下だった者です。しかし長い間囚われていた為、自我は消滅しました。もう敵味方も分からず暴れ回るだけでしょう」
「そうか……あいつらを傀儡にしても良いか?」
「もちろんです。アイツらの苦しみを終わらせていただけるのは私にとっても無常の喜びにございます」
「……………………」
レインはヴァルゼルの顔を見る。ヴァルゼルは不思議そうに見返す。
「主人よ、どうかされましたか?」
「その話し方なんなの?さっきまでもっとこう……横柄な話し方だったよね?」
「……………………よろしいですか?」
「別にいいよ。お前が楽な方を選んでくれ。そんな事を気にして本来の力で戦えない方が迷惑だ」
「…………プハーッ!!!助かったぜ!アンタ話が分かる奴だな!!」
ヴァルゼルは膝をつくのもやめて立ち上がりレインと肩を組む。ヴァルゼルの身体がガッツリ折れている左腕に当たる。
かなりイラッとしたが、自分で言った手前離れろともなかなか言えずとりあえず阿頼耶を手招きで呼んだ。阿頼耶はそれに気付き走って寄ってくる。
「ご主人様……あ、いやレインさんご無事ですか?」
ちゃんとした会話が久しぶりの為、完全にご主人様って呼んだな。まあいいか。
「俺の怪我を治してくれ。身体中痛くて辛い」
「かしこまりました。〈回復〉」
レインの身体が緑色の綺麗な光に一瞬包まれる。すると今まで全身を襲っていた痛みが水に流れるように消えていった。
「ふー……ありがとう、助かったよ」
「ご命令とあらば即座に回復させていただきますので」
阿頼耶は得意気に言う。このダンジョンではほとんど彼らを守ってもらっていたからな。次は一緒に前で戦うか。
「お前も俺と同じ部類か?回復スキルなんて珍しいもん持ってん……」
ザンッ!!――阿頼耶が剣を引き抜き振るう。その剣から放たれた斬撃は少し離れた後ろの壁を斬り裂くほどの威力だった。
「触るな……殺すぞ」
ヴァルゼルは首を刎ね飛ばされた。しかし傀儡の兵士だからレインの魔力を消費して復活する。
「いきなり何しやがる!」
「お前が私に触ろうとするからだ」
2人が喧嘩を始める。この2人が仲良くしてるのもそれはそれで気色悪いので良しとしたい。ただ……。
「阿頼耶……コイツの復活にかなり魔力を持ってかれるから殺すなよ?」
「かしこまりました」
返事はめちゃくちゃ早かった。あとヴァルゼルの復活にはかなりの魔力を消費した。多分、上位剣士数百回分に相当するくらいだった。
……それに油断してたとはいえヴァルゼルの首を一撃で落としていた。阿頼耶……強くなってないか?
まあそれも後で確かめれば良いか。とりあえず今日の目的はあと4か所Aランクダンジョンをクリアする事にある。他のみんなが動ければいいんだけど。
「あー……とりあえずアイツらも倒すぞ。一撃で苦しまずに逝かせてやろう」
レインは剣を取り出し構えた。そのまま拘束された2体のサイクロプスの近くまで移動する。レインが近付いても反応がなかった。
さっきまでかなり暴れてたから疲れたのか?身体は呼吸するように小さく動いているから死んでいる訳じゃなさそうだ。
レインは跳躍し露出している首目掛けて剣を振るった。
◇◇◇
――『傀儡の兵士 巨人兵』を2体獲得しました――
――スキル〈上位強化〉がLv.MAXになりました。スキル〈上位強化〉を
"……え?早いな。〈上位強化〉ってそんなにレベルも上がってなかったと思うけど。ヴァルゼルとの戦闘とアルティが俺の身体を使ったから一気に成長したのか?"
「……はい」
レインは返事をする。強化されるなら経緯は別にどうでもいい。
――スキル〈上位強化〉を
「……新しいスキルか。また今度使ってみるか」
ピコンッ――
"ん?別のスキルも獲得してる?えーとこれは……"
「レインさん!」
ニーナたちがレインに話しかける。
「……どうしました?」
レインが振り返ると全員が安堵の表情を浮かべて立っている。
「見て下さい。扉が開いています。怪我も完治し全員無事です。全てレインさんのお陰です」
ニーナはレインの手を両手で包み話す。なぜ阿頼耶に睨まれているのか理解できなかった。
「いえ……皆さんのおかげで俺もコイツのスキルに気付けました(本当は気付いていない)。あと4か所のダンジョンにもこのまま向かいたいのですが……大丈夫ですか?」
「…………え?え、ええ……問題ありませんが……レインさんは大丈夫ですか?あの時……」
ニーナは言い淀む。何か言い辛い事があるみたいだ。
「どうしました?」
「………………えーと」
やはり言い辛いようだ。めちゃくちゃな悪口じゃない限りは何も思わないけど。
「俺が代わりに言おう。あの時のお前……レインは……何というか…人ではないような感じがした。……悪気はないが……どちらかというとモンスターに近いようなものだった。人からあそこまで不吉で膨大な魔力が溢れ出るとは……これまで見た事も聞いた事もない」
……要はアルティが身体を操って戦った事でレインとアルティの魔力が混ざって溢れた。魔王の魔力は当然人のそれとは比較にならない。それを隠す事なく全開にしたせいで怪しまれてしまった。
"……どうやって誤魔化そう"
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