第8話







◇◇◇



 アルティと30日ぶりに外に出た。外と言っても天井の高い洞窟の中だけど。



「……レインはどんな武器が好み?」



 アルティは振り返りパチンと指を鳴らした。するとアルティの周囲に黒い渦が複数出てきた。

 


 そこから剣、槍、斧、短剣、盾にハンマー、メイス……さらに見た事ない形の刀剣が大量に地面に突き刺さるように出てきた。



「……すごいな。どこに隠して……いやそんなレベルじゃないのか」



「そうだね。これはスキル『次元収納』だよ。魔力量に応じて沢山持てるよ。レインも魔力が回復すれば解放されると思う。そんな事より武器は何が良い?」



「ごめん……武器は使ったことない。鉄剣なら昔振ったことがあるかな……ってくらい」



「なるほどねぇ……じゃあ順番に行こうか。まずはこの大剣ね」



 アルティは自分と同じ背丈の大剣を持つ。そんな華奢な身体でその巨大な剣を持てるはずがない。



「よっ……と!」


 しかしアルティは片手で持った。しかも余裕があると言わんばかりにブンブンと振り回す。



「なんで持てるんだ?!」



「ん?これもスキルだよ。『身体能力強化』だね」



「それが俺も使えるなら筋トレする必要なかったんじゃ……」



「はぁー……レインは何も分かってないね。身体を作るのは必須だよ。勝手に気付くと思ったけど言っておこうかな。『身体能力強化』もレインの魔力が回復したら使えるようになるよ。

 でも『身体能力強化』は1を100にするものであって0を1にするものじゃない。そして私が使う『身体能力強化』は人間が使うレベルのものじゃない。

 今のレインが回復した魔力を使ってスキルを使ったら強化率に耐えられずに身体が壊れて死んじゃうよ?」



「…………まじ?」



「マジマジ。……というかレインの今の身体能力だとまだ0の範疇だね。もっと鍛えてもらわないとそもそも使えないよ。もっと頑張らないとね」



「……了解」



 あの無駄としか思えない筋トレにもちゃんと意味があったんだな。回数がおかしかったのは教えた事がなくて人間の限界を知らなかっただけか。



「……話が逸れたね。武器はどうする?これから拳1つでやっていく……っていうのも良いとは思うけど……相手が常に燃えてるタイプとかだとしんどいよね」



「なるほど」


 そんな奴には会いたくないな。そこからはアルティの武器の指導が始まった。

 もちろん武器を扱う才能なんてないからこれが良いっていうのもなかった。


 まず大剣は持てない。斧もメイスも同じだ。槍は相手のとの間合いが測れないから攻撃も防御も出来ない。盾は……よく分からん。双剣は手数が多すぎて混乱した。


 普通に剣……片手剣でいいかなと思う。変に知識が必要な武器は戦闘の時に慌てそうだ。


「俺は……片手剣とかでいい……それは?」


 アルティが出した武器の中に真っ黒でそこそこ大きな瓶があった。瓶が黒いのか中身が黒いのか分からない。


 でも……この黒いのから呼ばれているような気がする。



「…………それはダメよ」



 アルティの雰囲気が変わった。


「なんで?」


「それは魔神が使っていた数百にもなる武器の1つで、名前は『阿頼耶あらや』、想像した形に姿を変える万物の武器。でもそれは使用者を選ぶ。選ばれてもいないのに使おうとすると取り込まれて終わり。

 私の『支配』が及ばない強さと魔力を保有する最強クラスの武器だよ。だからレインにも使えない」



「…………そうなのかなぁ」



 そんなに危険な物とはどうしても思えない。



「何が言いたいの?」



「選ぶ、選ばれてないってどうやったら分かるんだ?」



「『阿頼耶』は気配を消すの。自分がここにあると気付かれないように。選ばれたのなら自分の存在を大きく見せるとか言われている。

 私は選ばれていないのよ。今もレインが言わなければ………ちょっと待って?あなた……どうやって気付いたの?」



 「……いやなんか…その瓶に呼ばれている気がするんだ。見た目は……なんか気持ち悪いけどね」



「そんな……まさか…そんな事あるの?…でも気付いたって事は……」



「……アルティ?」



「分かった。その瓶を開けてみて。取り込まれそうなら私が全力で助けるから」

 


「分かった」


 レインは床に転がっている黒い瓶を手に取った。でも嫌な感じは全くしない。普通はこんな物気付いても無視するはずなのに……。



 レインは瓶にされている栓に手をかけた。そしてゆっくり引き抜いた。ポンッ――という高い音が響く。



 その瞬間瓶から黒い煙が一気に放出された。その後に続くように黒い水の塊が出てきた。それは瓶を飛び出しレインの腕を伝って顔の方に来た。



「うわっ!」


「レイン!!」


 しかし取り込まれる事はなかった。この黒い水の球体はレインの肩にちょこんと乗っている。そして俺の頬にスリスリと擦り寄っている。



「…………なんかすごい懐かれてるような…気がする」



「……すごいね。それが『阿頼耶』だよ。自分の思った通りの姿になる武器だよ。試しになんかやってみたら?私は使えないから教えようもないんだよ」



「…………うーん、じゃあ片手剣になれ!」



 レインの肩に乗ってスリスリしていた黒い球体は言葉に反応して飛び出した。

 そしてすぐに形を変えてレインの右手に収まるように剣になった。

 持つ所も刀剣も全てが真っ黒だ。なんかデザインもゴツい。所々がギザギザしていて返しも付いている。刃には紅い線も走っていてカッコいい感じだ。


「………………そ、それ」


 その剣を見たアルティの様子がおかしい。



「どうした?」



「それ……魔神の剣だよ。レイン……アンタ……何者?」



「それは俺が知りたいんだけど?」


 

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