⑩
「じゃあ、それが私の用意した物だとしようか。なんで、私がチョコを渡す為にそんな手の込んだ事をしたのかな?」
そう、レオがただチョコを渡す為にこんな手の込んだ事をしたのか、当然ただ私を揶揄うためだけにこんな事をした………わけではないはず。
「それもこのメモに書かれているよ。この『月のカーテン』がその答え」
「どうして、『月のカーテン』が答えるになるの? それは、出会いの意味じゃなかった?」
「それ以外の意味も込められていると私は思っている。そう思う理由は二つ。一つは、これがこれだけが図書室になくて、部室にあったという事。それは、この本だけが、他の二冊とは違って特別な意味があるという事。そして、二つ目……レオ覚えてる? この本を読んだ時に私に言ったこと」
「私が言った事?」
レオは首を傾げる。絶対に覚えているでしょうが。でも、私はさっきまで忘れていたけれども。
「レオはあの本を主人公が成長する過程を描いていた物語みたいに言っていた」
「そうだね」
「でも、レオは私の感想を聞いて、その後他の考えを思いついたのか、私に言ってくれたよね」
そう、レオは私の感想を聞いて「面白い」って言った後、何かを思いついたのか、新しい考えを私に聞かせてくれた。
「私は、カーテン越しの相手は主人公が見ていた子どもの一人で、寂しそうにしていた主人公の事を想っての行動だと友達になりたい、友情のようなものだと言ったけど。レオは、その考えを聞いてこう言った。もしかしたら、これは恋の話かもって」
レオの新しく浮かんだ考えは、恋の話ではないかと言った。
どういう事なのかと、レオに訊いた。
レオは、私の考えを聞いて、カーテン越しに来たのが外にいた子どもの一人という事は同じだが、その子が主人公に対して抱いていたのは、友情ではなく恋心だったのではないかと語った。
カーテン越しだったのも、昼間だとカーテンは閉められておらず面と向かって話すことになってしまう。でも、その勇気はなく、どうしたら話す事が出来るのかと考えたところ、夜ならばカーテンが閉められていて、カーテン越しに会話をすることが出来ると考えたからではないかと
ほとんどが私と考えが似ていたが、私は友情を、レオは恋心という、カーテン越しの人物が主人公に対して抱いていた感情に違いがあった
私は箱の中に入っていたメモはこの恋の話の意味があるのではと思った。秋に、哲学の本が告白の意味がったように。
「このメモに書かれている『月のカーテン』のもう一つの意味は、差出人が送る相手への好意を示すもの」
言葉にすると、なんだか恥ずかしいが、私が導きだした答えはこれだ。その恥ずかしさをかき消すかのように、私は続ける。
「それと、どうしてこの場所が判ったかというと、箱の包装紙がピンクと白のボーダー柄だったのと、チョコがピンクにコーティングされていた。これらは、桜を指しているんだよね。春と同じ状況で桜と言ったら、一つしかないよね」
そう、それが去年の春に出会い、今は美術準備室にあるあの絵、『約束』のモデルになった桜だ。
「そして、その桜の場所にいる人物、つまりレオが、ここまで手の込んだ事をしたのは……」
私は一度、ゴクリと喉を鳴らすと、覚悟を決めて、
「この場所で私に告白するつもりだから、これが私の答えだよ」
私は言い切った。どうだとレオを見る。レオは拍手をしていた。しかし、手袋をしている為音のない拍手であるが。
「流石だね、しずく。伊達に私と一緒に部活動してきただけはある、成長を感じられて私は嬉しいよ」
レオは微笑む。そして、そのまま言葉を発する、白い息と共に。
「正直な話をすると、もしかしたらしずくは、ここにこないんじゃないかなって、思
ってた」
そう言って、レオは桜を見上げる。
「どれも、確信的なものなんて何一つない、曖昧なもので構築されたものだったわけだし。もし、そのチョコの意味が判ったとしても、ここに来ない選択をする事も出来たしね」
「私が判った上で来ないとレオは思っていたの?」
「しずく、私はしずくが思っている以上に弱い人間でもあるんだよ。自分自身に自信がなに時だってある。だから、悲観的な考えだって浮かんじゃう」
そう言った時のレオは、いつものどこか達観していて、頼りになるレオではなく。等身大の女の子に見えてしまった。私が知らないレオが目の前にいた。
「しずく、人が何かを伝える時は必ず、大なり小なり変化がある。その変化かが、良いものであることとは決して限らない。その変化を望まない人だっている。だから、仮にレしずくがここに来なくても、私はその結果を受け入れるつもりではいたよ」
でも、私は今ここにいる。
「じゃあ、聞かせてもらってもいいかな?」
レオは私に、最後の選択の答えを訊く。
「ち、ちょっと、待ってね。一つだけ私は訊きたいんだけど……」
「なに?」
「そ、そのどうして、私なのかなって……」
私は、ここに来る決心をしてから。ずっとこれだけは答えが判らなかった。どうして。私なんだろうって。
レオは、私から見れば、凄い人物だ、高嶺の花と言ってもいい。さっき、レオは弱い人間だと言った。でも、それでも、私の大半を占めているレオは、いつも私の先を歩き、私を引っ張ってくれる、そんな頼れる親友なんだ。
だからこそ、判らない。どうして、私なんだろうって。いつの間にか、私の視線はレオから、自分の足元へと落ちていた。
「しずくは、いつも私を信じてくれる。それが、私にとってどれだけ嬉しいか。そし
て、選択の答えを私に見せてくれる。特別で、私にはしずくが必要なんだよ」
その言葉は私の心に広がる。その時、なにやら、首筋に冷たいものが触れる。反射的に私は手で首を触るが、少量の水滴が付いていた。雨でも降ってきた?
「しずく、見て」
レオの言葉でレオの方を見ると、視界に何かが舞っているのが見えた。これって……。
「降ってきたね」
そういえば、雪が降るかもって言っていたっけ。見上げると、パラパラと降っていて、それが桜の木の枝を重なってまるで、
「桜の花弁が舞っているみたいだね」
私が思った事をレオも思っていたみたいだ。なんて幻想的な光景だろう。
「それで、しずくの答えは?」
雪に気を捉えれていた私にレオは話の続きを促す。ここまで。レオは心の内を晒しているといのに、私が、親友の私がこれでいいわけがない。
それに、もう覚悟は決めてきたはずだろ、兎月しずく。
私は、言葉を口にする。白い息とともに。
レオは私の答えを聞く。そして、
「流石は、私のしずく」
雪の花弁が舞う中でレオは笑う。その姿を見て、私は心を大して言いたい。
私の親友、本当に可愛い過ぎる!
きっとこの先も私はこの可愛い親友と一緒に居るのだろう。冬が終わり、またこの桜が綺麗な花を咲かせる春がまた来る。季節が巡るように私とレオの、不思議探求部の活動もまた続いていくんだ。
レオが問いかけ、私が選択する。そうして、私たちの世界は進んでいく。
不思議探求部の活動 雲川空 @sora373
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