第9話
アルティはかなり驚いている。今レインが持っているこのセンスの良い片手剣が魔神が使っていた物と同じ……らしい。
というかこの『阿頼耶』はそもそも魔神が使っていたんだから同じになる物なんじゃないの?
「……まあ別に俺に懐いてくれてるみたいだし、魔神とデザイン被ってても良いんじゃない?『阿頼耶』戻れ」
レインの言葉に従うように剣は形を変えて漆黒のスライムみたいなのに戻って肩に登ってきた。
そしてまたレインの頬にスリスリと身体を擦り付けてくる。少し冷んやりしていて気持ちいいな。
「なんか……可愛く見えてきた」
「呑気なもんだね。……まあいいや。じゃあ私と手合わせしようか」
アルティは近くにあった剣を一本拾い上げて構える。
「アルティは得意な武器とかあるのか?」
「ん?私は何でも使えるよ。得意な武器がないっていうか不得意な武器を探す方が難しいレベルで何でも扱えるよ。
だから私と立ち合えるようになったら相手がどんな武器を使ったとしても勝てると思う。それじゃあ……構えて!」
アルティがレインに剣を向ける。
「武器はどうしようか」
とりあえずさっきと同じ剣でいいかな。
「『阿頼耶』……頼むぞ?」
レインの言葉に反応するように『阿頼耶』はさっきと同じ形の剣になった。鍛えたおかげが重さもそこまで感じない。
剣とかまともに構えた事もないが、やるだけやってみよう。
「行くよー!」
「おう!」
ドンッ!――
「え?!」
アルティが地面を蹴った音が聞こえたと思ったらすぐにレインの顔の目の前まで刀剣が迫っていた。全く反応出来……
ガキンッ!!
しかし『阿頼耶』が勝手に反応して防いだ。というか剣の形が変わっている。刃が伸びて異様な形に変化している。とりあえず防ぐ為に無理やり形を変えたみたいだ。
「それってそんな事できるの?!」
「いや俺に聞かれても分からない」
「魔神とやり合った時はそんな機能は付いてなかった。武器が勝手に判断して防げるなら不意打ちも効かないはずなのよ。あの時も勝手に動くとかはしてなくて魔神が言った通りの形になってただけ。レインさっき剣になれって言わなかった……よね?」
「…………言ってない…な。頭の中でさっきと同じ剣って言った……かな」
「じゃあ口に出さずに武器の形を変えられる?」
「………………やってみる」
レインは『阿頼耶』を見ながら頭の中で呟いた。
"槍になってくれ"
すぐにレインの手には槍が握られていた。剣と同じで真っ黒で先端には良い感じの装飾もされている。
これも魔神と同じ見た目なら魔神は良いセンスしていると思う。
「本当に……口に出さずに形を変えた。それが『阿頼耶』の本当の能力?魔神すら使いこなせていなかったって事?……これはすごい事だよ!」
「凄いかもしれないけど俺自身は弱いからなぁ。もっと使いこなせるようにならないとな」
"もう大丈夫だよ"
レインは槍になっている『阿頼耶』に頭の中で話しかける。すぐに元の形に戻って肩に乗る。そこがお気に入りなのかな?
レインは指先でツンツンと触れる。『阿頼耶』はその指にも擦り寄って来る。
もう愛着しか湧かない。
「お前……本当に可愛い奴だな」
「とりあえず!!やるよ!武器の扱いも身体を鍛えるのと並行していかないといけないからね!」
「了解!よろしく!」
◇◇◇
「よし!そこまで!」
「ふぅ……今日も1回も当てられなかったな。『阿頼耶』も頑張ってくれてるんだけど」
「まあまあ良いんじゃないの?……ああ!あとね!」
「どうした?」
アルティは何故かテンションが高い。レイン自身は今日も一撃も与えられなかった事に少し落ち込んでいる。
『阿頼耶』もレインの肩でヘチャってなってる。いつもの艶がない。
「今日でレインがここに来てから多分1年くらいが経ったよ」
「え?!1年?!もうそんなに経ってるのか……」
途中から数えるのやめたからな。
「それにトレーニングも全部で300万回くらいしてるんじゃない?私も飽きたから数えてないけどね。速度も持久力もかなり凄いし、実際の身体つきも凄いよ?気付いてる?」
「うーん……あまり実感ないなぁ」
「変わってるよー。私も結構危ない時もあったしね。もう私の番犬じゃ勝てないだろし」
「ああーあの黒犬?あれには負けないよ」
「あとは武器の扱いと『支配』のスキルを良い感じにしないといけないね。あとは『身体能力強化』と『次元収納』も解放していかないと。やる事はまだまだあるね!」
「そうだな」
エリス……俺は確実に成長している。
そっちでは時間はそんなに経ってないはずだけど。もう少しの辛抱だ。必ず助けてやるからな。
◇◇◇
「良いよ!レイン!すごく良いよ!」
あれからかなりの日数が経ったと……思う。日付の間隔が分からないから正確な日数は知らない。
今は変わらず『阿頼耶』を使ってアルティと武器を使って特訓をしている。
少し前までは剣だけだったが今は槍も使うし斧も使う。武器の投擲や『支配』を使って地面から岩の槍を出現させたりもする。本当にスキルによるものなのか?
その全てを『阿頼耶』を使って防いで反撃もする。『阿頼耶』は自在に形を変えられる。
持ち手は剣だが、無理やり防ぐ為に先端を分裂させたり、地面に突き刺して地中を通して攻撃したり出来る。
あまり使えないが分裂させて盾と剣にしたり、剣を持ちながら足元から地中を通しての斬撃も出来る。ただ変化できる大きさに限りがあるから無尽蔵に分裂……という事は流石に出来ない。
「なかなか良くなったね」
「まあ……割と長いこといるからなぁ。というかどれくらい居るの?覚えてる?」
「えーと……この前で3年目経ったかな?」
3年経ってた。
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