第2話









 

 その男について行き、西門を出ると俺と話していた男とは別の集団がいた。


 全員で6人のパーティーだったみたいだ。全員がDランクの覚醒者だ。腕に付けた腕章の色でランクが分かる。職業クラス戦士ファイター射手アーチャーだな。装備だけでも予想はできる。



 だけど――ランクにしては装備が豪華だな……。でも放っている魔力の色はかなり薄い。覚醒者は魔力のコントロールをモンスター討伐を通じて学習するらしい。


 Dランク覚醒者なのに魔力の色が薄いってことは意図的に抑え込んでいるんだ。


 覚醒者なんて特に力を見せびらかしてこそなのに……どうしてだ?



 色々腑に落ちない事はあるけど金のためだ。詮索する事もしないでついて行った。レインは持つように言われた荷物を背中に背負って歩く。

 


 中身は簡素な食料や武器か?とても軽い。これから行く場所で何か採取するのか?それとも討伐するモンスターの素材か?


 道中会話もほぼなく歩くだけの時間が続いた。レインと会話しないのはよくあることだけど、誰も口を開かないのはおかしい。しかし……金のためだ。そう何度も自分に言い聞かせた。


 

◇◇◇



「……ここだ」


その目的地は案外近くにあった。


 2時間ほど歩いただろうか?途中から森の中に入った。この森はレインが住む街からも近いため、組合が覚醒者に依頼を出してモンスターを狩り尽くした場所だ。


 目の前には切り立った崖があり頂上を見ようとすると首が痛くなる。

 


 それくらいの高さだ。何故こんな所に?レインの中で既に芽生えていた不安が徐々に大きくなっていく感じがする。



「ここで……何を?」


 レインは基本的に自分から質問はしないようにしていた。臨時の荷物持ちである以上、口出しする事は御法度だからだ。


 そんな規則はないがこれまでの経験で学んだ。余計な事は言わないのが鉄則だ。ただ黙って言われて事を実行するのみだ。



 しかし込み上げてくる不安を抑え込む為、口を開いてしまった。



「ここにダンジョンがある。今朝方、見つけたんだ」



「……ダンジョン?」



『ダンジョン』


 モンスターが独自の生態系を築いた場所。モンスターから放たれる魔力によって空間や時空が歪み入り口と内部の広さや時間の感覚が狂ってしまう場所でもある。覚醒者やモンスターのランクと同様にFランク~Sランクまである。


 Sランク覚醒者はレインが住む国『イグニス』でも現役は8人しかいないはずだ。攻略不可能とされたSランクダンジョン『魔王城』はSランク覚醒者が最低15人必要なんて言われてる。死者を出さずにクリアしたいなら30〜40人は必要らしい。

 

 Fランクの中でも最底辺のレインとは縁のない世界だ。


 『ダンジョン』はいつでもどこでも発生する可能性があって覚醒者組合は常に担当区域に目を光らせている。動物を使役して監視したり、警備隊を雇い巡回させるなどだ。


そんなダンジョンがここにあるのか?


「ダンジョンってさ?最初に見つけた奴は組合へ報告する義務があるだろ?」


「え、ええ……そうですね」


「報告してダンジョンから漏れてくる魔力量を組合が測定してランクを決める。そのランクに応じて最初に知らせた人に報酬が組合から出るよな?最高で100万だったか?」



「そ、そうですね。覚醒者認定を受ければ最初に教えられる事です」


「でもさぁ……報告しちまうとダンジョンの攻略権は組合に移っちまう。そこから『ギルド』が攻略権を組合から落札して……みたいな流れだけどさ」



「………………」



「そんなの金持ってる有名ギルドしか攻略できないだろ?俺らみたいな個人でパーティー組んでる奴らにはなかなかお目にかかれないんだよ。その落札したギルドからさらに下請けとして仕事を貰うとかしないと…な」



「な、何が……言いたいんですか?」



「まあ聞けよ?……俺らはDランクだ。ダンジョンなんてのはさ?…ほぼ毎日出現してるがその平均はDランクってされてるよな?」



「そ、そうなんです……かね?」



 レイン自身はモンスターを倒す力はないからその辺の事はよく分からない。モンスターと直接戦闘にならないように行動していたくらいだ。



「だったら俺たちが先にクリアしちまえばいいんじゃないか?そうすれば上の連中から素材も報酬も横取りされずに済むだろ?Dランクのダンジョンなら俺たちで余裕にクリアできるだろうしな」



「そ、その後をついて行けば?」



「ああーそうだな。とりあえず入口を開けるか。……おい」



「りょーかい!」



 パーティーの1人が崖に手を当てる。するといきなり洞窟が出現した。洞窟といっても入り口からかなり急勾配な坂になっている。一回転けたら下まで転がり落ちるだろう。


 それにダンジョンから漏れる魔力を抑え込む結界を張っていたようだ。結界のスキル持ちがいたのか。

 


 モンスターは冒険者が放つ魔力を感知して襲いかかってくる事がある。

 それを抑え込みモンスターの感知を掻い潜る珍しいスキル〈結界〉をダンジョンを隠すために使ったのか。


 しかしそんな事よりもレインが驚愕したのは、そのダンジョンから溢れ出た魔力だ。

 

 魔力量はそこまで多くない。でも色がおかしい。漆黒だ。夜よりも深いと感じるほど真っ黒だ。


 今まで荷物持ちで経験したどのモンスターやダンジョンとも違う異質な魔力。



「……ここは…だめです」



「あん?」



「この色は……おかしい。行くにしてももっと人員を増やさないと」



「ああ…心配すんな。俺のパーティーメンバーはもう少しいるんだよ。荷物持ちを雇うために分散しててな」



「じゃ、じゃあ……ここで待つんですか?」



「そうだな……待つとしようか。多分2時間もしたらここに来るだろうよ。……じゃあお前が先に行って見ててくれよ!!」

 


ドガッ!!



「ぐぁッ!」


 リーダーの男はレインを蹴り飛ばして洞窟内へ吹っ飛ばした。当然反応も出来ず、受け身も取れないレインはまともにくらってしまう。そしてそのままダンジョン内を転がり落ちて行った。


 

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