⑯
「ねぇ、レオ」
「なに、しずく」
「お店繁盛し過ぎじゃない」
「嬉しい限りだね」
私たちの教室に用意した四人掛けのテーブル席を、全部で八席ほど用意したのだが、今はそのすべてが埋まっている。いわゆる、満席という状態だ。
一応料理が来てから、四十分という制限を設けているのだが、お客さんの足を遠のく事はなく、今ではクラス総動員している。レオの言う通り嬉しい悲鳴だ。
ちなみに、レオは厨房という名の教室の一つを仕切って作った作業場を仕切り、私はホールという名の、2―Aの教室内の接客に勤しんでいる。
あの日から特に何があったという事は特にない。次の日にあった時は狼乃森先生も砂月先生もいつもとなんら変わったところはなかった。だから、あれからどうなったのかは正直な話判らない。レオにもその事を伝えたのだが、「本人達のみぞ知る、だね」それ以上の事は何も言わずに、これと言って動く事はなかった。
などと、思っているとあっという間に文化祭当日を迎えたのだ。そして、現在のこの忙しさである。
なぜ、こんな事になっているのかというと、要因は大きく分けて二つある。一つは、コーヒーの美味しさである。料理はすでに調理されているものを温めるだけなのだが、飲み物、特にコーヒーはレオがすべて淹れており、その美味しさが人を呼び、さらに人を呼んでいるのである。そして、もう一つの理由は、私たちが着用しているエプロンである。このエプロンを私たちは自分たちで加工を施したのだが、それが同年代の子たちにとても評判が良かったらしく、常に写真一緒にいいですかとせがまれて、ちょっとした有名人な気分だ。
まあ、こんな感じで私たちの2―Aは大盛況である。今は、注文した料理や飲み物をお客さんに持っていたので、席は埋まっているが、これといってやることがないので、こうしてレオの様子を見に来たのだ。
「はあ、接客って初めてやったけど、疲れるね」
「そう? 私から見れば十分適正はあるように思うけど」
「そうかな」
自分では判らないが、そうなのだろうか。
「新しいお客さん来たから、お願いしていい?」
「オッケー」
同じ接客担当のクラスの子に呼ばれて、私はホールに戻る。そこには、私の見知った人たちが来ていた。
「砂月先生、狼乃森先生、来てくれたんですね」
狼乃森先生はいつもの紺色のスーツ姿で、砂月先生も同じような紺色のスーツ姿だった。なんだか、この二人が揃って来るという事に、私は緊張してしまう。
「ええ、ここのコーヒーが絶品だと羊佐和先生から聞きまして」
「忙しいのにごめんね」
「いえいえ、二人は、今はお客さんなので。どうぞこちらへ」
私は、二人を席に案内する。二人は案内した席に向かい合わせに座ると、狼乃森先生は席に設置されている、メニューのコーヒーを指す。
「コーヒーだけでいいですか? 一応軽食ありますけど」
「食べてきたばかりなので大丈夫ですよ」
「砂月先生も同じもので?」
「うん、お願い」
「かしこまりました」
私はそう言うと、厨房に向かう。
「レオ、コーヒー二つで」
「判った」
レオは相変わらずの手際の良さで、コーヒーを淹れ始める。
「ちなみにだけど、注文したのはあの二人だよ」
完全に必要のない情報かもしれないが、私は我慢出来ずに言ってしまう。レオは私の言葉を聞くと、一瞬手を止めると、
「なら、とびっきりの一杯をご馳走する」
そう言って再開する。
レオが淹れたとびっきりの一杯を二人の席まで運び、それぞれの前に置く。ガムシロップなどは、テーブルに常設されているので、お好みとなる。
狼乃森先生はブラックで、砂月先生はガムシロップを一つ使い、プラスチックのスプーンでかき混ぜる。ほぼ、同じタイミングで飲む。一口飲むと、狼乃森先生は私に言う。
「獅子谷さんに美味しいと伝えてください」
「判りました」
私が淹れたわけではないが、我が事のように嬉しい。これ以上は、流石に邪魔できないと思い、私は二人の席から離れる。
少し離れて、二人を見る。砂月先生が楽しそうに喋り、それを狼乃森先生が頷きながら聞いているだけだが、微かに笑っている。レオの言う通り、これ以上の詮索は不要だ。
「二人とも美味しいって」
「当然」
私はレオに先程の事を報告した瞬間に、親友はドヤった。やれやれ可愛いやつめ。
「でも、この人気なら、文化祭の人気投票一位も夢じゃないね」
雲鷹祭は来場してくれた人にパンフレットを配っていて、そこに付いている投票券にどこが良かったかを書く項目があり、それを書いて昇降口にある投票箱に入れられる。そこは、生徒会が管理しており、不正は出来ないようなっている。そして、最後に生徒会が集計して発表されるのだ。
「もちろん、狙うよ」
そして、報酬ゲットだ!
そんなこんなで忙しい二日間は終わりを告げた。この二日間は働くばかりでなく、しっかりと遊ぶ方も満喫した、特にレオと一緒に行った料理研究部は凄かった。事前にパンケーキを食べていたから、知っていたが、他の料理もそれに勝るとも劣らない美味しさだった。レオは試食の時から更に腕を上げていると言っていた。これが、部活動って絶対嘘だろと私は料理を食べながら、思った。その思った事は、料理研究部が人気一位という結果によって私の思いはみんなの思いであり、総意だった。私たちのクラスは惜しくも二位という結果になり、クラス全員が悔しがっていた。妙なところでこのクラスは一位団結をする。こうして、今年の雲鷹祭は終わりを告げた。
こうして、秋の一大イベントの終わりは季節を秋から冬へと変わっていく事を告げているようだ。実際、最近は寒い日が多いし、秋に紅葉していた葉は、その役目を終えて、散っている。今年はもしかして雪が降るかも。
そういえば、賞品で貰ったこの図書券何に使おうか。そうだ、
「レオ、何かオススメの本って何かある?」
「参考書」
「…………」
その本以外で何卒お願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます