⑫

「本ついては、大体こんな認識。じゃあ、次はメモについて。私達はこのメモがただ借りる本をメモしただけじゃないと思っている。その理由はしずくも判っている通り。このメモは明らかに誰かに対して向けられたものだと考えられる。では、受け取った人物が私達と同じように、この本を借りて、四冊の内容を知ったとしようか。当然、その人物は考えるこのメモを渡した人物はどういった意味でこの四冊を自分に向けて書いたのかを」

「当然だね。実際私たちだって考えているわけだし」


 それが、判らないから苦労している。


「ちなみにだけど、しずくはこのメモをやり取りしている人物達の正体は何だと思う?」


 うん? 正体?


「それは、この学校の人たち、そして図書室で借りる事が出来る人物だから、ここの生徒でしょ」


 それ以外には、ないだろう。図書室を利用出来て、そこの本を借りる事が出来るのは学生しかいない。


「その二人の関係は親密だと思う?」

「それはそうでしょ、こんなやり取りしてるぐらいだし」

「その事を踏まえて、もう一度本の内容を考えてみて」


 その事を踏まえてって……いったいレオは私になにを求めているのだろうか。私は、改めて考えてみる。その事を踏まえてもなにも………おや? いや、でも、一冊だけ意味が…。


「しずく何か気付いた?」


 私の反応から読み取ったのだろう。レオが訊いてくる。違うのかもしれない、けど、今私は少なくとも三冊までは関連付けられた気がする。


「もしかしたらだけど、『四季恋』『定番のお弁当おかず百選』『中高生の文化祭特集』この三冊って、学生生活に関連してるのかなって」


 そう、この三冊がどれも、学生生活に関連している。『四季恋』は恋愛模様が主だが、舞台が高校生の学生生活がある上で展開している。二冊目の『定番のお弁当おかず百選』これも、高校生の昼食は校内にある売店で買う生徒もいるが、ほとんどの学生が弁当を持参して昼食を食べている。そして、三冊目『中高生の文化祭特集』これはもう言わずもがな、学生のお祭りで、学生生活の大きなイベントの一つだ。でも、そうなると、最後の一冊だけが、どうしても浮いてしまう。

 高校の授業に哲学はないし。この本だけが関連していない。


「ちなみに、だけどプラトンは恋愛についても語っているんだよ」


 レオは、今まさに頭をフル回転させている私に助言めいた言葉を掛ける。恋愛についても語っている……このタイミングでレオが言うということは。その時、私に雷が落ちた。いや、実際に落ちたわけではなく、閃いたということなので、心配なく。


「レオ、私判ったかもしれない」

「ほう」


 いや、ほうって。レオは何故だが知らないが、腕組んでいる。どういうポジションなの、それ。まあ、いいや、今は私の考えを聞いてもらおう。


「メモに書かれた本は、レオの言った通り本自体に意味があったんだよ」

「その意味は?」

「うん。一冊目の『四季恋』はメモを置いた人と受け取る人の出会いから今までの学校生活を示唆している本」


 一冊目にこの本が書かれていたのは、二人の現状と近い状況を示唆したかったから。レオに聞いた内容は、一年を通しての二人の高校生の学園生活が書かれているから。



「二冊目の『定番のお弁当おかず百選』はおそらく、二人はお弁当を一緒に食べる仲だった」


 さっきのレオとのお弁当の件から、思い付いた事だ。


「三冊目の『中高生の文化祭特集』はちょうど今まさに私たちの高校の、雲鷹祭の事を指しているのは間違いないね」


 ちょうど図書室に特集コーナーが設置されているぐらいだしね。


「四冊目の『よく判る哲学 プラトン編』これが一番の意味が判らなかったけど、レオの一言で判ったよ。ここでは、プラトンの哲学を違う形で示したかったんだよ。洞窟の比喩の話の中で、人が振り返るって話が出て来たよね。そして、恋愛を語っているということ。つまり、この本の意味は、相手を振り向かせる、つまり、恋心があるという告白の意味だったんだよ」


 四冊目は、メモを書いた人物の意思表示だった。


「しずくはこう言いたいわけだ。これは、メモを書いた人物の告白のメモだった」

「そういう事!」


 おそらく、この四冊を借りてその内容を知れば、メモを受け取った人物はメモを書いた人物の心意にどこまで気付くかは判らないが、それでも、好意を持っている事を伝えようとしたのだ。メモというヒントを置いて、相手に拾うように言って。


「どう、レオ?」


 結構私的には頑張ったんだけど。期待を込めて、レオを見ると、レオは組んでいた腕を解いて、拍手をしていた。


「しずく、成長したね」


 レオは私に賞賛の言葉を送ってくれる。お、もしかして、レオも同じ考えだったって事だよね。何だかんだで、レオと一緒に部活動と言っていいのか判らないが、行動しているおかげでレオの考え方が身に付いたってことなのかな。


「しずく、私から二つ訊いてもいいかな?」

「うん、なに?」


 上機嫌な私は弾んだ声で答える。


「まず一つ、どうしてあの場所にメモを置いたの?」

「えっ、それは……あそこがちょうど空いていたからとか」


 他に理由なない…はず。

「じゃあ二つ目、メモのやり取りをしようとしていた人物達は誰?」

「はい?」


 そんなの特定できるわけがない。だって、メモには個人を特定出来るものはなに一つ書かれてはいなかったし、対象はおそらく、学生、それこそ数が多すぎる。


「その感じだと。特定は無理って事だよね」

「当たり前だよ。だって、これは学生同士のやり取りだよ。特定のしようがない」


 そう特定は無理だし、なんであそこに置いていたのかだって、このメモを秘密にやり取りする為に偶然空いていたあの空間を利用したに過ぎない。それ以外に何が…。

 待って。レオがこういう風に訊いてくるという事はもしかして…。


「レオには判ったの?」

「モチのロン」


 なぜ、ここでふざけるのでしょうか、この子は。

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