第13話
「……この入り口はどうする?」
帰ろうとしたが、このダンジョンの存在はどうしたらいいか分からない。
"入り口を壊してくれていいよ?どうせ私が離れたらただの洞窟になるしね。中にある家だけ残ってたら良いかなぁとは思ってる"
「了解」
レインは阿頼耶を使って崖の一部を崩した。これでここの存在に気付く人もいない……と思う。
見つけたところでモンスターもいないしあの家に行くまでかなり苦労すると思う。
「もう朝になるな。急いで帰ろう。阿頼耶はついてこれるか?」
「……無論でございます」
「ちょっと本気で行くからな?……じゃあ行こう!」
――スキル『強化Lv.5』を使用します――
ドンッ!――と地面が抉れると同時に走り出した。森を駆け抜け、風を切って走る。
これだけ走っても疲れもない。ここに来た時は数時間歩いた気がするけど、これなら数十分で街へ戻れそうだ。
少し後ろを振り返ると阿頼耶も涼しい顔でついてきていた。ここまで速度を出せるようになるまでかなり苦労したんだけどな……レインは阿頼耶が持つ才能に少しばかりの嫉妬を覚えた。
「ここが俺が住んでる街『テルセロ』だよ」
「かなり大きいのですね」
「そうだな。ここが『イグニス』第2の都市って呼ばれてて『覚醒者組合』の本部もここにあるしね」
「覚醒者組合?」
「その辺は帰りながら説明するよ」
レインと阿頼耶は並んで街へ入る。特に怪しい行動をしていなければ街を守護する守衛や覚醒者に止められる事もない。そのまま2人で街の中を歩く。
"へぇー意外と発展してんだねぇ"
「そうだな」
発展はしてるけどその恩恵を受けているわけではない。……いや街の中が常に安全と思えるから俺も外へ出ていける……そういう意味では受けているのかもしれないな。
「…………ご主人様…あれは?」
阿頼耶が大通りの先を指差す。そこそこの人がいた。しかしその人たちが自発的に避けて道を開けるように進む大きな集団がいた。
「……凱旋だよ」
「凱旋……でございますか?」
「この国ではAランク以上――といってもSランクは無理だからAランクのダンジョンの中でも高レベルの所をクリアしたらそのパーティーとか個人に特別な報酬が与えられるんだよ。報酬は王城で国王から渡されるんだ。そこへ向かう事を凱旋っていってるだけだよ」
「特に大した事はないのですね」
「……そうだな。でもあの魔力……多分Sランクが何人かいるっぽいな。という事は『黒龍ギルド』か」
"『黒龍』?……なんだい?その仰々しい名前は?"
「この国、最強のギルドだよ。この国で現役のSランクは8人くらいいるんだけど、その内の5人が所属しているんだ」
"へぇー!私は知らないんだけどさ、Sランクって強いの?"
「そりゃ強いよ。Sランクの数が国のランクも決めるんだから。この国『イグニス』は8大国の中でも1番発言力が弱いんだよな。領土と人口は普通なんだけど」
"なんで?他の国のSランクってそんなに強いの?私にはよく分からないなぁ"
「ランクは魔力量によって決まるんだよ。だからSランク以上は階級がないから何が出来てどんな経験をしたかで強いと弱いとかはあると思う。
でもAランクとSランクとでは絶対に越えられない壁があるんだ。あとSランクが8人ってのは他の国に比べて少ないんだ。
例えば隣国の知恵の国『サージェス』は人口は少ないのに20人以上のSランクがいるし、3人くらいの『神覚者』もいる。割合的には世界トップだからなぁ。まあ最強の大国、剣の国『エスパーダ』はSランクが60人くらいいるし、神覚者も7人だっけ?それくらい差が開いてるんだよ」
"また知らない言葉が出てきたんだけど?なに神覚者って?"
