第3話 7番から11番号


 体験入部4日目は、俺より先にいつもの2人が体育館前で待機していたが将暉まさきは見当たらず、代わりに新しい人が2人居た。煌星こうせい陽一よういちは既に他の2人と仲良く話していて、俺を見つけた彼らは俺に手を振ってきた。


「お、アキラー! こいつら新顔だ!」


 陽一よういちが手招きをしながら新しい2人を紹介する。

 1人目は身長190センチ近くありそうなガッチリした男で、天然パーマがかかり爽やかな印象があった。


「えと、10組の『田中たなか 悠馬ゆうま』です。中学ではセンターでした」


 悠馬ゆうまはこれから、8番のセンターとして引退までスタメンを担うことになる。今はまだ身長だけで勝負するプレイヤーだが、この籠高バスケ部を引退する頃には、ペイントエリア内で最強の男になる。


 そしてもう1人、悠馬ゆうまと同じ中学でシューティングフォワードをやっていたやつが隣にいた。


「8組の『杉野すぎの なぎ』っす。中学はこのデカいのと同じで、シューティングフォワードしてました」


 なぎはだいたい俺と同じぐらいの身長で、後に9番のシューティングフォワードになる。彼のスリーはポイントシュートはとても精度が良く、ここぞと言う時に試合に出て逆転のキーマンになる事が多かった。


 俺には敬語使わなくてもいいのにな、と思いつつも2人の自己紹介を聞き終え、もはや恒例となっているLINE交換を済ませた。


 4日目はこの5人で練習に混ざった。案の定、悠馬ゆうまなぎは慣れない高校の練習にバテていた。だがやはりバスケ好きなのか、彼ら2人とも楽しそうにバスケをしていた。

 


 ――体験入部最終日――



 4月12日の金曜日になり、体験入部もいよいよ5日目の最終日。俺はこの時、今日はどんな人が来るんだろうとワクワクしていた。

 授業と呼べるか怪しい時間を終え放課後になる。いつものように更衣室でTシャツとバスパンに着替え、体育館のある方へ向かって歩いていると、窓から見える体育館の前に多めの人が見えた。

 そこには5人から7人ほど居そうな人の塊があり、半分男子、半分女子のような感じで集まっていた。


「おーいアキラー」


 廊下の後ろから煌星こうせいの声が聞こえる。振り返るとそこには、煌星こうせいなぎ悠馬ゆうまがいた。俺が体育館を指さし彼らに人だかりを見せると、彼らは少し驚いた様子を見せる。


 見た事ない先輩か、はたまた体験入部の1年生か。1年生だった場合、とても賑やかになり楽しくなりそうだな、と話しながら4人で屋根付きの通用口を通って体育館へ歩いた。



 ――体育館前――



 気になっていた人だかりの正体は、全員体験入部の1年生だった。男子が3人、女子が4人の7人がそこに立っている。多くの人に少し足がすくんだが、俺はそこで勇気を振り絞って彼らに話しかけた。


「1年生だよね? 俺らもバスケ部の体験入部に来たから良かったら一緒にやらない?」


 すると、身長170センチ半ばの醤油顔なイケメン男が返事を返してくれた。そんな彼は、後にリバウンドとルーズボールを絶対に取る7番のパワーフォワードになる『池原いけはら かえで』という男だった。


「ありがとう! 丁度他の人が居ないか探してたんだ。4人もいたんだね」


 かえでに着いてきたであろう取り巻きっぽい女子達が、意外と多いねー、などと話している。彼女らは恐らくバスケ部に入る気は無いだろう。バッチリ施されたメイクとバッシュではなく体育館履きを持っている事を見るに、入ってもプレイヤーではなくマネージャーの方にだろう。


 かえでの隣に居た2人は両方、彼と同じ5組の『潮田うしおだ 昇冴しょうご』と『横山よこやま 大地だいち』。


 眼鏡をかけた身長165センチ程の潮田うしおだは後に、フェイントの得意な10番のポイントガードになる。

 かえでに負けずとも劣らない塩顔イケメンの大地だいちは、ポイントガード、シューティングガード、パワーフォワードと、オールラウンダーに戦い戦略の幅を広げる11番となる。


「久しぶりのバスケだわ〜」

 

「動けっかな」


 かえで潮田うしおだ大地だいちはそれぞれ軽い自己紹介を終える。これで体育館前にいる1年男子は7人になった。あとは陽一よういち将暉まさきが来れば9人となり、とても賑やかになるはずだった。


 しかし、彼らの登場も待たずに俺たち4人と新たな3人、そして若干空気だった女子達は、先輩達と田中たなか先生の到着で体育館へ上がった。



 体験入部最終日にもかかわらず、陽一よういち将暉まさきは最後まで体育館には来なかった。


 

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