第1話 体験入学


 2018年4月5日金曜日、短めに髪を整え、学校指定の黒いパンツとブレザーを身につけ、青と紺のネクタイを締める。

 俺は『神奈川県立籠高等学校』に入学した。1年7組の13番になり、クラスでの席は廊下側2列目の後ろから2番目になった。友達や部活の仲間と仲良くなれるか不安があったものの、自由度が中学よりある高校生活にワクワクもしていた。


 土日を挟み8日月曜日には、体育館で部活動紹介があった。バレー部、バスケ部、バド部、卓球部、と体育館でやる部活が一通り紹介される。1組から10組ある1年生は、ぎゅうぎゅうになりながらそれを見ていた。


 教室へ戻ると、担任の先生が40人いる7組に、8日から12日までの部活動の体験入部用紙を配っていた。紹介されていた部活以外にも、野球部やサッカー部など外部も書いてある。

 俺は迷わずバスケ部に丸を書き、クラス番号名前を記入して速攻担任に渡した。


 ほぼ何もしていない昼間の授業が終わり放課後。高校に上がるタイミングで買い替えたバッシュを引っさげて体育館へ向かった。



 ――体育館前――



「あのー、バスケ部見に来たんですか?」


 髪の毛の左右を刈り上げたツーブロックに、口元にホクロがある175センチ前後の男が話しかけてきた。その男は後に、4番のポイントガードとしてキャプテンになる『秋山あきやま 煌星こうせい』だった。煌星こうせいも片手にはバッシュを下げており、カバンはジョーダンだった。


「そうですけど、そっちも?」


 俺はとりあえず敬語で煌星こうせいに返事をした。彼はニコッと笑い、良かったぁと胸を撫で下ろしていた。なんでも、自分一人だったらどうしようと不安になっていたらしい。


 俺たち2人は勝手に体育館へ上がっていいのか分からなかったため、とりあえず体育館の前でソワソワ待っていた。すると、校舎から体育館に渡る屋根付きの通用口から、またもやバッシュを下げている1年生らしき人が来た。


「バスケ部ってここですか?」


 俺たちを先輩だと勘違いしているのか、頭を下げながら聞いてきた。


「多分そうだと思いますけど、1年生ですよね?」


 俺はその人に聞き返すと、彼はホッとしたかのような顔をして肩に入っていた力を抜いた。そして態度を急に変え、今度は馴れ馴れしく話しかけてきた。


「1年だよ! 2組の『岩谷いわや 陽一よういち』。これから3年間よろしくな!」


 陽一よういちはポケットからケータイを取りだしてLINEを開く。そして俺と煌星こうせいに友達交換するようQRコードを見せてきた。コードをスキャンすると、『よーいち』と書かれた名前と彼の自撮りのアイコンが表示されたアカウントが出てきた。

 ついでに俺は煌星こうせいともLINEを交換した。彼のアカウントは、『秋山煌星』とフルネームで書かれており、アイコンは2匹の猫の写真だった。


「こーせーか! この猫かわいいな」


 煌星こうせいの話によると、アイコンの猫は家で飼っている猫らしい。白と灰色の可愛い猫だ。


「それと……『しょう』? この『上遠野』ってなんて読むんだ?」


 陽一よういちがLINEに表示された俺の名前を見て聞いてきた。あまり聞かない苗字だし、晶だって、『しょう』と読み間違えることもある。だから俺は彼に名前の訂正をした。


「俺は『上遠野かとおの あきら』だよ。よろしく、こーせーとよーいち」


 部活体験初日は、俺とこーせー、よーいちの3人から始まった。俺たちが体育館の前で話していると、バスケ部の先輩達や顧問の田中たなか先生が校舎から歩いてきた。男女共に先輩達は、部活体験に来た俺たちをとても歓迎してくれて、マネージャーをしている女子の先輩も丁寧にするべき事を教えてくれた。


「君達も体育館に挨拶しよう」


 田中先生に言われ、体育館に上がる俺たち3人。すると、体育館を入ってすぐ入口に、男女合わせて27人ほどの先輩達が横一列に並んでいた。そそくさと俺達も列に入ると、男子のキャプテンである『杉下すぎした 新太あらた』先輩が広い体育館に向かって言った。


「気をつけー、礼!」


 よく通る声は体育館に響き、先輩達は一斉に体育館へ礼をする。そして次の瞬間、ビリッと空気が震えた。


「「お願いします!!」」


 全員で一斉に体育館への挨拶をした。俺はこの時、この先輩達がとてもかっこよく見えた。

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