第37話
これで全員の覚悟が決まった。
「これより内部へ入ります。リグド……レガに合図を!ロージアは全員に肉体強化の付与をお願い。レインさんは駒の配置をお願いします」
「了解」
そう言ってリグドは入口の方に向けて〈
「分かりました。〈
ロージアは杖を地面にカツンッと当てて詠唱した。阿頼耶とレインも含めた全員に強化魔法が付与されたようだ。
"俺は……変わってるのか?よく分からない"
既に〈上位強化〉を使用しているレインに変化は感じられなかった。おそらくロージアが掛けられる強化魔法よりも上の強化スキルを使っているから効果がないんだろう。
もし効果が上乗せされるなら1人の覚醒者に100人、1,000人の付与魔法使いが強化魔法を付与する。そうすれば最強の存在が出来上がる。
それをしないって事は同じ種類の強化魔法を複数付与したとしても意味がなく、1番効果が大きい物のみが適応される……みたいなものか。
スキルはもちろん魔法に関しても知識が乏しいレインはこれから学んでいくものが多い。
「緊急事態か?」
レインたちに強化魔法を付与し終えたところにレガが現れた。近付いていたのは気付いていたが、音もなく出現したのには驚いた。
「そのいきなり現れるのやめてもらえる?毎回ビクってなるから疲れるのよ?」
ロージアはレガの出現に驚いていたようだ。しかしレガはロージアを無視して話を進める。
「……扉か?なるほど緊急事態とはこれの事か。どうするんだ?突入するのか?」
レガは扉を見ただけでおおよそ把握したようだ。頭の回転も速い。一から説明する必要がないのは助かる。こうした力も必要だな。
「そうです。このメンバーであれば問題ないと判断しました。ただ扉にはレインさんの召喚した駒を配置してもらいます」
「……なるほど、閉じ込められない為の対策か。分かった。内部の状況にもよるが俺も入り口は警戒しておこう」
「よろしくお願いします」
レインはニーナとレガの会話を聞く。よくそれだけの情報でそんな感じに会話できるものだと感心する。頭が良いとはこういう事を言うだろうなぁ。
「では行きましょう。警戒を怠らないように。モンスターでこちらを攻撃する素振りを見せたら即座に殲滅します」
「「「了解」」」
レインと阿頼耶以外の返事が同時に起こる。さっきまではふざけたような雰囲気もあったが今はそれが皆無だ。
"俺も気合いを入れねばならないな"
「傀儡……戦闘準備……」
"上位剣士6体は扉の間で待機しろ。扉が閉まろうとしたら全力で阻止しろ。剣士と番犬は外で待機。扉が閉まったら破壊しろ"
細かな指示はこうした方が伝わりやすい。騎士王を待機させた方がいいかもしれない。しかし戦闘になると相手の実力を測る為にあのレベルの駒は必要だ。
全員の様子を伺ったニーナは汚れた灰色の扉に触れた。こんな大きな扉を開けるのは大変だろうと傀儡たちに手伝わせようとしたが、ニーナが扉に触れた瞬間にゆっくりと開いた。
随分長い間開かれていなかったかのように扉と洞窟内に軋む音が響く。
そして流れ出てくる。漆黒の魔力が。
レインは殴られたような衝撃を覚える。このメンバーだし、自身の傀儡もいる。警戒は必要でも本気を出す事はないと思っていた。
しかし扉から溢れ出る魔力の色は懐かしくもあるが、敵となればこれまで経験した何よりも脅威となる。
扉が開くと内部は円形の石で出来た壁と天井が見えた。その壁を這うように大きな燭台が並べられている。
レインたちが部屋に一歩入ると同時に全ての燭台に青色の火が灯った。魔法石が放つ光にとてもよく似た火だ。
内部がはっきり見えるようになった事でこの魔力を放つ者の正体が分かった。
「なんですか……これ?」
リグドが声を上げた。そんな言葉しか出てこないのも無理はなかった。
円形の部屋の1番奥、つまりレインたちが入った扉のちょうど反対側には汚れて所々が崩れた玉座が1つ。
その左右には鉄の手枷によって両腕を肩の高さで拘束された10メートルクラスの巨人が1体ずつ、合計で2体いる。
力尽きているのか頭をダランと下げているが、顔には鉄の仮面のようなものを被されていて表情は見えない。
「あれは巨人……ですか?」
レインは誰が答えてくれるだろうと質問する。
「いえ……あれはサイクロプスです。あの兜の隙間から牙が見えています。巨人タイプのモンスターにはああした獣の特徴はないのでほぼ断定できます。それよりもレインさん……気付いてますよね?」
ニーナが答えてくれた。そして最後に返ってきた質問も容易に理解できる。最も警戒すべきなのは左右のサイクロプスではない。その中央にある玉座に浅く座り背もたれにグッタリと寄り掛かる存在がいる。
それは左右のサイクロプスのように巨大でなく普通の人間の大きさだ。ここから見える範囲だが、下半身は鎧を着ている。上半身に鎧はなく薄汚れた灰色の布切れを纏っているようだ。髪は長く真っ白だ。その表情は見えず項垂れるように頭を下げている。
死んでいるのかもとレインは思ったが、それを否定するようにその全身から真っ黒な魔力が漏れ出ている。
「ええ」
レインが返事をしようとした時だった。バタンッ!――と大きな音を立てて扉が勢いよく閉まった。間に挟み込むように立っていた傀儡は押し潰れた。
幸いにも覚醒者たちは阿頼耶も含めて全員が中に入っていたから怪我人はいない。こうなった事で外で待機させていた傀儡たちも扉を破壊する為に攻撃を開始するだろう。
"しかし上位剣士数体を一瞬で押し潰すほどの速度で閉まったのか。……これはあの敵もかなりヤバいやつなのか?"
「レインさん!」
ニーナがこちらを見て叫ぶ。
「傀儡ごと押し潰されました。外に待機させてる傀儡が扉を破壊する為に動いてるはずです」
「どうしますか?」
リグドが問いかける。
「どうするも何も……あれらを倒せば扉は開くだろう。左右のデカいのを何とかしてくれたら真ん中は俺が殺ろう」
レガがそう話す。この場にいる者たちは誰一人として取り乱す事なく冷静だ。
「これはこれは……久しぶりのお客さんか……」
低い男の声が聞こえた。この場内に響くようにハッキリと。
誰の声だ?そんな疑問はどうでも良かった。今この場で聞き覚えのない声を聞くの事はあり得ない。その声の主が誰なのかは全員が察知した。
左右のサイクロプスではない。中央に腰掛けているあの男だ。
その男は顔をゆっくり上げた。長く伸びた白髪の間から赤い瞳が光を放ち、ニヤリと歪んだ笑みを浮かべていた。
「リグド!!!」
その顔を見たニーナが叫び、リグドが即座に反応した。リグドは右手を男に向けた。
「〈
「〈
その言葉でリグドを取り囲むように赤い
そしてすぐに男へ向けて発射された。普通の
……がその放たれた矢は男へ直撃し左右のサイクロプスたちも巻き込んだ大爆発を起こした。
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