最終章 冬の桜
①
私たちが住んでいる、この猫巻町は都会かと言われればそうでもなく,かといって田舎なのかと言われても、そうでもない、そんな中間な町だ。だが、こんな町でも、世間のイベントには敏感だ。町のコンビニや偶に行く商店街などは、そのイベントに便乗した商品であふれ返っている。
季節は冬の二月。去年はいろいろな事があったな。いつの間にか入部させられていたレオの
やっぱり、二月は寒い。当たり前ではあるのだが、寒い。ついさっき登校前に見たニュースでは、雪が降る可能性もあるという。勘弁してよね、どおりで朝からこんなに寒いわけだ。学校になど登校せずに、炬燵でぬくぬくしていたというのに。
通学路で同じ方向に向かう
最近は去年の遅刻のし過ぎが度を越えてしまった為に、お母さんの私を起こす容赦のなさが目立ってきた。布団をはぎ取られて起こされる。これは一切の誇張はない。ありのままの事実である。
そのおかげか、今年に入って未だ遅刻はゼロという、私にとってはすごく頑張っている。だが、逆にクラスの友達から心配され始めた。
「遅刻神のしずくが遅刻しないなんて、体調悪い?」
などと、本当に見当はずれもいい心配をされて、私は困っている。どうなったら、体調が悪くて遅刻しなくなるというのか。全くもって解せない。それこれも、遅刻神などと変で不名誉な称号を私につけた、担任の鳩峰先生のせいだ。
しかし、時折見せる妙な鋭さを見せるのはなんのだろう。本当に掴みどころのない不思議な人だ。今度の不思議探求部の部活動の対象は、鳩峰先生にしよう、そうしよう。そして、私の遅刻神などという不名誉極まりないあだ名を撤回させよう。
校門の前を通り、私は昇降口を目指す。早く教室に入って、温まろう。ちなみに雲鷹高校にはしっかりと暖房器具が教室に設置されていて、教室内は快適だ。室温設定は二十度設定であることも忘れてはいけない。
昇降口の扉を開き、自分履いている靴を脱ぐと、上履きに履き替えるべく、自身の下駄箱に向かう。
その途中で、数人の生徒が下駄箱を開けるなり、一瞬フリーズしたかと思うと、目にも止まらぬ早さで、何かを鞄に入れるたようだ。目にも止まらぬとは言ったが、私の両目はしっかりとそれを捉えていた。あれは……。いた、落ち着け、私、冷静になれ。ふぅー。
そういえば、去年の春に私の下駄箱にあの手紙が入っていたんだっけ。最初それを見た時は、私にもようやく春がきたかと思って舞い上がってしまったなあ。結局その手紙は私に対しての手紙ではなかったわけだけど、そのことについては本当に残念でならないが、結果としては、良い結果に落ち着いたからいいけど。
そんな、懐かしい事を思い出しながら、私は下駄箱の扉を開ける。中には、私の上履きと見慣れない物が入っていた。私は一度扉を閉める。ふぅー。もう一度扉を開ける。見間違いではないみたいだ。
私は下駄箱に入っている物を手に取る。それは、包装された箱のような物だ。まさか、爆弾……そんなわけはない。だが、これは間違いない。今日という日を考えれば、そうとしか考えられない。
二月十四日、世間ではバレンタインという阿鼻叫喚の日である。私だって、毎年この日にイチャイチャしているカップルを見る度に、そのチョコレート溶けてしまえ、などと恨みを込めた念を送っていたものだ。
しかし、実際に私にこうして、チョコレートが……いや、まだ中を見ていないので、チョコと断定する事はできないが、まあ後で確認するとしよう。
うん? ちょっと待てよ。そもそもバレンタインって女子が男子にチョコを渡すイベントではなかっただろうか。それが、なぜ、私の下駄箱に入っているのだろう? でも、今は同姓どうしでも渡したりするし、関係ないのかな。
私はそう結論づけると、その箱を鞄に仕舞う。なんだか、この既視感はと思ったが、さっき春のあの出来事を思い出していたので、その時の行動と同じ行動をしてしまっているからだ。まてよ、あの時私はレオに手紙を仕舞うところを見られて……。
思わず辺りを見回してみる。しかし、レオの姿はなかった。そんな都合よくいるわけがないか、流石に。
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