第23話







◇◇◇



「…………ん?」



 レインは自分の布団で目が覚めた。

 ……あれ?いつの間に寝たんだ?夜の記憶が曖昧だ。



「……うぅん」



 横にはレインにしがみ付くようにエリスが寝ている。……何で同じ布団に?レインは昨日の記憶を巡らせる。



 "昨日アンタたちドラゴンの肉の旨さに感動して買ってた分全部食べたんだよ。アンタはお腹いっぱいで一旦横になるとか言ってそのまま寝てたよ。エリスも一緒に寝ようとしたけど場所が分からないみたいだったから阿頼耶が運んでた"


 ……腹一杯になって寝落ちしたのか。その阿頼耶も壁にもたれ掛かるよう座って目を閉じていた。睡眠は必要ないって言ってなかったか?


 レインはゆっくり起き上がり阿頼耶を見た。


 その瞬間、阿頼耶は目をパチっと開けて同じようにレインを見た。お互いの視線が合う。ただ目を閉じてただけか。


「おはようございます」


「……おはよう」


 レインはエリスを起こさないよう細心の注意をはらって布団から抜け出す。


 時間的に待ち合わせにも間に合う。身支度を整えて出発しよう。エリスは起こさないでおく。


 レインが外出している事、いつ帰ってくるのかという事を手紙とかで伝える事は出来ない。まあ多分起きて俺がいなかったら察してくれると思う。



「エリス……行ってくるよ」



「………………」



 エリスは寝息を立てている。無理に起こす必要もない。レインは阿頼耶に視線を送る。阿頼耶は黙って頷く。この察する能力も非常に助かる。


 そして2人で西門へ向かった。少し早いが遅れるよりマシだ。初めてのBランクダンジョンだ。



◇◇◇



 まだ早朝だが人通りは多い。みんな朝早くから行動する。


「阿頼耶は今回のダンジョンでは身体の形を変えるなよ?人間じゃないってバレたらマズイからな。武器の形も変えるなよ?」


「それですとうまく立ち回れなくなる可能性がありますが……」



「俺も参戦するから大丈夫だよ。……あーそうだ、アルティ」


 "なに?どうしたの?"


 アルティが前に大量に出した武器って借りれないの?俺って阿頼耶しか武器がないから種類揃えたいんだけど金もないしな。


 "あーいいよー。こっちの収納から移しておくよ"


 そんなのも出来るのか?


 "出来るよ。アンタのスキルの大元は私だからね。共有する事だって出来るよ。とりあえず武器は全部移しておくから好きに使いな"


「……ありがとう」


「ご主人様?」


「ああ……ごめん、何でもない。あと他の人がいる前では名前で呼べよ?俺たちの関係は外では覚醒者パーティー以外の何ものでもない。それを肝に銘じておけよ?」



「かしこまりました」



◇◇◇



「すいません!お待たせしましたか?」



 そこから数十分後にアラムたちが来た。全員が完全武装している。やはり予想通り3人が盾を持っている――つまり前衛だ。女性3人は2人が魔法使いで1人が回復スキル持ちだな。

 とてもバランスの取れたパーティーだと思う。中堅にリーダーのアラムともう1人男がいる。


 弓を持ってて矢がないという事は『魔法弓兵マジックアーチャー』の職かな?近距離も遠距離も戦える珍しい部類だ。


 "魔法弓兵マジックアーチャー?人間ってのはスキルだけじゃなくて職業クラスもあるの?"


 いや?各自で勝手に名乗ってるだけだよ。……説明が面倒だな。要は本人が得意な事を極めていくと勝手に職業クラスが後から付いてくるみたいな感じ?


 魔力を飛ばす事が得意で一度に多くの魔力を使えるなら『魔法士ソーサラー』で、少ない魔力を扱うなら威力を高める為に矢の形状にして飛ばす『魔法弓兵マジックアーチャー』になるってわけ。

 近接が得意なら剣をメインにするのか、盾をメインにするのかで色々あるんだよ。

 スキルもそれに付随するように覚えていくんだ。近接系なら『挑発』だったり、魔法系なら『同時詠唱』とか『付与エンチャント』とかね。



 "へぇー!勉強になるねぇ"



 そりゃ良かったよ。


「……いえ…私たちも今来たところです。では行きましょうか」


 阿頼耶はすぐにボロを出す可能性があるので今回は黙っててもらう。


「了解しました」


 アラムたちを先頭に出発する。しばらく歩いてアラムが口を開く。


「……ところでレインさんとアラヤさんは武器やポーションは持たないのですか?見た所……何か装備しているようには見えませんが?」



 阿頼耶は言いづらそうだ。私は自分の身体を変化させて戦います……なんて言えないもんな。



「大丈夫だよ。阿頼耶は回復スキルが使えるし、俺も次元収納が使えるからね」



「……それは本当ですか?次元収納はかなりの魔力がないと扱えない物だと思いますが」



「……レインさんを疑うのか?」



 阿頼耶の視線がアラムに突き刺さる。レインが事前に言っておかなければここで戦端が開かれただろう。



「ち、違います!そ、それだけ次元収納スキルは珍しく高位ランクの覚醒者しか扱えない物なので」



 アラムは慌てて訂正した。


 

「阿頼耶……静かにしてろ」



「すいません」



「仲間がすまない。……使えるのは本当だ」


 レインは自分のすぐ横に剣を召喚した。取り出す時に選択範囲を間違えて3本出してしまった。どの武器をどこに出すのか……これを正確に行えないといざという時に対応できない。

 この収納スキルもちゃんと扱えるようにしないといけない。

 この剣は全部アルティから借りてる物だ。地面に突き刺さるように召喚する。


 分裂させている阿頼耶はガントレットにしている。緊急時に変化させるよう指示してある。


「レインさん……本当にFランクですか?」


 アラムは驚愕と疑いの目を向けて来る。何かやらかしたか?レインはそう思った。

 

「どういう意味ですか?」


「じ、次元収納スキルは本来……魔力の低い物を数個だけ収納するスキルです。だから大型ギルドは素材回収専門のチームを作ったりします。

 しかしこの剣からは……少なくともBランククラスの魔力が込められているように感じます。それを……3本も…となると……レインさんはSランククラスの魔力を」


 レインはアラムがそれを言い切る前に剣を拾って向けた。他のメンバーは先を歩いていたからこのやり取りは見られていない。

 向けた剣も地面に刺さったままの剣もすぐに片付けた。しかしアラムの言葉を遮るのには十分だった。


「な、なにを?!」


「申し訳ない。俺の力の事は今はまだ秘密なんだ。アラムは頭が良いから気付いてるよな?俺の事は黙っててもらえるかな?」


「もちろんです。いずれこの国を導く御方に会えて光栄です」


 おそらくアラムはレインが神覚者だという事に気付いただろう。神覚者がいないってだけで他国からもその国の冒険者からも下に見られてた事実がある。

 故にこの国で神覚者が出現する事は全ての国民と覚醒者たちの悲願みたいなものだ。


 というか……まさか次元収納スキルでバレるとはな。他の人の前で力の一部を披露する時は気をつけないと。傀儡の兵士なんて出したら1発だな。



 死人を出さず怪我もせずそして本当の力を見せずにクリアする。


 …………意外と難しいかも。少し不安になる俺だった。



 

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