⑪
レオの話を聞いた私は考えている。さっきのイデア論を聞いた時は、すごい発想をするものだと思った。今回の話も状況が凄いけど、さっきのイデアの事と一緒に考える。
「レオ、今の話って、明かりで照らされている物がイデアで、影絵の方が私たちの生きている状況って感じなのかな?」
私の発言にレオは目を丸くする。あれ、なにその反応? 変なことでも言っただろうか。
「レ、レオ?」
「う、うん」
私の言葉にレオは正気に戻った。だが、まだ戸惑いが隠しきれていない。
「ご、ごめん。あまりにもしずくが的を射た発言をするからびっくりして」
「そんなに?」
「本当に驚いた」
レオの言葉に照れてしまう。えへへ。
「これを少しでも、勉強に活かせれば…」
「一言多いよ」
本当に多いよ、レオ。
「しずくの言う通りだよ。この話において、何が重要かというと、影絵に惑わされることなく、明かりの方を見て、そして明かりに照らされた物を見るようにしなければならないという事」
哲学というものはやっぱり難しいと本当に思う。けど、レオの話を聞いて、面白いと思っている自分もいる。
「とは言っても、これが現代に合うかと言われるとそうでもないけど」
「まあ、それはね」
なんというか、この話は今を生きる私にとっては空想めいている。
「プラトンの哲学もそうだし、それ以外の哲学もその時代背景が大きく関係しているから、当然その時代時代によって変わる。でも、当時の人にとっては誰もが考え付かなかったものであることは間違いないし、その考え方を今日までいろんな人達が考えて、発展させてきた」
「レオがなんで思考し続けるって言った意味が判った気がする」
私の言葉にレオは軽く微笑むだけだった。なんだか、目の前のこの本を読んでみたいという気持ちが芽生えてきた。しかし、私たちには他にやるべきこと、考えるべきことがある。
「ねえ、レオ。四冊がどういう本なのかは、だいたい判ったけど、結局この四冊が持つ意味って何だったのかな?」
そう、私たちはメモに書かれている本自体に何か意味があると考えて、こうして、四冊の本がどういったものなのかを知るために、読んでみたり、レオに内容を聞いたりしたわけだけど、私にはその意味が未だ見えない。むしろ、本当に意味などあるのだろうか。
「この四冊に意味があるのか、その意味が何なのかは私には判らないよ。やっぱり、意味なんて、私たちが深読みしてるだけで、メモ自体も本当にただ借りたい本を書いただけかも」
「じゃあ、しずくも気になっていたメモがどうしてあんな場所にあったのかは?」
「それは……偶然落とした時に、あの空間に入ったとか…」
私はそう言うが、どんどん言葉尻が弱くなり、視線も段々と下がっていき、目の前の何もないテーブルを見てしまう。今言ったことを私自身が本心からそう思っているわけではない証拠に他ならない。でも、そうとしか思いつかないのもまた事実なのだ。
「しずく」
レオは私の名前を呼ぶ。逆に私は聞いてみたい、レオはこの四冊から何かしらの意味を見出す事が出来たのかを。
そんな、視線を下げた私の目の前に、食べ掛けのパンケーキが乗った皿が現れる。私が横にずらした私の食べ掛けのパンケーキ。それを、持って来たのはレオだろう。だが、なぜ? 私は下げていた視線上げ、レオを見る。すると、レオは手に何か袋を持っていた。
「糖分が足りてないね」
レオは手に持っていた袋を私のパンケーキの上まで持ってくると、袋を絞り始めた。すると、すると袋の先端からクリーム状の物体がパンケーキに装飾される。
「こ、これは!」
その正体は、ホイップクリームだ!
「更なる、甘美の世界へ」
レオはクリームの装飾を終えると、どうそと勧める。私は、魔法を掛けられてしまったかのように、なんの疑問も抵抗もすることなく、フォークとナイフを持つと、切り分けたパンケーキを口に運ぶ。
その瞬間の衝撃を私は忘れない。
先程までの甘さとは比較にならないほどの、甘さのラッシュが止まらない。いいのか、こんなものを食べてしまって、いいのか。しかし、この甘さが病みつきになる。女性にとってはこの甘さは敵だ。でも、食べる手が止まらない。
「このクリームも研究部の自家製だよ、どう?」
「はいほうえす!」
ハムスターのように頬を膨らませて即答する。そんな、私の反応を見て、レオは微笑むと、自身のパンケーキにもクリームを付け、食べる。ほとんど表情は変わらないけど、私には判る。レオはとんでもなく喜んでいる事が。
そして、レオは紅茶を飲むと、私の方に意識を戻す。
「さてと、補給も終えたところで、再開しようか。しずくは、私が四冊の本がどう意味を持つのか訊いてきたね。私の考えを答える前に、私と一緒に考えてみよう」
「へっ?」
一緒に考える? というかその口ぶりからすると、レオは何かを見出しているよね? でも、レオがこう言うって事は何かあるのかも。
「まず、最初の『四季恋』この本から」
そう言って、さっきと同じように、『四季恋』をテーブルの中央に置く。
「この本は恋愛小説。ストーリーは男女が出会ってからその恋が実までが描かれている」
「うん」
それはさっきレオが説明してくれた。
「そして、二冊目は『定番のお弁当おかず百選』」
レオは『四季恋』と入れ替えるように『定番のおかず弁当百選』を置く。
「料理の作り方。それも、弁当に合うおかずが百種類載っている」
「うん」
それは見た。
「三冊目は『中高生の文化祭特集』」
また、本を入れ替える。
「全国各地の文化祭の特集をしていて、出し物やイベントごと後夜祭の様子が写真などが載っていた」
「うん」
それも見た。
「最後が『よく判る哲学 プラトン編』」
またまた、本を入れ替える。
「これは、さっき私は本の中身を見たけど、プラトンについて、イラストを用いたりして、プラトンの考えや今までの軌跡を判りやすく説明している」
「うん」
本の中身は熟読していないけど、さっき本をパラパラと見た時に、イラストが結構あっ
たから、そうのだろう。だけど、それらはもう知っているし、繰り返す必要がないものでは? 私は我慢が出来ずにレオに言おうとする。
「ねえ、レオ…」
そんな私の言葉をレオは遮る。
「まあ、待ってしずく。まだ私のターンだから」
「はあ」
そう言うならば、もう少し聞いてみよう。私は自分の発言を止めると、レオに先を促す。
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