第5話 俺と陽一


「ところで、高校って大会とかいつあるんですか?」


 煌星こうせいは手を挙げて顧問の田中たなか先生に聞いた。先生は首を傾げながら、さも当たり前かのように言った。


「え、13日の土曜にあったよ」


 俺たち1年生はみんなしかめっ面をして疑問の声を漏らした。それを見て先輩達は再びクスクスと笑い出し、田中たなか先生も一緒になってふざけるように顔をしかめる。その後、マネージャーの佑衣ゆい先輩が笑いながら俺たち1年生に言った。


「ごめんごめん、言ってなかったね。最初の春の大会は13日の土曜日だったんだよ。」


 佑衣ゆい先輩は手さげ袋からその時のスコア表を見せてもらった。佑衣ゆい先輩の字はとても綺麗で濃く見やすく、籠高のスコアもまぁまぁ高かった。


 スコア表を見ると、相手の高校は『立花学苑たちばながくえん』という高校で、籠高が60対47で勝ち進んでいた。


「「おぉー!」」


 他のやかましいヤツらよりは口数の少ない悠馬ゆうま将暉まさきでも口を開いて驚いていた。


「あ、今日中にお前らも選手登録すれば次の20日の土曜の試合ワンチャン出れるよ」


 田中たなか先生がまたまた驚くべき事を言った。入部どころか入学して間もない俺たちがワンチャン出れるかもしれない春の大会、そんなワクワクすることに遠慮なんてしなかった。


 するとかえでは手を挙げ、どうやって選手登録をするのかと田中たなか先輩へと質問をした。


「ゼビオのカード持ってるか? それ使ってサクッと情報を籠高バスケ部に移す」


 ゼビオはスポーツ用品を多く取り扱っている店だ。俺は中学の時に入っていたバスケ部の顧問からそのカードを受け取っており、それはゼビオで使えるポイントカードと同時に、『JBA』という組織の競技者用カードとなっていた。


「ほれ、早速1年ズはパソコン室行くぞ〜。 佑衣ゆい新太あらたはサポートしてやれ」


 田中たなか先生に連れられ、俺たち1年生とキャプテン、マネージャーはパソコン室へ直行した。



 ――パソコン室――



「先生〜」


「あらた先輩〜」


 タラタラとパソコンいじりが始まった。ほかの人たちが手こずる中選手登録がサクッと終わった俺は、暇を持て余してケータイをいじっていた。

 

 そんな暇な俺の他にもう1人、スムーズに選手登録を終えられたやつがいた。


「俺ら出れっかな?」


 それは陽一よういちだった。ポケーっとしながらも、俺の他に登録できた人がいて嬉しかった。


 

 刻々と時間が過ぎていくが、結局今日中に選手登録が完了できたのは俺と陽一だけで、他の1年生は上手いこと登録が出来なかった。


「んじゃ時間も終わりそうだし、とりあえず土曜に試合行けんのはあきら陽一よういちだけだな」


 陽一よういちはにこにこしながら拳を出してきた。俺も彼に答えるよう自分の拳を彼に打付ける。


「他の奴には申し訳ないけど、あきら陽一よういちは2、3年と同じ練習をしてもらう」


 田中たなか先生は1年生全員に言う。やる気があった煌星こうせいかえで大地だいちは俺たち2人を小突きながら応援してくれた。もちろん他の奴らも頑張れと暖かい言葉をくれた。


 マネージャーとして入った将暉まさきは、早速佑衣ゆい先輩にスコアの書き方や試合中のサポートなどを教わっていた。


「んじゃ、1年はここで解散。明日からの練習は、2人は特に死ぬ気でついてこいよ」


 田中たなか先生はパソコン室を後にした。その日の部活はこれで終わり、みんなで駅まで帰ろうと下駄箱へ向かった。



 ――下駄箱――


「みんな揃ったし、LINE交換して1年のグループ作ろうぜ!」


 とくに明るい陽一よういちが全員とLINEの交換をし、彼がここにいる8人をグループへ招待した。そこには『バスケ部男子』と書かれており、俺含め9人の参加が完了した。


 LINEを交換しグループを作る。この後の流れは陽気な陽一よういちを考えればすぐ分かった。彼はおそらく、写真を撮り出す。


「せっかくだし写真も撮ろうぜ!」


 予想通りだった。


 彼は実に面白いガリレオのポーズを真似てケータイのインカメを起動する。俺を含めた陽一よういち以外の8人は彼を中心として集まり、笑いながら彼と同じポーズを撮って写真に写った。


「バカみたいだな笑」


「バカ記念だな」


 なぎ潮田うしおだが辛辣な事を言うも、少しぎこちない1年生の空気を彼が和ませてくれる。


 仲間となる8人と仲良くなれた気がして、俺は色々な意味で明日からの練習が楽しみで仕方なかった。

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