Meteor Crimson

mochi

プロローグ 引退

 俺は今、この瞬間、3年間続けてきたバスケ部を引退する。一緒に高め合ってきたヤツらと最後にいい試合が出来た。俺はとても満足している。



 ――引退試合、第4ピリオド、ラスト10秒――



 俺たち『県立籠高等学校』は今、45対47の接戦で引退試合をしていた。ラスト10秒で2点負けている。この接戦をどう切り抜けるかで、俺たちの引退がかかっていた。


 フロントコートで5対5の総当り中、俺はスリーポイントライン45度の位置に居た。俺のポジションはミドルやスリーポイントを狙うシューティングフォワードだ。

 

 スリーポイントラインのトップでボールをコントロールし、チームの司令塔となるポイントガードには、4番の『秋山あきやま 煌星こうせい』が居る。


「こーせー! こっちだ!」


 マンツーマンで付いてくるディフェンスの裏を描き、スリーポイントのコーナーへ走るのは、5番のシューティングガード『松倉まつくら 将暉まさき』だ。


 煌星こうせい将暉まさきへと早めのチェストパスを出し、すぐさま俺のディフェンスの方へと走ってきた。その時、俺は彼のしたい事がすぐ伝わった。だからゴールの方へ走ると見せかけ、すぐさまスクリーンアウトの姿勢で待機している煌星こうせいの方へディフェンスをぶつけ、トップへと走り込んだ。


「まさき、俺に渡せ!」


 それを見切っていたのか、将暉まさきはノールックでフックパスを渡してきた。俺はそのボールを手の内へと収め、スリーポイントラインを踏まずに全力で飛ぶ。


 残り5秒、これなら行けると確信を持ち、俺はスリーポイントシュートを放った。


 シュパッ―――


 綺麗に後ろへと回転の掛かったボールが軌跡となり、バックボードに当たらずリングへと吸い込まれた。


 審判が両手を上げながら指を3本立ててTOの方へ見せている。


「しゃあああ!!」


 会場が湧き、俺はシュートの高揚と快楽に包まれた。しかしまだ4秒残っており、相手チームはエンドラインから時間が止まった状態でリスタートになる。


「まだ気ぃ緩めんな!」


 将暉まさきが叫びながらディフェンスに戻る。俺やみんなは最後まで相手にマンツーマンでディフェンスに付き、エンドラインからのパスを妨害し続けた。


 しかし、俺が付いていた相手のオフェンスが俺の裏に走り込みフロントコートへ走っていく。


「やべぇ!」


 俺がそう叫んだ時にはもう遅く、走っていた相手へとロングパスが渡された。

 相手がパスを受け取った瞬間にタイマーがスタートし、残り3秒になる。


 相手のフロントコートには既にもう1枚オフェンスが居た。パスコースを妨害する位置に煌星こうせいが立っていたが、状況は2対1の危機的状況。


 残り1.5秒。相手はハイポストまで辿り着き、足を曲げ、ジャンプシュートの体勢に入ろうとした。煌星こうせいはマークしていたオフェンスから離れ、シュートチェックに行こうとボールマンへ近づいた。

 だが煌星こうせいの予想は外れ、ハイポストに居るオフェンスはゴール下で待機していたもう1人のオフェンスへとボールをパスした。


 ピー!――


 相手はゴール下でブザービートを決め、俺たちの引退は確定した。



 ――試合後のミーティング――



「この8人は今日で引退だけど、最後に良い試合を見せてくれてありがとな」


 部活の顧問である田中たなか先生が健闘を称えてくれた。普段は厳しい練習で鬼のように怖い先生だが、今回は素直に褒めてくれた。引退する俺たち8人は気持ちが込みあがり、すーっと涙が落ちた。


 思えば、入部当初から馬鹿みたいにキツい練習や田中先生の怒声しか聞いていなかった。

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