⑨
私は今、ある場所に向かって歩いている。さっきまで屋内に居たから、暖かかったが、外はやはり寒い。今日は、本当に雪が降るのではないかと、私は空を見上げる。空は、曇天で中途半端な天気だ。あの絵を見て、間違いはないと思っている。だが、心の片隅にもしかしたら、という考えも否定できない。
いや、ここまで来たら後は自分の考えを信じよう。もう少しで目的地に着く。そこで、私の答えが合っているのかが判る。私は、冷えてきた両手にはぁーと温かい息を吹きかけると鞄から箱を取り出す。私の考えでは、目的地にこのチョコを私に送ってくれた人がいるはず。
私の目的地、『約束』のモデルとなった桜の木に。春にレオと一緒に部活動で一度だけ行った場所。そして、桜の木に着いた私の目の前にいた。
私の親友、
今日は休みのレオが私の前にいる。ここだと判ったと同時にこのチョコの差出人がレオだという事も判った。レオは私に気付いた。
「遅かったね、しずく」
「もしかして、ずっと待っていたの?」
レオの顔が薄っすらと赤いから、この寒い中待っていたのだろうか。だとしたら、風邪とかひいて体調を崩してしまったら、
「十分ぐらい前かな。それまでは、暖房が効いている喫茶店でパフェとコーヒーで優雅に過ごしていたよ」
「学校休んで何してるの⁉」
私の心配を返して! なんだったら私も行きたかったよ!
「今度一緒に行こうね」
「うん!」
やった、楽しみが一つ増えた………じゃなくて! 私は鞄から箱を取り出して、レオに見せる。
「これ、レオでしょ」
私は何も隠すことなく、直球ストレートで勝負する。レオ相手に変に隠し立てしたところで意味がない。
「どうして、そう思ったのか訊いても?」
ならば、聞いていただこう。
「今朝、私の下駄箱にこの箱が入っていたの。今は裸だけど綺麗にピンクと白のボーダー柄の包装紙に包装されていた。箱の中身は、ピンクにコーティングされた手作りのチョコレートとメッセージカードのようなメモが入っていたの。そのメモには、メッセージなんかは何も書かれていなかった。そこには、本のタイトルと作者だけが、そして、差出人と思わしき名前だけが書かれていたの」
「その差出人の名前が私?」
「ううん。名前は、西井明日」
「なら、その人が差出人じゃないの?」
「でも、そんな名前の人は雲鷹高校の生徒にはいなかった。これは、鳩峰先生が調べてくれたから間違いない。だとすると、この名前は偽名って事になるよね」
「……」
「この状況ってさ、私にはすごく覚えがあるんだよね。だってこれは、全部去年私たちが部活動で経験した事なんだから」
そう、今日起きたすべての事が、去年実際私たちが体験したことだ。
春に私の下駄箱に差出人不明の封筒が入っていた。夏には、偽名で文通をしている手紙を見つけた。秋は、私がメモを拾い、その内容は本のタイトルと著者名が書かれていた。
そうなのだ、今日の状況すべてがこれらに似ている。いや、きっと似せたのだ。そして、これらすべてを似せられる人物は私の知る限り一人だけだ。私と一緒にこの経験をした人物、つまり、不思議探求部の部長であり、私の親友獅子谷愛だけだ。それに、
「この箱に入っていたメモにもそれを示唆するものだよね。この書かれた本自体に意味がある。『おくり逢う』は夏の文通の出来事を、『本棚のある生活』は秋の図書室での出来事を、『月のカーテン』は私がレオに最初に薦められた絵本、これは不思議探求部を作ってすぐの頃だった。つまり、始まり、出会いの意味があった」
「なるほどね」
レオはそれだけ言うと、はぁーと息を吐く。その息は寒さによって白く、目に見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます