第14話









◇◇◇



「ここ……ですか?」



 阿頼耶の顔が引き攣ってる。阿頼耶が知っている家はアルティと過ごした場所だ。それと比べられたら大変だな。

 築何年だよ……というレベルの家だ。雨漏りしていないだけマシか。



「……も、申し訳ありません!!ご主人様のお住まいに失礼な感情をっ!」



 阿頼耶は跪いて謝罪した。



「ちょっとやめてくれ!なんか余計惨めになってくる!それにもう大丈夫だ。こんな家ともすぐにお別れだ。少し休んだら組合に行って金を稼ぐぞ」



 ここは人通りが少ないのが幸いした。こんな光景を見られたらどんな目で見られるだろうか。想像もしたくない。

 


「御心のままに。私は全身全霊でご主人様を支えます」



「……あと他の人がいる前でご主人様って呼ぶなよ?レインさんとかで良い」



「それはあまりに不敬です」



 こういう事を1発で納得してくれないのも不便だと思ってしまう。ただレインの事を想っての事だから無碍にも出来ない。――悩みの種が増え続けるレインであった。


 

「じゃあ命令だ。分かったな?」



「……………………」


 

 阿頼耶は俯き黙ってしまう。



「返事!」



「…………かしこまりました」



 声がちっさいけど仕方ない。阿頼耶は現時点でもAランクの力はあると思う。これからモンスターを取り込んでいけばSランクにも到達するはずだ。


 そんな人がレインをご主人様を仰いでいたらおかしいだろ。


「じゃあ入るぞ」


「はい」


 レインは鍵を開けて扉を開ける。もう日が昇ってるからエリスも起きてるかな。



「……ただいま」



「……お兄ちゃん?」



 レインの家は2部屋ある。エリスも年頃だ。寝る部屋は別にしてある。本人は一緒がいいと言っているが流石にダメだと思う。エリスの声は奥から聞こえた。



 レインは阿頼耶を連れて真っ直ぐその部屋へ向かう。

 


「帰ったよ」



「おかえりなさい。大丈夫?怪我してない?」



 エリスは優しい子だ。どれだけ自分が辛くても真っ先に他人を心配できる子だ。毎回レインの無事を確認する。


 

「大丈夫だよ。お腹すいたろ?すぐご飯にするからな」



「……うん、ありがとう」



 "レイン……大丈夫かい?"



 "……何が?"



 "その子……一度もレインの方を見てないよ?違う方を向いてる。こっちだって教えないの?"



 "最近は耳も良くないんだ。出来ない事をわざわざこっちから指摘する必要はない。……もう杖がないと長い距離は歩けない。短い距離なら大丈夫だけどよく転けるから怪我もしやすい。ちゃんとしたご飯も食べさせてやれないから痩せる一方だ"



 "原因はなんなの?"



 "分からない。ある日突然倒れたんだ。治すには神話級ポーションがいる。多分この国では手に入らないんだ"



 どこでどうやったら手に入るのかも分からない。本当に神話級ポーションの情報は手に入らなかった。ただ神話級ポーションは全ての病気を治療可能っていう話を聞いた。



 "阿頼耶では無理なんだね"



 "そうだ。阿頼耶の回復スキルと回復魔法では病気は治らない。治癒と回復は違う。傷を治す為の回復が病にも作用してしまうからだ"



「……エリスあとな?紹介したい人がいるんだ」


 レインは全力で平静を装う。耳は聞こえ難いだけだ。近くで話せば普通に会話もできる。


 そしてエリスは声のトーンでその人の感情を察知するのが得意だ。知り合いなんて皆無だから主にレインに対してその力が発揮される。


 何かあればすぐにどうしたのか?と聞いてくる。それにどう答えたらいいか分からない時もあるからそもそも聞かれないようにする事にしてある。

 


「……紹介?お友達?」



「そうだよ。俺の覚醒者パーティーの仲間なんだ。とても強い人でね。もうすぐ引っ越しもするし美味しいご飯もたくさん食べられるようにするからな。エリスの病気も必ず治してやるから」



「……うん待ってるね」



 エリスはようやくこちらを見た。目を閉じたまま口元だけ笑顔になる。――多分、そこまで期待されていない。こんな小さな子にこんな表情をさせ続けた自分が許せない。



 "落ち着け……心を沈めろ"



 心の中でそう念じる。でないとエリスが察知する。



「うん、待っててくれ。それで……この人が阿頼耶だ」



 あー……阿頼耶って本名言わない方が良かったか?後々面倒になったりしないよな。



「……アラヤさん?」



「……はい阿頼耶です。エリスさんはじめまして。ご主……レイン…さんと一緒に行動しています。これからよくお会いすると思いますがよろしくお願いします」



 今かなり危なかったな。ごしゅッ――って聞こえた気がする。



「……女の人?綺麗な声」



「そんな事ありません。あなたの方がとても可愛らしいですよ」


「私は……全然だよ。痩せてるし汚れてるし身体も弱いから」


 エリスは弱気だ。前は違った常に明るく元気な子だった。……目が見えなくなってから一気に暗くなってしまった。無理もない。



「これから治していけばいいのです。ご主……レインさんも本気でそう思っています。私たちで必ずエリスさんを治します」



「…………ありがとうございます」



「阿頼耶……エリスの傷を治せるか?」



 エリスは足も弱い。だから部屋の中を移動する際にもよく転ける。だから病気と直接的に関係ない傷が増えていく。

 


「もちろんです」



 阿頼耶はエリスの手を握る。エリスの手足にできている傷は一瞬で治った。この時に病気も治れば良かった。そんな期待をしてしまう。



「……ありがとう」



 世の中そんな期待通りに物事は進まない。しかし傷の痛みだけでも和らいだエリスの笑顔は少しだけ本物だった。



 その後、少しだけ話して簡単な食事を作った。目が見えなくてもご飯は食べられるし食欲がないわけじゃない。俺がちゃんと食べさせてやれていないだけだ。



 でもそれももう終わりだ。レインはそれだけ強くなった。この後からさっそく仕事に入る。



◇◇◇



 レインと阿頼耶は2人で覚醒者組合へ向かう。その途中で今後の流れと仕組みを説明する。



「組合に入ったらすぐに測定してもらおう。手順は割と簡単なんだ。それは受付に説明してもらおうか。……ただこれだけは注意してくれ。これから行くのは覚醒者組合本部だ。そこでの俺の扱いは本当に酷いものでね。俺は慣れてるから良いけど2人は驚くと思う。

 でももう弱い俺はいない。すぐに力を証明して後悔させてやるから耐えてくれ」



「レイン…さんがそう言うなら私は何も言わないでおきます」



「頼むぞ?」



 若干不安ではあるがとりあえず行くしかない。レインと阿頼耶は覚醒者組合の扉を開いた。

 


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