第24話








◇◇◇



「ではこれよりダンジョン攻略を開始する。やり方はいつも通りだ。アラヤさんとレインさんは自由に動いて下さい。その方が力を発揮出来そうです」



「了解した」



「ただ……」



「どうしました?」



 アラムは不安そうな顔をする。



「何か要望があるなら先に言ってもらいたい」



「我々はCランクです。そしてこれから挑むダンジョンはBランク。お2人が期待するほどの動きは出来ないかもしれません。もしかすると守っていただかないといけない場面も出てくるかと思いますが……」



「その辺は任せてくれていい。死人も怪我人も絶対に出さないと約束する。負傷したら阿頼耶に言ってくれ。死んでなければ治せる」



「そ、それは……凄いですね」



 アラムは驚きの表情を隠しきれない。それは他の覚醒者たちも同じだった。

 普通の回復スキルは傷を治す程度、Sランククラスであっても瀕死の重傷を即座に回復させる事は難しいかもしれない。


 しかしそれを阿頼耶は可能としている……と本人は言っていた。


 数時間話しながら歩いた所にダンジョンはあった。街と街を繋ぐ街道の脇にフワフワと浮いていた。真っ黒な魔力の渦の中に青い雷のような光が走っている。


 今まで見た他のCランクやDランクのダンジョンよりも大きい。そして流れ出る魔力も多い。

 このダンジョンが出現してから今日で6日目だ。崩壊ダンジョンブレイクしてしまうまで平均で10~14日。

 既に半分が経過してしまっている。内部にいるモンスターも数が増えている事だろう。


「では行こうか。君たちは自分の身を守る事を最優先にしてくれ。あと……リーダーであるアラムには伝えてあるが、俺の力の事は公言しないように」



 レインは人差し指を口に当てる素振りをする。誰にも言わないようにとの意味合いでやった。



 その言葉の意味と緊張はアラムにのみ伝わった。それを証明するかのように身震いする。他のメンバーは頭上にハテナマークが出ているようだが、内部に入ればすぐに分かると思う。


 これからレインが戦う姿を見れば誰がFランクの冒険者だと思うだろうか。しかし腕章の色からしてレインがFランクである事に変わりはない。



 であるならばこの国で最初の神覚者である……という証明に他ならない。バレるのはまだ控えたい所ではあるが……やむを得ない場合も想定するか。



 全員がその場で頷く。それを確認した後レイン一行はダンジョン内部へと入っていった。

 



◇◇◇




「やはり洞窟タイプですね。既に魔法石もかなりありますから明るいですね」



 アラムがレインに話しかける。天井の高い洞窟で周囲には青い光を放つ魔法石が壁に埋め込まれている。CランクやDランクと比べて光も強いし数も多い。これは期待できそうだ。



 レインはこの後の報酬の事を思い浮かべるが、すぐに掻き消えてしまう。魔法石が多いという事は当然モンスターも多い。そして個々の力がさらに強い。



 光があるとはいえ奥まで見えるわけじゃない。しかしモンスターがこちらへ向かってくる気配は感じられる。阿頼耶の横顔を見るに気付いているようだ。既に臨戦体制と言える。



 レインもすぐに剣を召喚した。その内の1つを阿頼耶に手渡す。阿頼耶は一礼し剣を受け取り構えた。



 その光景を後ろに控える覚醒者たちは不思議そうに見ている。何故モンスターも全く見えない中でいきなり剣を抜いたのだろうと。



 "こいつらまだ気付いていないのか?"


 "レインと比べるのは可哀想だよ。アンタはその目も相まって探知能力はかなり高いからね"



 "……なら仕方ないか"



「レインさん?どうされたのですか?」



「敵だ。真っ直ぐにこちらに向かって来ている。全員武器を構えろ。数も多いぞ?」


 スキル〈強化Lv.7〉で把握している敵の数は50~60体。もっと集中すれば正確に分かるが誤差の範囲だろう。問題なのはそのモンスターが放つ音だ。

 ガチャガチャ――と金属が擦れるような音が聞こえる。つまりモンスターは武装している。武装しそれを扱うほどの知恵がある。


 さすがはBランクかとレインは感心する。しかし流れてくる魔力から見てそこまで強いとは思えない。だが個の強さはなくても連携させると強敵となる可能性もある。


 油断せず確実に蹴散らしていこう。レインの武器を握る力は強くなる。

 


「……お、おい」



 アラムたちにもようやく見えたようだ。モンスターはレインたち覚醒者を認識しているが速度を上げず隊列を組んで向かってきた。


 そしてようやくその姿を完全に捉えた。


「ス…スケルトンウォーリアー?!」


 アラムが呟いた。昨日倒したスケルトンの上位個体。知能もあり鎧を身につけ武器を振るう。


 まず先頭を進むのは盾と剣を持つ『骸骨騎士スケルトンナイト』、その後ろを追従するように大剣を持つ『骸骨戦士スケルトンウォーリアー』、そのさらに後方には弓を持つ『骸骨弓兵スケルトンアーチャー』、そして最後に魔法の杖を持つ『骸骨魔法兵スケルトンメイジ』だ。


 真っ直ぐこちらを見ながら歩いてくる。数は戦士系が1番多く魔法兵が1番少ない。


「遠距離から攻撃されたら厄介だな。阿頼耶は後ろへ回れ。俺が正面から引き付ける」


「あの数を御身お一人で正面から迎え討つのは……あの……えっと……危険かと思われますが?」


 阿頼耶は口籠る。視線を合わせないようにチラチラと見ながら話す。かなり言いづらいようだ。

 

「俺が負けると?」


 レインは少し機嫌が悪そうに言う。もちろん阿頼耶は純粋にレインの事を心配したからの発言だ。レインにとってはただの冗談みたいなものだった。


「滅相もございません!……しかしながら…ですね?敵は武装し数も揃えております。そしてあの数が全てではございません」


「まあそうだろうな」


 "実際あの集団の奥からは別の気配を感じる。アイツらは先遣隊だ。本隊は別にいる。これがBランクなのか?"


 レインは高ランク帯と言われるダンジョンは初めて来た。だからこれがそうなのかと理解できない。



「…………レインさん」



 そんな疑問を持っているとアラムが後ろから声をかける。



「どうした?」



 レインは振り返りその先の言葉が出なかった。アラムを含めたパーティー全員が顔面蒼白し怯えている。その光景にレインは驚愕する。



「撤退しましょう」



「……え?何で?」



「ほ、本来……『骸骨戦士スケルトンウォーリアー』などの上位個体はCランクボスかBランクでもボスを守る役目を持ってます。なのに……ここでは先鋒を務めています。……という事はこのダンジョンはあれよりも強い存在がいるという事です。つまりここは……」



「……ここは?」



「Aランクダンジョンです。組合による魔力測定に誤りがあったんです」



「そんな事あるのか?」



「あります!『骸骨魔法兵スケルトンメイジ』以外は魔力をほとんど持ちません。組合はダンジョンから出てくる魔力しか測定していません。魔力をコントロール出来る程の知能を持つモンスターやそもそも魔力を持たないモンスターたちがいるダンジョンにはこういう事がたまにあるんです」



 アラムは焦るように説明する。何故ならもう数十メートルの位置までモンスターが接近している。まもなく弓や魔法の射程に入るだろう。――さてどうしようか。



 

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