第3話
レインをダンジョン内に蹴り飛ばした後、数名の覚醒者がその場に残る。
「はーい!これで記念すべき100人目の悲しき犠牲者の出来上がり~!」
結界使いの男がふざけたように話し、洞窟の入り口に再び結界を張った。周囲からもクスクスと笑いが起きる。
「たった20万くらいで疑わずについてくるなんて馬鹿な奴もいましたね」
「そうだな!普通はもう少し疑問に思って聞くもんだが……。余程金に困ってたんだろうよ。今回も楽にいけそうだな」
「そうっすね。ダンジョンを見つけて餌を金で釣ってモンスターのレベルを調べる。クリアできそうなら俺たちで行く。無理そうなら組合に報告して金を貰う……いい作戦っすねぇ。証拠も残らないですからね」
「褒めてんのか?」
「もちろんっすよ!」
「それならいいがな!とりあえず他の奴らが集合するのを待つぞー?それまで誰も近付いて来ないか見張ってろ。そんでもって2時間経ったら俺らも行くぞー」
「「りょーかい!」」
◇◇◇
ガンッ!
「……うぐッ!」
ゴンッ!ガンッ!
「ぐあッ!」
レインは全身を打ちつけながら転がり落ちる。何かに掴まるとか受け身を取るとかそんな技術は当然なかった。ただこの状態が少しでも早く終わることを願うだけだった。
ドシャッ!
どれほど転がり落ちただろうか。
「………………ッ」
咄嗟に頭は何とか守った。でも全身が強烈に痛い。明かりのない洞窟内部のせいで視界も確保できていない。
「……やっぱり…騙されてたか」
20万。レインが命をかけてモンスターを討伐しても届かない金額に目が眩んだ。込み上げてくる不安もあった。断る事も出来ただろう。この結末を回避する事だって出来た。
"なのに……俺が……"
「……あいつら…クソったれ」
レインは痛みに耐えて起き上がる。ここで倒れてたって死ぬだけだ。少しでも可能性がある方へ行かないといけない。
幸いにも骨は折れていない……か?
「……戻ってもアイツらに殺されるだけ…だよな」
アイツらの手口はモンスターのランクを確認してから攻略に移るんだろう。ダンジョン内のモンスターは覚醒者が入った時点で魔力を感知して活動を開始する。活動すれば魔力が発生して組合の測定機器を使わなくても大体のランクが分かる。
"モンスターに俺を襲わせてランクを確認するつもりだろう"
「俺を……舐めるなよ。簡単に死んでたまるか。エリスが待ってんだ」
普通の覚醒者と異なる点はレインが魔力の色まで見える事だ。つまりはどこから何が来るのかの感知能力はスキルのない覚醒者よりはある。まあ戦えるわけじゃないけど……。
「この色……なんか…やっぱりおかしいな」
返事が来るわけでもないのに独り言を呟く。
普通は――といっても低ランクのダンジョンしか行ったことない――どのダンジョンも異なる複数の色の魔力が流れている。しかしここはただ1色のみ。
しばらくその場に止まっている事もあって目も慣れてきた。それが余計にこのダンジョンがいつものダンジョンとどれだけ違うのかを理解させた。
しっかり見てみるとアリの巣のような穴や通路が無数にあるダンジョンだ。これだけで攻略難易度は跳ね上がる。そしてここはダンジョンの中だ。既に外とは時間の流れも空間も異なるだろう。
戻っても殺されるし、ここに留まっていてもアイツらのパーティーが集結したらどの道殺される。
だったら先に進むしかない。普通の攻略パーティーは一つずつしらみ潰しにして行くんだろうが俺は違う。
強い魔力の流れが色で分かるから迷う事なく進める。誰も信じなかったから普段の荷物持ちでは黙ってた。
「……行くか」
レインは痛みを堪えて歩いた。痛みで顔が歪む。しかし家で待つエリスの為なら我慢できた。不思議と歩く事も出来る。
途中、何度も分かれ道に遭遇したがレインには関係ない。余裕に突破できる。
魔力の色が光となって先まで見えるようになってきた。モンスターが出てこない限りはこのまま進めそうだ。
◇◇◇
「…………長い」
どれだけ歩いただろうか。奥から流れてくる魔力も増えてきている。アイツらが言っていた2時間も経ったような気がする。
痛みもだいぶ引いてきた。アイツらに追いつかれるのを恐れて少しだけ早足になる。
だが、それはすぐに全力疾走へと変わる。
――ガルルルッ!!
後ろから威嚇するような猛獣の唸り声が聞こえた。ここはダンジョンだ。モンスターが出ない訳がない。この入り組んだ迷路のようなダンジョンは魔力が遮られて接近に気付けなかった。
レインは振り返る事なく走り出した。
――ガアァァ!!!
レインの後ろにいるだろうモンスターも追いかけてきている。
「あああああ!!!」
全力を出すための叫び声だ。奥から流れてくる魔力の色は濃くなってきている。もうどっちに転んでも死ぬかもしれない。
でも立ち止まった確実に死ぬ。今までだって同じような事もあった。でもその度に何とか堪えて生きてきた。妹……エリスの為に。あの子の苦しみに比べたら俺の身体の痛みなんて何ともない。
あの子が光を失った時に感じた不安も絶望も……レインの今の状況と比べるべくもない!
「死んでたまるかー!」
レインは持っていた荷物を手に持ってモンスターに投げつけた。荷物の中には武器も入っていたが、どうせまともに扱えない。
――バゴッ!…ギャンッ!
荷物はモンスターに当たったようだ。怯むような声が聞こえた。そのまま走りながら後ろを見た。その時に初めてその姿を捉えた。
唸り声から獣型のモンスターだと思った。なのに実際は……。
「……黒?」
黒い毛並みの狼だが、真っ黒だ。赤い瞳だけがそこに目があると判断させる。真っ黒な狼のような形の闇が追いかけてくる。
「な、何だアイツ!み、見たことない!!」
生き残る為に関わりがありそうなランクの低いモンスターの知識は頭に詰め込んだつもりだった。
なのに闇で出来たモンスター?そんなのは知らないし、聞いた事もない。もう振り返らずに走るしかなかった。あんな気色の悪い魔力と見た目をした奴に勝てる冒険者なんているのか?
後ろから近付く気配が大きくなる。今ので怒らせてしまったんだろう。
「……もう少し」
漆黒の魔力が溢れている空間が見えてきた。白い長方形の光が見えた。それがこの洞窟の出口を示しているのは明らかだった。
しかし出口の一歩手前で背中に激痛が走る。獣型のモンスターの爪が俺の背中を捕らえた。
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