⑥
これまた、先生はなんの戸惑いもなく進んでいく。ここの図書室の本は決して少なくはない。なのに、なんの迷いもない、改めて狼乃森先生の凄さを知った。
次の本は、なんとあの秋に見た『定番のお弁当おかず百選』があった棚の近くにあった。狼乃森先生はその本を棚から取り出す。
『本棚のある生活』メモに書かれていた本。表紙にはタイトルにある通り、綺麗な本棚の写真が載っている。
「この本は、見て判る通りです。世界中のあらゆる本棚の写真が載っています」
「世界中のですか?」
「ええ。この図書室のような場所の本棚もあれば、個人宅の家にある本棚。様々な本棚の写真が載っている本、いわば写真集に近いものかもしれません」
先生はそう言うと、本を開いて、数ページ見せてくれる。そこには、先生の言った通り様々な本棚の写真が載っていた。
しかし、本棚の写真はどれもオシャレだ。将来、私も一人暮らしとかしたらこんな本棚を……いや、こんなオシャレな本棚を置いているイメージが湧かない。きっと、レオの部屋ならあり得るんだろうな。実際、不思議探求部の部室にある本棚は、あの部室の雰囲気に合っているしね。
とりあえず、この本もあった。なら、次は最後の本だ。この本は、私は一度読んだ事がある、レオに勧められてとても良かったのを覚えている。
「先生、それじゃあ、最後の本もお願いします」
後はあの本がここに在るのかを確認するだけだ。先生の方を見るが、先生その場から動こうとしない。どうしたのだろう?
「兎月さん、申し訳ないのですが。『月のカーテン』はこの図書室には在りません」
「えっ」
『月のカーテン』がない。どういう事だ。メモに書かれた本は図書室にあるパターンではないのか。秋の時は全部この図書室に在ったが、今回のこれはそのパターンとは違うという事なのだろうか。考えてみれば、秋の時にメモを書いた人物とは別の人物が書いているのだ、当然パターンだって変わって然るべき。
でも、ここまで似ていて、ここだけ違うというのも何か引っ掛かる。他の二冊は図書室に在るのに、『月のカーテン』だけがない。むしろ、その事を考えて見るべきなのかも。少なくと、レオならそう考える。
「先生、『月のカーテン』はずっと図書室には置いてなかったんですか?」
「少なくとも、私がこの学校に赴任してからはないと思いますが」
だとすると、やっぱりこの一冊だけがない理由も考えた方が良い。確か、秋の時は…、
「この二冊は、同じ年に出版された本だったりするのでしょうか?」
そう、秋は本の出版した年が一緒だった。それも、一つの意味になっていたのだが、
「いいえ。それぞれ違う年に出版されています。付け加えるのであれば、『月のカーテン』も違います」
「そうですか」
という事は、今回は、出版日は特に関係はないという事かな。
「先生、ありがとうございました」
「いえ、こういう時の為に私がいるので、気にしないで下さい。この二冊は借りていきますか?」
「いえ、申し訳ないのですが、今回は止めておきます」
「そうですか。気が向いた時に何時でも、借りに来て下さい」
「はい」
せっかく探してもらったのに、申し訳ないが、どんな本が知る事が重要なので、狼乃森先生には申し訳ない。図書室から立ち去ろうとした、私はふと疑問に思った事を口にした。
「そういえば、先生。今日は図書委員の人はいないんですか?」
今日ここに来た時に思ったのだが、普段なら図書委員の人がいるのに、その姿は見えない。こうして、先生と一緒に本を探している間ですら。
「今日は、委員の仕事は大丈夫の旨を、話をしていますから。だからでしょう」
「どうしてですか?」
「ちょうどテスト期間が終わり、三年生も自由登校になっています。この時期は図書室を利用する生徒は少ないんです。なので、正直な話私一人でも問題がないので、委員の生徒の中には部活に入っている生徒もいるので、あまり仕事がないと私が判断した場合は、委員の仕事はなしにしています」
「そういうことだったんですね」
そっか、イベントに浮かれている連中を見ていたが、そういえば、三年生はもう必要な授業は終わっているので、基本は自由登校になっている。なので、現在三年生がこの学校に来ている人は少ない。来年は私もそうなっているのかと思うと、うん、今は考えるのはよそう。
納得した私は、図書室を後にしようと入口に向かう途中、通りすがりにカウンターの方を見る。私の今いる角度から少しカウンターの中を見る事が出来た。カウンターの内側に設置されている台の上になんだか、布に包まれた物が置かれているのを発見した。
もしや、あれはランチクロスではないだろうか。私は後ろにいる先生の方を向くと、カウンターにある物を指差しながら質問する。
「先生。あれは先生のですか?」
先生は、私の指差している方を目で追い、何を指差しているのかを確認する。その存在を確認すると、「ええ」と頷く。
私は、その答えを聞くと、我ながらとてつもなく意地の悪い顔をしているのは間違いない。
「あれって、ランチクロスに包まれてるって事は、中身はお弁当ですよね」
「…はい」
「狼乃森先生はお弁当も作るんですね」
「……まあ、そうですね」
「へぇー」
先生にしてはとても歯切れの悪い答えが返ってくる。その反応間違いないと私は見た。先生から見れば厄介極まりない人間に違いない。
先生はおそらく秘密にしているだろうし、誰にも気づかれていないはずだ。まあ、私はあのお弁当を誰が作ったのかなんて、先生の反応を見れば判る、だが、ここはこれ以上意地悪をするのは止めておこう。二人が仲良くやっているなら私はそれだけで満足だ。
「すいません、先生。先生が料理も出来たなんてびっくりです。でも、料理もできる男性はいいですね」
私の言葉に先生は苦笑いをする。うーん、私にそんな気がなくても、先生からしてみれば、違うか。ここはもうこの話は止めて立ち去るのがいいか。
「それじゃあ、先生、ありがとうございました。今度はレオ…獅子谷と来ますね」
「え、ええ。ぜひ」
私は一礼すると、図書室の入口の扉を開けて、廊下に出る。
メモに書かれた本については、ある程度知る事が出来た。でも、新たな疑問も出来た。『月のカーテン』だけが、なぜ図書室にないのか。
秋の時は、本自体に意味があった。なら、まずはメモに書かれた本の意味を考える方が見えてくるものがあるかもしれない。
だとすると、この三冊が私とってなんの意味なのかということか。うーん…あれ、待てよ。もしかして。
私は急いで、ある場所に向かう。もちろん廊下は走らずに。
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