③

 その後もレオからの返信は特になく、もしかしたら具合が悪くて寝ているのかもしれない。四時間目の授業も終わり、昼休みになった。


 私は何をしているのかというと、現在被服室で昼食を食べている。相変わらず被服室は誰もいなかった。今日のお弁当はサンドイッチで、タマゴ、ツナマヨ、ハムとレタス、この三種類のサンドイッチで、お母さんが作ってくれた。普段はごはんが多いのに、珍しい。


 いつも昼食を食べているレオがいないので、部室で食べるわけもなく、他のクラスの友達から誘われたが、今日だけは一人になりたかった。


 というのも、私は一人にならなければならなかった。その原因ともなっている物があるからだ。私は、サンドイッチを食べてご馳走様をして、買ったカフェオレを一口。レオのコーヒーが恋しい。一息つくと、私は今現在の状況になった原因の物を鞄から取り出した。


 それは、私の下駄箱に入っていた包装された箱だ。朝はしっかりと観察することはしなかったが、こうして見ると、綺麗に包装されている。ピンクと白のボーダー柄の紙で包装されていて、ご丁寧に赤のリボンも結ばれている。


 これは、もう本命以外の何物でもないのでは、ないか。箱には特に誰々へなんてメッセージはない。もしかして、間違えて私の下駄箱に入れてしまった可能性もあるのではないか。


 そういえば、春のあの手紙は、先輩と私に下駄箱に間違えて入れられていたことが、始まりだった。ということは、この箱も………。だとしたら、余計に中を開けて確認をしないわけにはいかない。私は、箱のリボンを解き、包装を出来る限り丁寧に解いていく。


 包装を解くと、白い箱が出てきた。私は、箱の上蓋に手を掛け、箱を開ける。中には、私が思っていた通り物が入っていた。


 一つは、チョコレート。しかし、ただのチョコレートではなく、まず色がチョコレート特有の茶色ではなく、ピンク色にコーティングされて、丸く成形されたチョコには何かの模様なのか凹凸が存在さる。チョコは合計三つで、一目見て手作りなのは疑いようがない。この時点で、本命は確定だね、うん。


 二つ目は、箱の中にはチョコ以外に折りたたまれたメモが入っていた。私は、そのメモを取り、メモの中を確認する。そこには、メッセージではないが、ある単語が書かれていた。


『月のカーテン』 鷺宮燐さぎみやりん

『おくり逢う』 蛇見じゃみろくろ

『本棚のある生活』 雨水社うすいしゃ


 それは、最初見た時にはピンっとこなかったのだが、よくよく見れば、それは本のタイトルと著者だということが判った。そして、カードの最後には名前が書かれていた。

 

 西井明日にしいあすか


 このチョコを作って私の下駄箱に入れた人物の名前なのだろうか。少なくとも、私には心当たりのない名前だった。


 しかし、やはりおかしい。これが、誰かに対しての物だとするならば、この内容では何を言いたいのか判らない。現に、私はこのメモに書かれている内容を読んでみても、なんにも判らない。


 それに、これでは宛名というか、誰々さんへ、みたいなのもないし、差出人のところにも名前はあってもクラスの表記がないのも少し違和感がある。


 これは、本当に私に対して送られてきたものなのだろうか? 春のあの再来だ。だけど、これは偶然なのか? 春と似たような状況。それに……。


 私の頭は混乱している。こんな時に頼れる親友はいない。ふと、携帯を見てみるが、ここにはいない親友からの返信は未だにない。


 昼休みの時間は決して無限にあるわけではないので、私は被服室から出て、自身の教室に帰っていた。東校舎から西校舎に戻るべく、昇降口の廊下を歩いていると、ふとある場所で私の足は止まった。そういえば、あの時もこうして被服室からの帰りに見たんだっけ。


 私の視線の先にはただ、廊下の壁しかない。しかし、去年の春ここには、あの絵が飾ってあった。


『約束』


 その絵のタイトルだ。私には美術的なセンスなんてものはなくて、とてもじゃないが絵の良し悪しなど判るはずもなかった。しかし、あの絵をレオが絶賛していたこともあったので、見てみようと思った。そして、実際あの時あの絵を見た時、私は確かにあの絵に惹かれた。その理由が見た時の私には判らなかったが、あの絵に込められたものに強く惹かれたのを覚えている。そして、その意味にレオは強く興味を持って、それから…。


 まあ、作者があの絵に込めたものの意味は、たった一人の人に向けられていたものだったのだが、それでも、見た人をあそこまで惹きつけるのはすごいと思う。あの時、レオは見た人それぞれが感じる事が大事だと言っていたなあ。


 今あの絵は、美術部にあるらしい。なんだか、久しぶりに見てみたい。美術部の誰かに頼めば見せてもらえるのだろうか。


 そんな事を考えながら私は、止めていた足を再び動かし始め、その場から離れた。

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