「……えーと2回覚醒した人?魔力が見えるようになるのが『覚醒者』って呼ばれる条件なんだけど、稀に覚醒した後しばらくして魔力総量が大幅に増加して新しい強力なスキルを覚える人が出てくるんだ。それが『神覚者』だよ」
"神覚者ねぇ"
「1回目の覚醒は自分の運だけど2回目の覚醒は神によって覚醒してもらった……みたいな考えが世界的に主流だからね。ちなみにこの国は大国の中で唯一『神覚者』が0人なんだ」
とアルティに対して偉そうに教えてるが、これは最低限の知識でしかない。関わる機会もない人たちの事なんていちいち調べていられない。
"じゃあレインが最初の神覚者じゃん!……私、魔王なんだけど?なんか神って単語が付くの……とてもとても癪に触る"
「……俺に言われても困るんだけど」
『黒龍』ギルドの覚醒者たちが大通りの真ん中を歩いている。周囲はそれに歓声で応えた。
この国が大国と呼ばれているのは、この『黒龍』の存在が大きい。彼らなくして8大国の仲間入りは果たせなかった。
別に興味はないから人混みを分けて通り抜けた。しかしアルティがうるさい。
"あの先頭を歩いてる大男がリーダー?確かに大層な装備だなぁ。魔力量も申し分ない……とは思うけど。なんか偉そうなのが癪に触る……減点!"
何言ってんだこいつ。
レインは『黒龍』ギルドの先頭を歩く男を見た。黒龍って名前のギルドのマスターのくせに金ピカの鎧を着ている大男だ。ニカニカと笑い道の真ん中を我が物顔で歩く。……俺も嫌いだ。
「ご主人様……これからどうされるのですか?」
アルティとの会話に集中していて阿頼耶と話せていなかったな。
「家に帰るよ。エリスに阿頼耶を紹介したい」
「よろしいのですか?私は人ではありませんよ?」
「まあ……見た目は人だし、魔力の感じもモンスターには思えないから大丈夫でしょ。それにもう仲間なんだし」
「……仲間…ですか。勿体ないお言葉です」
阿頼耶は頬を赤らめ俯いた。口元が緩んでいるのが見える。そんなに嬉しかったのか?
「その後は……阿頼耶に覚醒者認定を受けてもらいたい。俺のランクは最底辺のFランクだ。今の阿頼耶ならAランクも余裕だと思う。Aランクが1人いると無条件で Bランクダンジョンに行けるんだ。そこで俺と阿頼耶の修業と並行して『傀儡の兵士』を増やしたい」
「ご主人様がFランク?!どうなっているのですか?この国の階級制度というものは!」
阿頼耶は顔を顰めて抗議する。
「……分かってるだろ?阿頼耶はDランク覚醒者を取り込んでるから知識とかも持ってるんじゃないの?」
「おおよそ……ですが……。その者が歩んで来た人生までは分かりません。しかしご主人様の力が1番低いランクというのが理解できません。一度決めたランクは変更できないのですか?」
神覚者の説明するのが面倒だな。
「お金を払えばもう一回魔力測定をしてもらえるよ。ただランクが変わるって事は『神覚者』って事だから滅多にない。魔力測定って1回目は無料だけど2回目はかなり取られるんだ。今はそんな金もないし、まだ目立ちたくないんだ」
「何故ですか?そのお力を誇示された方がよろしいかと思いますが……」
「この国には『神覚者』がいないんだ。今の俺なら『神覚者』と判定されるしSランクにもなれると思う。だけどそれだとギルドへの勧誘だったり、王城へ呼ばれたりとか面倒な事しかならないからな」
ギルドへの勧誘は放っておけばいいけど、王城へ呼ばれるのは勘弁してほしい。絶対に面倒なことになるからだ。
「……なるほど。そこまで考えが至らず申し訳ありません」
「別にいいよ。もうすぐ家だ。……あとかなり汚いしボロいから驚かないでくれよ?組合からは、組合に所属しない、ダンジョンやクエスト、パーティーも斡旋しない条件で渡された部屋だから」
「かしこまりました」
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